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第10話 魚路銀平 VS 御代真奈

 最も長く執行者を務め、最も多くの犯罪者を処刑してきた男、うおぎんぺい。画面越しだというのに、その処刑人の背中は頼もしくも恐ろしい。母を公開処刑する腹積もりなのか、放送を中断する気配はない。

しろ。国家反逆罪、及び執行者殺害により、貴様に死罪を言い渡す!』

 人差し指を母へ向け、刑の宣告。間直にこの声を聞いていたら、その覇気に怯え足が竦んでいただろう。対する母は涼しげな顔のまま、その怒声を流している。

『ここでは子供たちに被害が及ぶでしょう。場所を変えない? カメラマンも連れて行ってあげる』

『犯罪者が一丁前に子供の心配かね。……よろしい、その要求を受けよう』


「――どちらかが死ぬぜ。覚悟を決めろよ」

 かやが私の立場と心情を汲み取ったのか、これは私に対する忠告だ。魚路さんは彼の様に負けを認めることはしないだろう。公で刑を宣告したことにより、引くことも見逃すこともできない。

 これから始まるのは正真正銘の殺し合い。どちらかが確実に死ぬことは避けられないということだ。

「なんとか間に合いませんか?」

「無理だな。こっからじゃ、どんなに飛ばしても1時間はかかる」

 謹慎中のため、走行中のサイレンの使用もできない。このまま車を走らせても、私たちが到着する頃には事は済んでいるだろう。

「テレビ局に一番近いのは本部だ。そこを拠点にしている1級は魚路のおっさんしかいねえ。恐らく、あのババアはこれを狙っていたんだろ」

 魚路さんを狙う。そのためだけにこんなにも大胆なことをするのだろうか。余りにも早すぎる母の行動に困惑を隠せない。

「対するおっさんは、かかりのおっさんの仇打ちだ。内心殺したくてたまんねーだろうよ」

 それは審問の時に知らされている。ただ私情を挟まないにしても、お母さんの罪じゃ死罪はまぬがれる筈もない。

 画面を凝視し震える私の手の甲を、ひんやりとした手に覆われる。私の心の内を察してか、リリカは何も言わず私の手を握ってくれたのだ。私たちにできることは、この映像をただ見守ることしかできない。


