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第7話 デスサイズ・オブ・リベリオン

 月夜の戦いの翌日、私とリリカは執行庁本部へと呼び戻された。

 かやは即座に一ヵ月の謹慎処分を言い渡されので、残された私たちは処罰容疑者を取り調べるような部屋でうおさんに事の詳細を報告している最中だ。


「君は本当に何一つ覚えていないのかい?」

「はい、気づいた時には朝になってました……」

 あの後、リリカが目覚めるまで待っていたのだが、よく眠れたらしく、晴れやかな顔で「おはよー」と挨拶したのだ。本人によると、コンビニからの記憶が抜けてしまっているみたいで、それ以上は何も思い出せないらしい。

 事のてんまつを伝えると、洗脳された彼女は申し訳なさそうに謝ってきたのだが、リリカは何も悪くない。守ってあげられなかった私の責任だ。もしあのナイフが本物であったのなら、今頃は死んでいたのかもしれないのに。

 私の認識が甘かった……。

 あの時先行せず、茅間を先に行かせていれば結果は違っていたのだろうか。

 

「茅間はやり過ぎた。洗脳された女性はみな全治一ヵ月以上。彼女たちのことを思うと胸が痛むよ」

 頭部の打撲と両足骨折。正直謹慎も甘いと思うレベルだが、あの状況では仕方がなかったのかもしれない。そもそも私は何の力にもなれなかったので、意見ができる立場でもないのだ。

「犯人は何故あの女性たちを集めていたのでしょうか?」

「犯人死亡のため全て判明しているわけではないが、現場に記録媒体が残っていてね。……君たちにはとても見せられないものだ」

 予想はしていたけど、改めて告げられると胸が締め付けられる。

「本人たちには伝えていない。少々強引だが、交通事故として処理したよ」

 ここで茅間の無茶振りが活きてくるのか。結果としては良かったのかもしれない。体の傷は治っても、心の傷は一生消えることはないのだから……。


「ナイフの男の身元は?」

 魚路さんは首を横に振った。まだ捜査中のようだ。

「『ナイフ・オブ・ジャック』。あれは執行庁で管理されていない物だった」

 それは犯人が使用した『S-()Pad(パッド)』。お母さん以外にも非公式な『S-Pad』使いが存在していたことには私も驚いた。

「執行庁以外でも管理されているのですか?」

「いや、あれは廃棄品だ」

 廃棄品? 失敗作ということだろうか。

さか博士は気まぐれでね。時折り意図をしないような『S-Pad』を作ってしまう」

 確かに洗脳なんて犯罪者向きの能力だ。いくらでも悪用できてしまう。

「あれは明らかに犯罪者向けの能力だったからね、廃棄を命じさせていたのだが……。どこかで流れてしまったのか、今は処分ルートから追っているが、期待は出来そうにないだろう」

「母のも……同じ理由なのでしょうか?」

「『デスサイズ・オブ・リベリオン』か。あれは……危険過ぎた。詳細は……すまないが話せない」

 都合の悪いことなのだろうか、魚路さんは先ほどまでと変わって真剣な表情で話す。


 これ以上母のことを聞くと要らぬ疑いを持たれそうなので、私は話を変えることに。

「今回の犯人のような人は、今後も増えるのでしょうか?」

「残念な話だが……実は昨夜、もう一人発見されている」

 血の気が引く回答に絶望する。あんなのがまだ存在するというのだ。

「だが安心してくれ、既にそいつは処罰済みだ。生け捕ったものの、情報は得られなかったようだが……」

「えっ」

「その処罰した者は、私や茅間と同じ第1級執行者でね。名は『こうひな子』。君たちはこれから彼女と共に行動してもらいたい」

 茅間が謹慎中だから宙ぶらりんになった私たちの異動先。またしても第1級執行者に。

「同じ女性同士、茅間といるよりは過ごしやすいだろう。少々気の難しい娘だが……」

 何か引っかかる言い方だが、ギターで殴られるより悪いことはないだろう。

「彼女は第2級執行者の女性を二人従えているので、茅間以上に連携は取りやすいはずだ。本当は私に付かせたいのだが、何ぶん多忙な身なのでね」

 どこかのいい加減な男と違って、彼女がいる拠点を詳細に教えてくれた。私たちの次の行き先は決まったのだ。

 

「『S-Pad』犯罪者は今後も増えると見ている。恐らく、組織的な犯罪だろう。今後ともより気を引き締めてくれ」

 私たちは大きく返事をすると、魚路さんは忙しなく部屋を出て行った。かなり忙しいのだろう。あちこち飛び回っているみたい。



 ――。


 

 私たちは本部を後にし、紅露さんの拠点へ行く前に緊急メンテナンスと称して、研究所へ入る手続きを進めている。どうしても博士に直接聞きたいことがあるのだ。

 

