第13話 みんなで遊園地
母が起こしたあの大胆な事件から三日後、今日は紅露さんのお誘いで市内の遊園地に来ている。歓迎会が出来なかったお詫びと言って連れて来られたのだ。
どういう風の吹き回しだろう。一応、休暇をとっているので公務に発展することはなさそうだが。
「テメェら今日は仕事のことを忘れて存分に楽しめ。金なら気にすんな。姉貴分のウチが奢ってやっからよ」
仁王立ちで自慢げに話す少女。もう立ち直ったのだろうか。結構ショックを受けてたみたいなので心配していたのだが、それはもう不要なようだ。
……にしても、気合入ってるな。
彼女の服装は、以前のような気怠い感じとは真逆で完璧なコーデだった。意外にセンスがあるなと感心する。髪型はまるで私の母を意識したようなウェーブがかかっている。
「マッキー見て! この服マッキーのママに仕立ててもらったんだってさ」
「おおおおおおい! 言うんじゃねぇよ本人に!」
「お、お母さんに!?」
いつの間に会っていたのか。意もしないワードに困惑する。
「凄いよね。芋小学生から、オシャレに手を出した小学生に大変身!」
「小学生は変わんねぇのかよ!?」
髪のセットと化粧は自分が再現したとクミミンは補足する。確かにこれがお母さんのコーデだって言われると納得だ。私も服装に関しては母に頼り切っていたから。私自身のセンスはというと、今の私とリリカの服装がそれだ。使い古されたワイドパンツによれよれの長袖ボーダーTシャツ。
いつから着てたっけ、これ?
結局着やすい服に落ち着く私には、オシャレなんてほど遠い。
しかし、改めて二人を見比べるとセンスの違いがはっきりする。私はともかく、リリカという素材を無駄にしている気がしてならない。
ごめん……リリカ。
「――紅露さんは、どうして母と?」
「情報交換だよ。成り行きでこうなった」
「何の情報も得られなかったけどね」
「言うなや!」
詳しく聞くと――母に負けた時、情報交換のため一人でショッピングモールに来いと誘われたらしい。しかし、そこでは何も得られず、何故か親子デートなるものを堪能したという。母は紅露さんを懐柔させたいのだろうか、それともただ遊んでいただけなのだろうか。テレビ局の件との対極的な行動に、私の脳内は更に困惑した。
「それについて後で話がある。だが、まずは遊んでからだ。定番のメリーゴーランドから行くぞ」
誇らしげにメリーゴーランドを要求する二十一歳。何とも可愛らしいことで。
「……何言ってんの?」
クミミンは後ろから軽々と少女を持ち上げる。
「ジェットコースターでしょ」
少女の顔は一瞬で青ざめ、足をジタバタさせ「嫌だ、絶対嫌だ!」と叫ぶが、彼女は聞く耳持たず、地獄のジェットコースターの入り口へと足を進めた――。
ジェットコースターに座らせられるも、なお抵抗し続ける紅露さんに対して係員に「大丈夫ですか?」と声を掛けられる。
「大丈夫です。この人こう見えて成人してるので」
「違う、ウチは小学生だ!」
都合のいい時だけ小学生を主張する少女に苦笑する。残念ながらその主張は通らず、発車が確定した。
「クソがッ! テメェ絶対後で処してやるからな!」
誰一人としてその虚勢に耳を傾けてはいない。ジェットコースターは無情ながらもゆっくりと上へ向かっていく。徐々に地面が遠ざかり、園内を行き交う人々が小さくなっていく――。
「ちょ、待って、待って! ムリムリムリムリムリ! クミミン助けて!」
クミミンは静かに微笑んだ。コースターは急降下を始め、紅露さんだけの絶叫が轟いた――。
「おろろろろろろろ……」
降車後、吐き込んだ少女をベンチへ寝かせ、クミミンが膝枕をして看護している。
「ごめんね、ヒナぴよ」
「処す……」
流石にやり過ぎたのだろうか、クミミンは反省している――わけないか。
「その役、代わって頂けますか? たまには私もひな子様を看護したいです」
「嫌」
急に真顔になった二人が火花を散らせる。
「貴女とはいい加減、決着をつけなければなりませんね。先に絶叫系で根を上げた方が負けってことでどうです?」
「いいね、乗った」
倒れた少女を放置し、次のアトラクションへ向かう二人。
いいの? あれ。
