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第35話 第零級

 かやの車で応援に来たウチらは、やくとの戦闘後、才神からの召集を受けしらかわを加えて本部へと向かっていた。

 部下を失ったばかりで項垂れる白川に誰も声をかけることができず、まるで通夜の様な雰囲気のまま本部へと辿り着く――。

「どうも、皆様お揃いで。お疲れ様です」

 地下の駐車場では中野部長が待っていた。相変わらず制服ではなくスーツを着ている。

 外の喧騒が聞こえない静寂な空間でドアを閉める音を響かせると、部長は無駄に深々とお辞儀をし――。

「お力添えできず、申し訳ありませんでした」

「距離があるからな、仕方ねーよ」

 茅間がフォローする。

 交渉を済ませたウチら的には成功だが、傍から見れば大失態。白川を救出したものの、まるで歯が立たずに醜態を晒し、みすみす敵を逃がしてしまった結果となったのだ。

 白川に至っては独断専行のうえ大損害を被っている。こればかりは本人の責任なのでどうしようもない。相手を甘く見過ぎたんだ。ウチも人のことは言えないが……。

 もし最初に対応できたのが白川ではなく部長だったらもっとスムーズに事を進められたのだろうか。そんな余計なことを考えていたら、片足をガクッと崩した。

こう先輩、お怪我を……?」

「大丈夫だ。大した傷じゃない」

 後輩を前に虚勢を張るも、何もないところでつまづいてしまう。

「ふらふらじゃねーか、おぶってやろうか?」

「死ね」

 ニヤケながら善意の言葉を吐くカスに最大級の拒絶の言葉で返す。

 一級の中ではウチが最年季。これ以上みっともない姿は晒せない。思えば全部自傷行為でできた怪我だ。得られたものを考えればこのくらい安いものだろ。

 痛みを我慢しつつ、おぼつかない足で進んでいると、部長がしゃがみながら背を晒した。

「どうぞ」

「……」

 

 ――結局部長におんぶされエレベーターへ乗った。

「まるで親子だな」

「黙れや」

「はっは。それだと年が離れすぎますね。孫娘の方が……あっ! 失礼致しました」

 謝んなよ。年だと普通に娘だろうが。

 そんなやり取りの中でも白川は沈黙を貫いている。

 それを察してか、部長も声を掛けようとはしなかった――。

 

「もういい、降ろせ」

 エレベーターを降り、さいがみと初めて会った場所――その会議室の扉を、今度は自らの手で開けた。

 そこには以前と同じように奥に座る才神、その隣に立つ秘書のきたがみ。そして――手前には懐かしい人間が二人座っていた。

「せ、先輩……!?」

 茅間が驚きを露わにする。

 その二人は、国外へ行ったはずの第(ゼロ)級執行者。ウチの嫌な予感は的中してしまった。

「よお、茅間ぁ! 元気にしてたか?」

 その溌剌な言葉を聞き、茅間は硬直する。マキナの言葉を信じれば、零級は記憶を失っているはず。だが、恐らくコイツらは例外だろう。

 国内で何かがあった場合の治安維持部隊――そう考えるのが妥当だ。記憶を失ったヤツがこっちに来たら混乱の元だからな。そんなヤツらがやって来ることは予想していた。

 ここで変に驚いては不自然だ。察しろよ、茅間。

 ウチは呆然とする馬鹿の足を踏み、平静を取り戻させる。

「いや、びっくりしたッス。そ、その頭は何なんスか?」

「コイツはアフロだ! 向こうで流行ってんだぞ。お前もやってみるか?」

「いやぁ、結構ッス……」

 一瞬、髪型で誰だか判らなかったが、このモジャモジャ頭は『もろやすとき』。

 茅間の実質的な先輩で、粗暴な言動が隠れるほど尊敬されているようだ。気さくと言うより馴れ馴れしいヤツだが、ウチもこの男には一目置いている。執行者として有能なのは勿論のこと、後輩への面倒見がいいのも高評価。ウチも下級時代には世話になっていたことがある。

 そんな男が三年前、マキナの父への処罰権を茅間へ譲り、自身を第零級へと押し上げ国外へ去って行った。

 茅間の話では信頼していいらしいが、奴も上に逆らえない身。協力を求めるのは時期尚早だが、もし奴の証言を得られれば、より才神への処罰を確実なものにできる。こっちに関しては良い兆候だ。

 

 ――対して。

 諸田の向かいでふてぶてしく机に足をかけているのは『あんどう』。

 片目が隠れるほど無駄に伸ばした前髪は今も健在。腕の細さも薬師寺を見た後では骨だけに見え、黒く裂け目だらけの独特な服装はセンスを疑う。

 コイツはウチの昇級によって押し出された男だ。実績が良かったわけではなく、厄介者払いとして押しのけられた正真正銘のクソ野郎。小さな子供ですら処刑対象にし、異常とも思える残酷な処罰で世間の執行者へのイメージを著しく陥れた。

 質が悪いのはしっかりと法に則っていることだ。ハイエナの様に目を光らせ、微かな罪をも見逃さず死罰にて処す。下級時代にそれを目にしたことがあるが、植え付けられた印象はまるで執行者になった殺人鬼。心の底から殺しを楽しんでいるクズの中のクズ。

 こんなヤツを引っ張ってくるなんて、才神は何を考えているんだ……。

 