「意外と早い再会でしたねぇ」

 博士は両手を広げて快く迎える。電話だと盗聴されるので、直接話したかったからだ。彼の話によると、この研究室内に盗聴器の類は無い。基本的にこの人は自由なのである。

「話は聞いています。『デスサイズ・オブ・リベリオン』についてですかね?」

 察しが早い。私は静かに頷く。

「あれは私の最高傑作でしてね。余計な機能を排除したフルスペックの『S-Pad』なのです」

 博士は子供の様に、嬉しそうに語る。

「廃棄が決まったのはショックでした。まぁ、当然なんですけども」

 続いて頭をきながら自虐気味に話す。

「そこで、貴方のお父さんに保護してもらったのです」

 耳元で小さくささやかれる。

 まさかそれが原因で……。

「表向きには廃棄完了としましたので、今日まではバレてはいないはずですよ」

 それもそうか。私も『デスサイズ・オブ・リベリオン』なんて聞いたこともなかった。

「魚路さんはそれが危険だと言ってました。それはどのような危険があるのでしょうか?」

「能力ですよ。先ほど申し上げた通り、不要な機能を取り除いているので、強力な能力を二つ組み込むことが出来ました」

 一つ目は、私が直接見た死角から遠隔攻撃する刃。


 そして、二つ目の能力――。

 

「刈り取った相手の能力を奪うコピー機能。記憶できるのは二つ。つまり今だと、かかり君の『スピア・オブ・デターミネーション』と洗脳能力の『ナイフ・オブ・ジャック』を備えていると判断した方がいいでしょう」

 とんでもなく強大な能力に絶句する。凄まじい力を母は得ていたのだ。

「魚路さんは、何故そのことを私に話さなかったのでしょうか?」

「まだ貴女が信用されていないか、自分一人でケリを付ける気なのでしょうねぇ。彼ならそうしそうです」

 まだ信用されていない。それもそうか。そもそも私は母に関わってはいけないのだ。

 ……それなのに出会ってしまった。

 深夜のあんな場所で偶然出会うなんてありえない。また私に疑いがもたれても仕方がないだろう。そのためのお目付け役に第1級のこうさんが選ばれたのかもしれない。


「あのナイフ男も、博士が手術したのですか?」

 私はもうひとつの疑問をぶつける。これが真実なら大問題だ。

「『ナイフ・オブ・ジャック』は普通に廃棄に回したので、私ではありませんよ」

 ほっと胸を撫で下ろす。だからといって問題は消えないが。

「手術は博士以外にも可能なのですか?」

「一応可能ですよ。成功率は10%を下回りますが」

 何てことだ。それじゃあナイフ男の前に何人か手術で死亡している可能性があることになる。

「では、裏に流れた廃棄用の『S-Pad』は……」

「私には何とも……ですが、真奈さんとは無関係だとは思います」

 可能性とはいえ、その言葉に安堵する。母があんなことを許すとは思いたくない。事実、仕留めたのは母なのだから。いや、能力を奪うことが目的だったのかもしれない。私を助けるためだったのか、茅間を狙っていたのか……それは本人に直接聞かなければ知り得ないだろう。


「執行者の方々も大変ですねぇ。真奈さんと、もうひとつの組織、どちらも相手しなければならないのですから」

 元凶が他人事のように言う。

「廃棄とはいえ、失敗作ではありませんから。どんな形であれ、使用して頂けることは喜びなのですよ」

「でも洗脳は意図して作ったんですよね?」

「いえいえ、偶然の賜物です。決して意図したわけではありませんよぉ」

 冗談なのか本当なのか、よく分からない人だ。とりあえず聞きたいことは一通り聞けたので、軽く会釈し別れの挨拶をした後、資料を読んでいるリリカの元へ向かう――。


「お待たせ。進捗はどう?」

「うん、全部覚えたよ」

 私が博士と話している間、リリカには廃棄用の『S-Pad』の名前と能力を記憶してもらっていた。資料は持ち出し不可のため、全て頭に入れる必要がある。

「ごめん、こんな面倒なこと頼んじゃって」

「いいよ。こんなことくらいしか役に立てないし」

「そんなことないよ。私だって……」

 正直言ってこれ以上巻き込みたくない。前の戦闘では、下手をすれば殺されていたのだから。

「この先はもっと過酷になるかもしれない。本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。どんな事になっても、マキナを恨んだりしないよ」

 そういう意味じゃない。私はただ、私のせいで死なせたくないんだ。

 こうさんの件はリリカに対して大きな助け舟になるかもしれない。リリカが彼女たちと仲良くなれれば、私から少しでも離れるキッカケになるかもしれないから――。


 私と母の二人だけの復讐。それが大きな犠牲を伴うことを、今の私は知る由もなかった。

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