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第14話 実験施設『楽園』

「時間も限られているので、簡潔に話します」

 観覧車が下に到着するまでに話し終えなければならないので、必要なところだけ伝えることにした。


 ――実験施設『らくえん』。

 ここは、旧日本軍が所有していた孤島であり、種の保全、気候変動や国際情勢悪化による国土喪失対策として極秘裏に進められた国家再建プロジェクトだ。当初は選ばれた日本人のみ移住が許されていたのだが、記憶を消す技術を得た頃、有能な志願者を募ったり、時には拉致などによって人口を増やしていった。

 始めは『楽園』の名の通り、執行庁によって治安を維持し、安定した生活基盤を持続させるためだけの存在だったが、『S-()Pad(パッド)』が開発されて以降、人体実験のための施設へと変わった。実験の内容は極めて単純。より優秀な能力者を選出すること。新たに第(ゼロ)級執行者という枠を作ることで、更に能力が秀でた者を選出し、記憶を消して最強の兵士――人間兵器を創り上げることが奴らの目的だ。

 しかし、それは世界中で嫌悪されるような人体実験扱いとなることから、この孤島で密かに行われている。そのため世界ではその存在すら認識されていないらしい。


 そして手術された本人ですら知らない『S-Pad』に隠された機能――それは自己破壊プログラムが埋め込まれており、脳内の『S-Pad』を遠隔で破壊し死亡させる起爆装置。反逆者が出た場合でも簡単に処分するために組み込まれたのだ。

 更に『記憶機能』というものもある。執行者の死後、手術後からの視覚映像を取り出すことが出来る。これにより共犯者を炙り出すことが出来るのだ。

 ちなみに『デスサイズ・オブ・リベリオン』にはこれらの機能は含まれていない。博士が言っていた不要な機能とはこのことだ。故に反感を食らい、廃棄処分を命じられたという。


「――これが、この国の真実です」

「重た過ぎんだろ……。ちょっと待て、頭が追いつかねぇ」

 紅露さんは頭を抱え込んでいる。それもそのはず、急にこんなこと話されても脳は理解を拒否する。当事者ならば尚更だ。

「信じらんねぇけど、マジなんだよな?」

 私は表情を硬くしたまま頷く。これを受け入れるということは、今までの生活を否定することになるだろう。中々できることじゃない。母から聞かされた当時の私だって困惑した。第一級執行者まで上り詰めている彼女なら、私以上に重くのしかかるはずだ。

「クソが。こんなこと……アイツらにも言えねぇぞ」

「私もリリカには伝えていません。私が死ねば、リリカにも危険が及びますので」

 手術後の記憶は記録されている。例え私が死んでも母は既に指名手配犯だ。逆に母が死んでも、記録が取れないから私には辿り着けない。

 だがリリカは別だ。彼女に話したら共犯として殺されてしまう。まだ話していないこの現状なら、私がリリカを利用しているだけだと捉えられるはずだ。

「ってことは、ウチが死ねばテメェが処分され、テメェが死ねばウチが処分されるってことか」

「そうなります」

「なおさらアイツらには言えねぇな」

 少女は深くため息をつく。彼女たちの信頼関係は余程深いのだろう。

「本当に良かったんですか? 私が死ねば……貴女まで巻き込まれることに」

「構わねぇよ。それより、よくウチを信じたな。上と繋がってるかもしれねぇってのによ」

「母が信じた人ですから」

 あの戦いで何があったのか知らないけど、母が私に答えを託したということは、上と繋がっていないと確信しなければできないはずだ。

「それに――」


「面白い人だから」良い人だから。

「おいっ! サラッとディスってんじゃねぇよ!」

 つい本音の方を言ってしまった。

「まあいい、ウチは寛容だからな。許してやるよ。……それに、あのな……」

「……?」

 少女は外を見ながら何か言いたげに言葉を詰まらせている。

「ウチとテメェはもう共に死を誓い合った義兄弟のようなもんだろ? つまり……そう。ウチは……【お姉ちゃん】……だよな?」

 横目でチラリチラリと、こちらに何かを求めているのが分かる。多分、私にお姉ちゃんと言わせたいのだろう。仕方がない。巻き込んでしまうわけだし、不本意だけどここは煽てておこう。

「そうですね。【お姉ちゃん】」

「うはっ」

 人はここまで表情が緩むのか。こんなんだからクミミンの嗜虐心を煽っちゃうんだろうな。

 

 ――観覧車から降りる時、先に降りた小さなお姉ちゃんはドヤ顔で私に手を差し出した。姉としてエスコートしているつもりだろう。私の中にいる心のクミミンが暴れだしそうなのを目を絞って堪える。面倒なことを言ってしまったな。

「これから、どうします?」

「とりあえず頭ん中整理するわ。テメェの話が本当だと仮定して過去を振り返れば、見えてくるものがあるかもしれない」

 高位にいる彼女なら、何か有力な情報を得られる可能性がある。その場合、もはや私が一級を目指す必要も無いのではないか。

「そういえば、魚路さんの後は誰が引き継ぐのでしょうか?」

 基本的には昇格する第一級執行者が指名することになっているが。本人が亡くなった場合の前例がない。

「本来なら直属の部下である二級のかかりだったんだけどな。――ん?」

 何か気になることがあるのだろうか。そのまま黙り込んでしまった。

「マキナ〜!」

 リリカたちも降りてきた。彼女の満足そうな顔を見るに、心配は要らなかったみたいだ。私と紅露さんはもう後戻りできない。彼女たちは決して、巻き込んではならないのだ。


「――ん?」

 ピロリと通知音。鞄の中のある業務用端末からだ。

「マッキー今休暇だよ。真面目過ぎ〜」

 逆に何で持ち歩かないのか問いたい。

「私の方にも来てますね」

 高柳さんも端末を取り出す。よかった、仲間がいて。

「んなもんほっとけよ」

 上司がそれを言っちゃお終いだろうに。当然ながらこの人も持ってきていないようだ。

「私にも来てるよ」

 リリカには持たせている。もちろん私の指示で。

「どうやら全員に送っているらしいですね。本部からのようです」

 

 内容は、明日の朝、全国放送で今後の対応について会見を行うとのことだ。

「誰がだよ」

「それについては何も」

 紅露さんが私に目配せする。恐らく、上が動くのだろう。


 漸く姿を現す――本当のかたきが。

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