表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵画大戦  作者: 式守伊之助
第4章 ヒエロニムス・ボス作「快楽の園」
21/43

第21話 バラエティに富んだ援軍

 ハネツグたちはプラド美術館をつらぬく大通路に出て、さっそくピンチにおちいった。通路の両側に魔物がびっちりと配置されていたのだ。


 先頭にセネカの姿を見つけて、駈け出そうとするハネツグの腕をリザがつかんだ。


「セネカはガイセリクに乗っ取られているの。あなたの声はとどかない」

「でも、だったらどうすれば……」


 リザはガイセリクの背後に隠れるように立っているマレーネを見つけ大声で名前を呼んだ。マレーネはびくついたあとガイセリクの肩ごしにリザを見た。


「あなた、自分が何をしたか分かってるの? ガイセリクを解き放ったのよ!」

「わたくしは……そんなつもりは」と涙目でつぶやく。


「アダマンチンの剣も、可愛い部下たちも返してもらったぞ。あとはお前たちを倒してプラド美術館を掌握しょうあくすれば投了だ」


 ガイセリクが右手を大きくあげ、それを合図に魔物たちが戦闘態勢をとる。


「……くるぞ」


 マルガリータは重機関銃のボルトを引いて、銃床を肩にあてた。


「厳しい状況ですなあ」


 前後を魔物に囲まれているだけでも窮地なのに、ハネツグはセネカを前にして動揺しているし、リザもそんな彼を止めるのに必死で、まともに戦える状態ではない。


 ガイセリクが右手を下し、魔物たちが走り出そうとしたとき、彼らの背後で派手な破壊音がとどろいた。


 魔物たちは立ち止まり、振り返った背後に見えたのは、悲鳴とともにとび散る肉塊と骨片、血しぶき、それらの向こうに高く掲げられた複数の十字架だった。


 何が起こっているのか分からず、茫然ぼうぜんと立ち尽くすハネツグたちの前で壁が吹き飛び、空いた穴から「最後の晩餐ばんさん」のイエスが現れた。


 彼は小鬼こおにをつかんでいて、通路に出ながらキーキー鳴いている小鬼の首を眉ひとつ動かさずねじ切って捨てたあと、リザやハネツグに気づいた。


「兄弟たちを呼んできました。これよりガイセリクを封印します」

「兄弟たちってもしかして」


「ええ、ヒストリカ中にあるイエスの名画たちです」

「アダマンチンの剣をガイセリクに盗られてしまったわ」


「そう言えばそんな事お願いしましたね」

「なに忘れてるのよ。ガイセリクを封印するのに必要なんでしょ」


「べつに必要というわけではありません。あれは貴重な聖遺物ですから、ガイセリクを理由にあなたを使ってマルガリータ姫から借りパクできたらいいな、と思ったまでです」


 しらっと言ってのける晩餐ばんさんのイエスを、リザは唖然あぜんと見つめる。


「そんなに心配そうな顔しなくて大丈夫。ガイセリクは私たちが封印します」

あきれてるのよ!」


 そのとき晩餐ばんさんのイエスが空けた壁の穴からひとりの男性が姿を現した。


 長いドジョウひげを延ばした東洋人で、頭をり上げており、天頂部てんちょうぶの髪だけは長く伸ばし、それを編んで腰のあたりまで垂らしている。両手は胸の前で交差するようにそでに入れていた。


「彼は名画『アヘン吸ったら神降臨』に描かれた弁髪べんぱつのイエス。イタリア人画家ジュゼッペ・カスティリオーネが清朝皇帝・乾隆帝てんりゅうてい献上けんじょうした名画です。中国の故宮博物館まで行って呼んできました」


 弁髪べんぱつのイエスは頭をさっとすばやく振って弁髪を首にクルクル巻きつけたあと、背負っている偃月刀えんげつとうを四つつなげた十字架を手にとった。

 そして怪鳥けちょうの雄たけびに似た声をあげて魔物たちへ向かって行った。


「あれがイエス?」


 ハネツグの疑問に晩餐ばんさんのイエスがうなずく。


「同じ宗教でも布教範囲が広まるにつれ土着どちゃくの風習や文化から影響をうける。結果、多様なイエスが描かれるのです」


 またひとり壁の穴から出てきた。


「魔物はどこにいるのかしらぁ」


 透きとおる声にもしやと思い、姿を見てやはりと確信する。今度はブロンドをなびかせる美しい女性があらわれた。


「……もしかして、この人も?」


「はい、彼女は名画『マグダラのマリアとアロマりっこイエスッ!!』に登場する百合ゆりのイエスです。


 フランクリン・ルーズベルト大統領の夫人エレノア・ルーズベルトが画家ジョージア・オキーフに依頼して作らせたのですが、内容が煽情的せんじょうてきすぎて公開できず、ホワイトハウスの物置でほこりを被っているところを私が呼んできました」


 もう何でもありだな、とハネツグは思う。


 百合のイエスは角の尖った黒ぶち眼鏡を指でクイッと上げ「よろしくぅ〜」と語尾を伸ばしながらハネツグの前で立ち止まると「っね!」の一言で前のめりになった。 

 はだけた襟元えりもとで胸の谷間が波を打つ。


 性別の違いは当然として、眼鏡の着用も地味にツッコミどころだ。

 

 目のやり場に困って、視線を明後日の方向に逃がしながら挨拶を返したハネツグに小さく頷いたあと、百合のイエスは「さてぇ」と魔物たちに向き直り、腰に巻き付けていた鞭をとりだし床にぴしゃりと打ちつけた。

 先端が三又みつまたになっているので、見方によっては十字架である。


「悪い子たちにはぁ」と、笑みで広がる唇に舌をわせながら、


「お仕置きが必要ねぇ」


 タダでさえエロい雰囲気を漂わせているのに、加えて、つりあがった眼鏡と鞭という組み合わせがマニア趣向に拍車はくしゃをかける。


 魔物の群れに飛び込んでゆく彼女を見送ったリザは、晩餐ばんさんのイエスに向き直る。


「助かったわ」


 リザの言葉に晩餐ばんさんのイエスは笑顔を見せた。


「間に合ってよかったです」

「おい、晩餐ばんさんのイエス」


 今度はマルガリータが語りかけ、晩餐ばんさんのイエスはリザに向けたのと同じ笑顔で応じる。


「お礼は不要ですよ、マルガリータ姫」

「プラドの壁に穴をあけるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