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第47話 質問タイム

 十七時の鐘が鳴り響くと共に、処刑エリアの扉が開く――。

 北上さんを追い出した才神は私に見向きもせずモニターへ釘付けになっていたが、次第に下卑た笑みを浮かべていくと、キーボードのキーを一回だけ押していた。それは扉を開ける合図。御代真奈――母を迎え入れる時が来たのだ。


 心の奥底で「お母さん、来ないで」と願う自分を仕舞い込んだ。叫びたい気持ちをグッと堪え、真っ直ぐ扉から来る人影を見つめる。

 私の不安で母の覚悟を揺らがせてはいけない。作戦通りに行っていれば、部長が母に全てを話しているはずだからだ。

 待っている間に上空の高柳さんのドローンから、リリカが処刑場に到着した合図が放たれていた。後はリリカが来るまで時間を稼げばいい。そして――。


 突然、両腕を縛っていた縄が独りでに千切れた。元々緩かった縄が勝手に千切れるとは思えない。振り向くと縄は綺麗な断面を作っており、それが母の手によるものだと私と才神は同時に感じ取る。

 死角からの斬撃が、私を傷つけずに正確に切り裂いたのだ。

「最初にすることがそれか。甘いなぁ」

 母は既に大鎌を携えており、負傷を感じさせない優雅な足取りで向かって来る。背筋が凍り付くほど冷徹な眼光は、かつて目にした別人と見間違えた母そのものだった。

「やあ、ずっとずっと……君に逢いたかったよ、真奈」

 モニターから離れた才神は、意気揚々と私が立つ処刑台の前へと歩いて行く。

「夫を殺したのは貴方?」

 くだらない発言に意もくれず、母は距離を詰めながら早々と本題を切り出す。

 部長の意図が伝わってないのか、できるだけ時間を稼がなければならないのに、それを聞くのは早計だ。想像以上に深手を負っていて余裕が無いのか、それとも本当に復讐心に囚われているのか。不利になると判っていても、どうか前者であってほしいと願いたくなる。

 後ろにいる私にすら伝わる殺意が、より一層不安を広げていた――。

 

「まあ、そう焦らないでくれ。互いに聞きたいことがあるだろう……。そこで、どうだい? お互い交互にする質問タイムといこうじゃないか」

「お断り」

 両手を使いながら大袈裟に演説する才神の案にも母は即断で拒否する。後ろで首を振る私の姿も見えていないのか。

「そう言わないでくれ。僕は全て正直に話すつもりだ。あまりにも君は掴みどころが無さ過ぎるからね……知りたいことが山ほどあるのさ。だから私の能力を含めた如何なる質問にも答えるよ」

 私の願いが通じたのか、才神の提案が魅力的だったのか、母は緊張を緩め肩を落とし、人差し指を唇に当てて大鎌を散らす。

「ん~、セクシ~だね~。歳をとっても君の魅力は増し――」

「質問は私から。いい?」

 馬鹿な発言を最後まで聞かずに切り出す。

「勿論だとも。おいで」

「夫を殺したのは貴方?」

「その質問の答えは最後に回していいかな? 代わりに追加で一つ答えるよ」

 答えたら間を置かずに戦闘開始となりそうだからか、母が最も知りたい情報は後回しにされる。

 何故か敵の方が私達の有利に事を進めてくれる状況だ。利害の一致と言うやつか、相手にとっても母の暴走は都合が悪いらしい。

 

「それじゃあ、貴方の能力は?」

 背中を向ける男は腕を組むように、両手を前に隠す。

「ゴッド・オブ・オールマイティー」

 『S-()Pad(パッド)』を発現させたようだが、特別何か変わった様子はない。正面を覗けない私からは何も見えなかった。

「この能力は三つあってね。質問一つにつき一つ答えよう」

 ずるい……。

 三つも存在するのには驚愕したが、それだけで質問を全て埋めるのは姑息と言えよう。私の立場からは聞きたいことが山ほどあっても、母はあの問いかけ以外に興味は無い。逆にその方が都合が良いのか、特に反論はしなかった。

 

「まず一つ目。『神の眼』」

 私にも見せようと後ろを振り向いた男の瞳は赤く染まっていた。

「これはね、数秒先の未来が視えるのだよ。よって、君の死角からの一撃は通用しない」

 未来が視える……そんなことが可能なのだろうか。

 危機感を抱き動揺する私とは違い、母は眉一つ動かさない。

 

「次は私の番だね。君はいつ記憶を取り戻したんだい?」

 記憶? 取り戻す?