「処す……」
「マキナ、……どうする?」
「成人してるし大丈夫でしょ。私たちも行こ」
「テメェら……」
紅露さんを放置し、私たちは彼女に言われたとおり思いっきり楽しむことにした。
◇
「マキナとこうして遊びに行くのも久しぶりだね」
「執行者になってから全く息抜きできなかったからなぁ。その前も試験勉強漬けだったし……」
ここ最近色んなことがあり過ぎて、遊ぶことなんて頭から抜けていたのだ。最後に遊んだのはいつだったか、直ぐに思い出せないほど遠い記憶。
「どこから行く?」
パンフレットを広げる。この子は私に選択権を全振りしているので、私がエスコートしなければならない。ただ特に苦手なこともないので、私は自由に選択することが出来る。
「じゃあここから――」
いくつかアトラクションを楽しんだ後、昼食のため野外テーブルについた。ジャンクフードをテーブルに並べて、二人でシェアする。
「楽しいねっ」
久しぶりにリリカの笑顔を見た気がする。私自身、最近は心から笑うことも無かったから、こんな機会を作ってくれた紅露さんには感謝したい。
「マキナ、もう大丈夫?」
「うん、心配かけさせてごめん」
未だにリリカには心の内を話せていない。いや、話せないんだ。絶対に。
「ここのポテト美味しいね」
「ふふっ、そうだね」
ポテトを頬張る彼女を見て気分がほっこりする。今は気難しいことを考えず、全力で楽しもう。談笑しながら食事を終え、再びアトラクションを楽しむ。
◇
全アトラクションを制覇する直前、クミミンから集合の合図がかかったので観覧車前へ移動した。空には夕日が差し掛かっており、最後に皆で観覧車に乗ることにしたのだ。
「テメェらウチを放置しやがって! イケメンに声を掛けられたと思ったら迷子センターに連れていかれたんだぞ!」
「そうなんですか。私たちも三回くらい声をかけられましたよ」
「自慢か!? 処すぞテメェ!」
中身はアレだが、二人とも外見だけは整っているのでかなりモテるのだろう。
「もういい! おいっ、真奈娘! ウチと乗れ!」
真奈娘って私のことか。五人だと狭いので二手に分かれるのだろう。しかし、彼女の真意は別にある。
「リリポンは私たちと乗ろ?」
「は、はいっ」
遠慮なしにリリポンの腕を引っ張っていく。この調子でクミミンにも慣れてくれたらいいな。
……変な影響を受けないことを願って――。
私は先に観覧車へ乗り、次いで紅露さんはドカッと足を組みながら座った。観覧車は密室。恐らく、ここで母のことを聞くつもりだろう。扉が係員に閉められ、ゴンドラが上がっていくと、紅露さんが口を開いた。
「選ばれた第一級執行者が、国外へ出られる権利を得られることは知っているな?」
「はい。第零級へと昇格し、国外活動を許される執行者のことですね」
それが理由で執行者になる人も少なくない。いや、殆どがそうだ。誰もが外の世界に憧れている。魚路さんの様に一級の立場に留まるのは稀だ。
「……ウチはアイツらを外へ連れて行きたかった」
過去形なのは今は違うということなのだろうか。彼女は物憂げな表情を浮かべながらそう話す。
「テメェ、外へ出た奴がどうなったか知ってるな?」
「いえ、私は……」
「とぼけんな。テメェのママが、テメェに聞けって言ったんだよ」
母が私に促したということは、紅露さんを信用しろというメッセージなのだろうか。
だけど――。
「知れば後へ引けません。私と一蓮托生になってしまいます」
「あ? んなこといいから話せよ」
多分、何のリスクも考えていないのだろう。彼女は『S-Pad』に隠された機能を知らない。
「私と……生死を共にする覚悟はありますか?」
私が真剣にそう話すと内情を察したのか、あちらも表情を硬くする。その鋭い目つきは、小さな体から発せられているとは思えないほどのプレッシャーが放たれている。彼女が第一級執行者だということを改めて思い出した。
「覚悟はとっくに出来てんだよ。テメェのママに負けた時からな」
私が知っている情報は残酷な事実だ。それでも、彼女なら受け入れることができると信じ、話し始めることにした――。
「この国は……巨大な実験施設なのです」




