『桜川、白妙の梨 〜過ぎゆく季節と、止まらぬ流れ〜』第8話:消え去った恋の行方
絶望の淵に立たされた沙織。彼女が最後に頼ったのは、やはり彼でした。
初七日が過ぎた。 沙織さんは、ある決意を胸に、井上先生のいる病院を訪ねた。
「井上先生に、頼りたかった……」 後で片瀬の私に、彼女は震える声でその時のことを話してくれた。 母を亡くし、心の支えを失った彼女は、広島へ一緒に行きたい。そばにいてほしい。そう願っていた。
しかし、井上先生の答えは非情なものだった。 「沙織先生……私は一人で広島へ帰ります。理解してください」 「……どうして? 私を残していくのですか?」
井上先生の顔もまた、苦悶に満ちていた。 「私は今でも後悔している。なぜ、君のお母さんを執刀してしまったのかと」 「先生……」 「お母さんを救えなかった私が、これから君と一緒に暮らす勇気がないんだ。広島で自分の母を見た時、君はお母さんを思い出して苦しむのではないか。私は、それを見ていられるほど強くない……」
井上先生は泣きながら、沙織さんを強く、壊れそうなほど抱きしめた。 それは愛の告白ではなく、永遠の別れの抱擁だった。
一ヶ月後、井上先生は広島へと去っていった。 愛する人と、最愛の母。 すべてを失ったかのように見える沙織さんの背中を、四月の残り雪のような静寂が包み込んでいた。
: 「愛しているから、一緒にいられない」。井上先生の決断を、どう受け止めるべきでしょうか。