 不可解な単語に私は更に困惑すると、その様子に目を向けた才神は意外そうに口を開けた。

「マキナ君には伝えていないのかな? 彼女の本名はね、『くろもり』。外から来た人間なのだよ」

「え……」

 過去の不明瞭な母が外から来たことは予想していたが、改めて告げられると驚きを隠せなかった。

「可哀そうに。伝えて貰えなかったのか……。彼女は本国でも有名な大女優だったんだよ」

「女優……?」

「そうか……こっちだと馴染みが薄いよね。私も見たことがあるが、酷い出来だった」

 映画やドラマを見たことはあるが、この男の言う通りお世辞にも褒められるものではなかったため、女優という言葉への印象は薄い。

「でもあっちだと執行者とは比較にならないほど憧れの的さ。君のお母さんはね、世界に名を轟かすほどの有名人で、彼女の演技には多くの人が魅了された。そして、僕もその一人なんだよ」

 知らなかった。どうして教えてくれなかったのと、不安を募らせた顔を母へ向けてしまった。

「伝える必要は無かったの。それは、私にとって拭い去りたい過去だから」

 ここに来て漸く母は私に言葉を投げかけてくれた。その表情は朗らかで、いつもの母の顔だった。

 それが嬉しくて……少しばかり緊張が解れる。

「拭い去るなんてとんっでもないっ! 君は世界の宝だ! ――して、質問の答えは?」

「記憶を消していない」

「……は?」

 想定外の答えに男は呆気に取られている。

 この国へ来る人間は情報管理のため記憶を消されるため、万が一記憶が有るとしたら、思い出すしか方法が無いからだ。

「過去の記録を辿らなかったの? 当時、私の記憶消去を担当していた研究員は『しろとおる』。それだけ聞けばわかるでしょ?」

「――こっ!」

 男は何か言いたげに堪えているようだ。

「彼を言いくるめて記憶を消されたことにし、さも記憶を失くしたように振舞った……それだけ。記憶を消して同じ過ちを繰り返したくはなかったから……。でも、よく私に記憶が残っていると見抜けたものね」

「当然さ……、君のことは私が一番理解している。君が魚路君と戦った時も、こうして話している間も、記憶を失くした者には無い深みがある! それとね、真奈……普通は復讐なんて志さないんだよ。娘がいるのなら尚更……。なのに君は普通を捨てた。君が演じたあの役の様に」

 だからこそ判ったのだと、才神は付け加える。

 普通は復讐なんて志さない――その言葉には納得できてしまう。

 私がそうだったから……。

 日常を続けたいという想いが、私から復讐心を奪っていたんだ。

 

「次の質問。二つ目の能力は?」

 饒舌に語る才神にこれ以上付き合うことはなく、母は唐突に次の質問をぶつけると、男は不満げに溜息をつき、つまらなそうに己の能力を明かす。

「『神の手』。右手は破壊、左手は創造。右手はあらゆる物質を破壊し、左手は物質に触れることで自由な形へと再構築する。そしてそれは……人体にも有効だ。せいぜい触れられないように気をつけたまえ」

 『神の眼』もそうだが、明らかに執行者用ではない凶悪な力。

 『デスサイズ・オブ・リベリオン』と同じ……対人に特化した能力だ。

 リリカの様に全てを記憶してないにしろ、私も廃棄用の『S-Pad』には全て目を通した。こんな能力があったのなら忘れるはずがない。恐らくは博士が作らされてであろう特注品。

