『風鈴』サバイバー~吹く木枯らしは夏の舞踏会への案内状~
俺は風鈴、名前は風吉。一本筋の入った絵柄の男さ。
ガラス職人の旦那の手を離れて以来、なんの因果か神社へ流れて、夏の見世物。
名物だかなんだか知らないが、揺れる俺を見上げられるのは悪い気分じゃあない。
だけども、今は冬。去年までなら箱の中でじっと夏を待つだけだった。
そう、祭りの終わりに神社のジジイが、倉庫の窓辺にちょいと引っかけて忘れてなきゃな。
お陰で、雨に打たれて水垢塗れ、短冊もすっかりほこりまみれ。
たまに揺れて、鳴ろうににも、倉庫からじゃ誰にも聞こえやしねぇ。
(鈴子さん…)
思い出すのは、金魚の絵柄の可愛いあの子。
夏に並んで揺らめいて、夫婦風鈴なんざ呼ばれたっけな。
すっかり薄汚れた今の俺なんざ見せたくねぇや。
「…さて、倉庫の整理をするか」
やって来たのは神社の跡取り婿殿。
「ん?風鈴が一つ足りないな…。まいったな、一応ウチの名物だし、新しいのを買い足すか?」
おい、頼むよ。こっちに気付いてくれ!俺はまだ舞える!俺は終わっちゃいねぇんだ!
頼むよ木枯らし!吹いてくれ!俺を鳴らしちゃくれねぇか…!
ーチリン
「あっ…。あんなところに、さては仕舞いわすれたな。んー、汚れてるけど、洗えばまだ使えるだろ」
恩に着るぜ。婿殿よ。感謝するぜ、木枯らしよ。
そこから、運ばれ家の中。
嫁さんにクエン酸だが重曹だかでしっかり擦られ、小綺麗に。今は食器と一緒にふきんの上。
逆さのガラスコップを見ていれば、思い出すのは金魚の影。ああ、鈴子さんに会いてえな。
「わー、何コレきれいー」
「なにかあったのか?」
「あ、兄ちゃんパス!」
ガラスを投げるんじゃねぇ!クソガキ!
頼む!そこな兄さん受け止めてくれい!
「…おっとと、危ないなぁ。駄目だぞ。急に投げたりしちゃ」
「こら!台所で遊ばない!もうすぐ、おやつのホットケーキが出来るから、手を洗ってリビングに待ってなさい」
「「はーい」」
恩に着るぜ。兄さん、嫁さん。俺はまた、生き残れたぜ。
時は移ろい、今は夏。
ーチリンチリーン、チリンチリーン
(鈴子さん…) (風吉さん…)
風に揺られる夫婦風鈴、はしゃいだように揃って揺らめく夫婦風鈴。
「わー、なんだか踊ってるみたいだね」
あの時、木枯らし吹かなけりゃ、踊れなかったこの舞踊。
見ること出来なかった夏の日差し。
木漏れ日に照らされる愛しい金魚。
ああ、全く……生きててよかった。