 ――画面はテレビ局の屋上へと移り変わり、月明かりが相対する二人を照らし、強風が母のドレスをなびかせる。

『背後を取れたのに、襲わなくて良かったの? カメラ意識してた?』

『よく言う。隙など何処にもなかったぞ』

 まだ互いに『S-()Pad(パッド)』を発現させていない。いや、母は『ナイフ・オブ・ジャック』を既に使っている。洗脳は大鎌をしまった状態でも継続できるのか。

『貴様に相応しい死をくれてやる。ブレード・オブ・フォーリング』

 母に人差し指を向けながら唱え、その指を折り曲げた瞬間――ギロチン型の大型の刃が母の頭上に出現し、ギロチンの如く真っ直ぐ落ちていく。

 母はそれを優雅に躱し、足元に砕けたコンクリ片が散る。刃が突き刺さった床は、深くえぐれていた。

『やはり知っているか』

『当然でしょう』

 最年長第1級執行者の『S-Pad』。死罪の処罰時にはギロチンで処することは母だけでなく私でも知っている。しかし、手の内を知っているのは魚路さんも同様だ。

『貴様の死角の一撃とやらは、これで封じる』

 頭上を指さした魚路さんの背後に、身長を超えるほどの巨大な刃が突き刺さった。茅間は壁を背にしても駄目だったが、『S-Pad』の壁なら透過させずに防げるというのか。

『あれを出してみろ。持っているのだろう? 返してもらうぞ』

 恐らく、掛さんの『スピア・オブ・デターミネーション』のことを差している。あの能力は防御無視。あらゆる物体を貫通させる防御不能の槍だ。


『デスサイズ・オブ・リベリオン』

 母は左手の人差し指を唇に当てて唱えた。暗闇から大鎌が出現し、右手でくるりと回転させながら軽々と操る。半身になり鎌を後ろ手で携えるその姿には、一分の隙も無い。

『それをどこで手に入れた?』

『夫からの誕生日プレゼント♡』

『ふざけるな!』

 怒声と共に五本の指を母へ向け、一本ずつ折り曲げると、頭上から五本の刃が時間差で襲いかかった。母は巨大な鎌を持ちながらも、踊る様に難なく躱している。

『流石の身のこなしだな。だが……』

 更に五本の刃が四方八方に降り注ぎ、躱し続ける母の逃げ道を次々と塞いでいく。もうカメラから母が映らないほどにまで刃に囲まれてしまっていた。

『これで終いだ』

 更に両の手を使い、十本の指を同時に折り曲げる。大量の刃が落ちる衝撃が画面を大きく揺らした――。


 画面からは母の姿は見えず、反撃の痕跡もない。静寂が続くほど動悸が激しくなり、私はリリカの手を強く握った。

「お母さん……」

 男が掌を横へ振り払うと、刃が霧の様に散っていく。露わになったのはバラバラになった母の死体――ではなく、無傷の母だった。

『馬鹿な……。避けるスペースは無かったはず!』

『何か勘違いしていない? 「コピー」は「コピー」でも、複製ではない。模倣なの』

 左手で出現させたそれは、小型の鎌。くるくると回転させ見せつける。それを勝手にナイフだと思っていたのは私だけではなかった。

『ま、まさか……』

『貴方の部下の槍の能力は、そのままこの大鎌に引き継がれている』

 刃の壁は、掛さんの能力によって斬り裂かれ、母を脱出させていたのだ。博士の曖昧な説明の所為か、私たちの先入観の所為か、武器をそのままコピーすると勘違いをしていたのだ。

 茅間が戦った時、大鎌はギターを斬り裂かず引っ掛けていたことから察するに、模倣した能力は自由に発動できるのだろう。当然、魚路さんは茅間から戦いの詳細を聞いているため、先入観を植え付けられていまっていたのだ……。


『だからもう……理解できた?』


 ――何の前触れもなく、男の右腕が地面へと転がった。出血を抑え、激痛に耐えながらも彼は相手を見据えている。常人であれば痛みのあまり地へと転げているだろう。

『貴方は、いつまでも第1級の椅子に座り過ぎた。だから真っ先に疑ったの』

『何の……ことだ?』

『外に興味が無いの?』

『この国の秩序を守ることが私の使命……。外などどうでもいい』

『とぼけても無駄。もう見てしまったの。彼の記憶から――』

 母の言葉の途中、男が残った左腕でカメラへ指向けた瞬間、画面が黒く染まった――。


「どういうことだ? てめえ、知ってたな」

 私の反応を感じ取られてしまったみたいだ。

「すみません、実は博士から……」

 茅間は舌打ちをする。

「博士は後で問い詰めるとして、問題はコピー能力だ。ここで魚路のおっさんが殺された場合……」

 あの状況ではもう、母の勝利は揺るぎないはず。その場合、『ブレード・オブ・フォーリング』の能力をコピーされる懸念があるのだ。

「コピーは二つまでらしいです。それに、まだ引き継がれるとは……」

「奴が洗脳を重視していなければ、間違いなく奪うだろうよ。鎌、槍、刃の能力が揃えば、必殺のコンボが完成する。俺らは勿論、あのチビ共でも太刀打ちできねーぞ!」

 魚路さんが使っていた相手の退路を塞ぐ戦術を組み込まれれば、いよいよ死角からの攻撃を防ぐ事ができない。


「おい、アイツらに連絡してこの事を伝えろ」

「この車に通信機器は?」

「あるわけねーだろ」

 普段どうやって連携をとっているのか。いや、とっていないのか。

「あたしがやるよ」

 リリカがプライベート用のスマホを取り出す。

「専用のを使った方がいいんじゃない?」

「あっちは検索(めん)いし」

 確かに、関係者全員分の連絡先が登録されているので探すのに時間がかかる。無理矢理登録させられたクミミンの連絡先になら手早く済む。


「もしもし」

 早速繋がったみたい。リリカからスマホを借り、設定をスピーカーへと切り替える。

「すみません、御代です。今は運転中でしょうか?」

『いいよー、運転はヒナぴよだから』

 彼女も茅間みたいに自分で運転しないと気が済まないタイプなのだろうか。

 足……届くのかな?

『今ね、ヒナぴよの【軽】自動車で爆走中だよ』

『【軽】を強調すんなや!』

 小さく怒鳴り声が聞こえる。向こうも私用車なのか。

『おい、ウチにも聞こえるようにしろ!』

『はーい』

 向こうもスピーカーに切り替えたようだ。

 私はお母さんのコピー能力について、詳細を伝えた――。


『関係ねぇな。それでもウチらの敵じゃねえ』

「強がるんじゃねーよクソガキ! 大人しく戻れ!」

『戻るのはテメェだ謹慎野郎! 大人しく吉報を待ってな!』

 全く聞く耳持たない。こじれるから茅間は黙ってて欲しい。

「私たちも援護しますので、それまで待っていただけませんか?」

『クミミン! 通話を切れ!』

「ちょっ、待って下さい!」

 ――切断音。通話が切れてしまった。


「あのバカ……」

「あの、こうさんは……」

えーよ。あの三人が揃っちまえば、歴代の1級ですら敵う奴らはいねえ」

 あれだけ険悪にしてた茅間が認めるほどの強さ。なのに何故、これほどまでに心配しているのか。


「それでも、御代真奈は異質すぎる。ヤツはまだ……底を見せていねーんだ」

 

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