 こんな力が、まだもう一つあるのか……。

 積み重なる凶悪な能力を聞いても母の表情に乱れは無い。

 いかなる能力でも対応できる自信があるのだろうか……。


「次は私だね。君はなぜ日本を捨てたんだ?」

 声に明るさが戻る。調子のいい男だ。

「あっちの世界に嫌気が差したの」

「嫌気? 人気絶頂の大女優だったはずだ。君なら世界も狙えたはずなのにどうして……」

「業界の闇……そして両親。そのどちらとも関わり合いたくなかった」

 鋭かった母の瞳に悲しみが宿っていく。

 母の両親。それは私の知らない祖父祖母。絶縁したと聞かされていたが、その理由については教えてもらえなかった。

「やはりそうか。金食い虫共が……君の価値を理解できない輩の所為でこんな辺境の地に追い込まれてしまうとは……残念だよ」

 複雑な心境だ。母が追い込まれなければ私は存在しない。

「生憎だけど、私はここに来たことを後悔してないし、女優としての価値より……母親としての価値の方が大事だと思ってる」

 そう言って、母は私を安心させようとウインクを飛ばすと、私が募らせていた不安が吹き飛び、目頭が熱くなった――。


「次の質問。最後の能力は?」

 男は溜息交じりに答える。

「『神の肉体』。簡単に言うと不老不死さ。相手に干渉するものではないから詳しい説明は省くよ。これに関しては……後で実際に斬って試してみてくれ」

 不老不死――再生治療ができる『S-Pad』があることから超再生能力だと推測できる。

 この男の自信は……この能力からきているんだ。

 例え私に背後から斬りつけられても、『神の眼』と『神の肉体』で対応できる。そのうえカウンターで起爆装置が作動。

 例えリリカが間に合ってその起爆装置が無効化されたとしても……この男に勝てるヴィジョンが視えない。

 絶望に暮れる私と違い、母の表情は変わらなかった。

 そんな私と目が合うと、静かに微笑み「大丈夫」と言ってくれているようで、それが再び不安を募らせてしまった。


「次は私だ。最初に『かかりしん』を狙ったのは何故? 古株の魚路君ならともかく、どうやって彼が管理者と繋がっていると確信したんだい?」

「そちら側に内通者がいるの……CHAOSのね。だから誘き寄せるのも簡単だった」

 才神は「やはりか」と呟き、片手で頭を掻いている。

 疑惑はあったのか、今日に至るまで何も確証が得られなかったのだろう。

 私は師匠が登場してからその存在に気づいていた。だけど、未だにその人が誰なのかは判らない。

「内通者に関しては私自身の情報じゃない。知りたければ自分で調べて」

「いや、そこは大して問題じゃないさ。この状況こそ僕が思い描いた場面。後はどうでもいい。では、次の質問をどうぞ」

 才神はまだ能力についてしか話していない。

 もっと情報を……時間を――。


「私からの質問は以上。最初の質問に答えて」

 何で……少しでも時間を稼げがないといけないのに。

「ふむ……。私を殺したくて仕方がないみたいだね。いいだろう……確かに君の夫の抹殺を命じたのは私だ」

 待ち望んだ言葉に驚きは無かった。私も母も、この男に会う前まで疑ってたし、話していて疑惑も確証へと変わっていた。この男で間違いないと。

 この言動だとお父さんの反逆疑惑も解消され、才神への処罰理由が整った。

 だけど……動機が解らない。

「私は君の大ファンでね。まだ未成年だったこともあってか、『楽園』には行けなかった。だから、別の切り口で『楽園』へ行こうとしたのだよ。記憶を消されずことなく君に逢う……この『楽園』の管理者になることでね」

 そこから才神は語りだした。

 『楽園』の管理者になるまでの道のりが如何に険しく困難であったかと。何しろ世界の大富豪たちと肩を並べなければならないのだ。それは並大抵の努力と運では辿り着けない。

「ところが……夢を叶えた私に待ち受けていたのは絶望だったよ。管理者になってすぐ君の存在は見つけられた……が、君は全く別次元の存在になっていた……。年齢的に結婚していて子がいるのは覚悟していたのだが、まさかあんな冴えない、どこにでもいるような男と結婚するとはね……腸が煮えくり返ったよ」

 男の声に怒気が混じり始める。

「私はこんなにも苦労してきたのに、あの男はこうも簡単に君を手に入れるなんてね! だから身の程を知らせてやったのさ!」

 先程までの不安が吹き飛んだ。拳を強く握り、あの時のように怒りが身体の内側から込み上げてくる。

 そんな下らない理由で……お父さんを!

「でも、一つだけ良いことがあった。それは――君の絶望の表情だ。あれは映画やドラマでも見れなかった君の本当の表情。カメラ越しなのが残念だったが、それでも私を堪能させるには十分で……ほら、待ち受けにもしてある」

 胸ポケットから取り出した端末を母に向けている。

 そこに映し出された待ち受けには、あの時の母の顔が映っているというのだ。

 何て悪趣味なのか。更なる怒りが私の心を焦がす。

「それを間近で見たくてねぇ。あれから君とは敢えて逢いに行かず、父の死を乗り越えた娘が成長するまで待っていたんだ。それがまさか、君からジャ()()()を送ってくれた上に……こんな素敵なラブテルを用意してくれるとはね。楽しみだよ……今度は目の前で見ることができるんだ」

 

 許さない。

 こいつは……こんなくだらない理由で……。

 今すぐにでも斬りかかりたいが、私が死ねばコイツの思い通りになっていまう。

 耐えるんだ……堪えるんだ……今は……今だけは!


「大丈夫。私が貴女を死なせはしない……デスサイズ・オブ・リベリオン」


 人差し指を唇に当てた母が、大鎌を手に取った――。

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