「どうやら顔見知りの者もいるようだね。今後は彼ら第零級執行者の指示に従い薬師寺討伐に向かってもらう」

 冗談じゃない。諸田はともかく、安藤になど死んでも従いたくない。

 安藤の現役時代、白川と茅間はまだ新人だった。つまり現役で安藤の悪行を知るのはウチだけ。気が進まないがここはウチが反論するしかないか……。

「そこの安藤の経歴についてご存じなのでしょうか。彼は第一級時代、権力を乱用し執行者のイメージを著しく損ねた男です。申し訳ありませんが、ウチは従えません」

「安心したまえ。そのことは当然、私も存じているよ。彼には薬師寺以外の処罰を禁じている。もし凶行に走ったら、君達が直接処罰しても構わない」

 本当に対薬師寺のために呼ばれただけか。薬師寺が消えれば勝手にいなくなるということだろう。それは結構だが……。

「ひな子よ。八年前と変わらないな。見た目もそのままだ」

 記憶はあるみたいだな。関わりたくないので無視を決め込む。

「気持ちは解らないでもないが、対人戦に関してなら彼が最も経験豊富なのだ。不満に思うところはあるだろうが、戦闘中だけでいいから従ってほしい」

 その戦闘中が嫌なんだよと、これ以上反論しても進まないので渋々了承した。

 

「――正直、二人増えたところで勝てるとは思えないな」

 長らく沈黙を貫いていた白川が口を開いた。

「試してみるか?」

 安藤が白川へ鋭い眼光を飛ばす。だが白川は、それに全く動じる気配はない。

「止めたまえ。君達は本当に仲間割れが好きなようだね。指揮権は諸田、安藤、紅露、中野、白川の順だ。状況に応じて臨機応変に対応するように。異論はあるかね?」

 安藤より諸田が上に来るのなら異論はない。

 意外なことに、安藤もそれには納得しているようだ。

 茅間は不満がありそうに顔をしかめているが、悪いな。

 ウチの無茶な作戦の所為で、平気で味方ごと攻撃する男だと思われているのだろう。……すまん。

「では、君達には暫く本部で待機してもらう。もう一度薬師寺を追跡出来たら全員で向かうんだ」

「それについて、ウチから意見いいですか?」

 小さく挙手をする。

 ここから……ウチらの作戦が始まる。

 

「どうぞ」

 才神から手を向けられ、発言の許可を得た。自分の主張を押し通す管理者かと思いきや、意外と聞く耳は持っているらしい。

「こちらから出向くとなると、敵に万全の態勢で迎えられてしまいます。それこそ今回の様に」

 歩道橋では薬師寺に誘われ、テレビ局では御代真奈に誘われた。その結果は散々なもので、薬師寺は己の有利な地形に誘い出し、御代真奈は魚路と言う標的を刈り取った。少しずつ戦力を削いでいく作戦だろうが、そんなことされてはこっちは堪ったもんじゃない。

「確かに向こうから来てくれるのが一番だが、私を餌にしても奴は全く来る気配が無いのだ」

 待ち構えていても来ないだろ。見え見えの罠だ。アイツらはそこまで馬鹿じゃない。

「では、『しろ』の方を誘ってみては如何でしょうか?」

「ほう……、詳しく聞こうじゃないか」

 御代真奈という言葉に目の色を変えて食いついた。やはりコイツで間違いなさそうだな……。


「奴の娘、『御代マキナ』を処刑場にて公開処刑を行うのです」

 この一言で、全員の視線が一気に集まる。安藤ですら興味津々だ。

「中々突飛なことを言うじゃないか。しかし、それは人道的にどうなのかね?」

「勿論フェイクです。本当に処刑はしません。まあ、世間からのバッシングは受けそうですが」

 公しなければ奴らには伝わらない。姿を見せるだけでいい指名手配犯と違って、こちらからの連絡手段は無きに等しい。日時を指定して宣伝すれば、必ず奴らは来る。そう伝えたからな……。

「この作戦の発案者は『御代マキナ』です。彼女も、母親の凶行には胸を痛めているのです」

「何と……!」

 発案者というのは本当だ。どうにか誘い出せないかと提案したのはウチだが、その話を聞かされた時はビビった。余程母親のことを信頼しているらしい。

「来なかったらどうする?」

 安藤の言う通り、来ない可能性は十分にある――が。

「そのまま処刑を執り行ってもいいとのことです」

「素晴らしい! 彼女は執行者の鏡だ! 私の父も犯罪者だが、とても真似は出来ないよ」

 手を叩き、身体でも賛辞を示している。かなり気に入ってくれたらしく、作戦の採用が決定した。

 ただ、本当に処刑するのはマズいので、そうなった時には何らかのアクシデントを起こし中止させるとのこと。当然、ウチも処刑させる気は無い。無かったのだが、零級の二人が来たことでそれも困難になった。どう対応するかはマキナの報告次第だな――。

「では、本作戦の指揮権を紅露君に与える。諸田、安藤は従うように」

「了解ッス」

 安藤は返事をせず、不服そうに溜息をついている。

 アイツらは必ず来る――これが、罠のようで罠ではないからだ。

 障害が増えてしまったのは誤算だったが、指揮権の変更は嬉しい誤算。

 ひとまず順調と言って差し支えないだろう。ただ、何故だか……妙な胸騒ぎがする。


「では作戦の日程と人員配置についてなど、作戦本部を立てて改めて行おうか――」

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