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絵画大戦  作者: 式守伊之助
第3章 フランシスコ・デ・ゴヤ作「闇の奥」
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第16話 名画殺しのアダマンチン

 ウィニーを思う存分ぞんぶんいたぶったマルガリータは絵から出てきて、指の背でドレスの砂を払ったあと「では行くぞ、ハネツグ!」と快活かいかつに言った。


「……どこへ?」

「オルガスはくからアダマンチンの剣を借りたいのだろう?わらわも行くことにした」


 ベラスケスが手を上げて「わたしもお供します」


「そこまでしてもらうのは悪いから、許可だけくれればいい」

「あれは異界からもたらされた物でスペイン・ピクトリカの国宝である。刃に触れただけでピクトリカの住人は絵具に戻ってしまい、どんな固い絵画も破壊することができる。加えてに着いた筆を使えば名画を描き換えることだってできる、霊験れいけんあらたかな武器なのじゃ。よってわらわの同伴なしに持ち出すことは禁止しておる」


「マルガちゃん、私がきちんと管理するから」


 説得を試みるリザに向かってマルガリータはがんとして首を振り、


「行くと言ったら行くのじゃあ!ぷぎゃあっ!」


 目をつりあげながら地団太じだんだを踏むマルガリータには誰も勝てる気がしなかった。


「わかった。マルガにもついてきてもらう」

「ではまいりましょう。アダマンチンの剣が保管されてる名画『オルガスはく佩刀はいとう』はトレドという古都にあります。エル・グレコ回廊かいろうを通ればあっという間です」


 ベラスケスはマルガリータを肩に乗せて移動し、リザやハネツグもあとにつづいて歩き始めたとき、あのう、というか細い声が背後から聞こえた。


 みんな立ち止まって振り返ると、そこにいたのは完全に空気と化していたナポレオンだった。


 彼はちっちゃい身体を、よりちっちゃくしながら、「吾輩わがはいのお願いについては……」と口にしたナポレオンを「却下じゃ」とマルガリータが食い気味に拒否する。


「フランス軍をスペインに入れるなど言語道断。わかりきった話じゃ」


 この話は打ち切りだと言わんばかりにマルガリータはベラスケスに移動を命じる。そこを今度はリザがほだしにかかる。


「マルガちゃん、ナポレオンのお願いを聞いてあげて」


 マレーネを取り逃がした負い目からの言葉だった。


「泥棒ひとり捕まえるのに、なんで軍隊なんぞ使う?」

「逃げたり隠れたりが得意な奴だから、数で包囲するのが一番なのだ」


「名画たちが騒ぎだすぞ、特にここのゴヤなんかが」


 そう言って腕を組み考え込んだ。ハネツグはリザとナポレオンの視線を感じた。ひと押ししてほしいという懇願こんがんの眼差しだった。


「僕からも頼むよ。ナポレオンはピクトリカの平和のために動いているんだ。協力すればマルガの人気もあがるよ」


 まことか!鼻の穴がプクッと広がる。


「ヒストリカではマックス越えの人気に浸りきっているわらわが、加えてピクトリカでも名画の代名詞となる。それすなわちスペインが芸術大国として不動の地位を築いたに等しい」


 考えのすべてが口から洩れている。


「仕方ない、ナポレオンよ、今回に限り軍の駐留を許可しよう」


「おお!ありがたい」

「泥棒を捕まえたら、さっさと撤退するのじゃぞ」


「心得ておる迷惑はかけん!チョッパヤで軍隊持ってきて、すぐ終わらせて帰るから!」


 ナポレオンは飛ぶように去って行った。


「あやつ、どうも信用ならん。隙を見せたら、グランダルメでわらわたちを攻撃しかねん」

「考えすぎよ、野心的だけど悪い人じゃない」


「そうであればいいが」 


         ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 立ち込める霧のせいでりガラスをとおしたように目先の利かない世界を、ハネツグたちは探りながら進む。


「……おかしい」


 マルガリータが静かにつぶやく。


「こんな風景ではなかったはずじゃが」

「いつもなら、遠くからでもオルガスはくを称える歓声が聞こえるはずです」


「『オルガスはく佩刀はいとう」ってどんな絵画なの?」

「カトリックの敬虔けいけんなる信者だったオルガスの首長ルイスが、その信仰の深さに感銘を受けた神々からアダマンチンの剣を拝領はいりょうするという絵画じゃ」


「剣は異界から来たって言ってたけど、異界って?」

「わらわも詳しくは知らんが、おそらく別の神話世界であろう。素材や造り方に未知の部分が沢山あって……」


 そこでマルガリータは何かに気づいたようにおっと呟いて、額に手をあてながら遠くを眺め「民衆がおる、あっちじゃ」と指をさす。


 近づいてみると、沈痛ちんつうな面持ちの人々が何重もの輪をつくっていた。彼らをかき分けて集団の中心にやってきたとき、マルガリータが驚きの声をあげた。


「オルガスはく!なにがあった!?」


民衆の中心にいたのは横たわるオルガスはくだった。マルガリータが彼のそばで両膝りょうひざをつき肩を激しく揺らすが、起きる気配はない。


「死ん…でる」


 マルガリータが周りの人々に何があったのか訊いて回ったものの、誰も彼もすすり泣くばかりでらちが明かない。


 すると突然、雲間から一筋の光が差してオルガスはくを照らした。


 ハネツグたちが顔をあげて目を凝らした先には、金色の聖衣をまとったふたりの男性が同心円状に回転しながらゆっくり降下してくるのが見えた。と同時に、どこからかパイプオルガンの演奏が流れ始める。


 嗚咽おえつや鳴き声が止み、オルガスはくを取り囲んできた人々は両手を組んで胸の前に置き、背伸びするように大きく息を吸ってから一斉に口をひらく。


「しゅーよー♪みもーとにー♪ちーかづーかんー~~♪」


「やめろ!聖歌なんて歌うな!」


 一糸乱れぬリズムで合唱する群衆に身体をねじ込んで、リザがマルガリータのそばに駆け寄った。


「マルガちゃんたいへん! 」

「リザ、どこ行ってた?こっちの方が大変じゃ、オルガスはくが死んどる!」


「ああやっぱり」

「やっぱり……、どういう事じゃ?」


「ヒストリカに出て絵画のタイトルを確認したら『オルガスはく佩刀はいとう』が『オルガスはく埋葬まいそう』になってたの」

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