第3話 辺境村に迫る影
村での生活にも、ようやく慣れてきた。
朝は畑仕事を手伝い、昼は依頼された道具を直し、夜はみんなと食卓を囲む。
勇者パーティにいた頃には想像もできない、穏やかで楽しい日々。
「リオンさんのおかげで、村の暮らしがだいぶ楽になりましたよ」
農夫のガイルが笑顔で言う。
「収穫も増えたし、灯りも戻ったし、井戸の水も使いやすくなった」
「いえいえ、僕はただ直しているだけですよ」
そう返すが、内心はくすぐったい。
〈修繕〉がこれほど役立つなんて、自分でも驚きだった。
――だが、その幸せは長く続かなかった。
その日の夕刻。
村の見張り台から、慌ただしい叫び声が響いた。
「魔物だ! 魔物が来たぞーっ!」
村人たちが一斉に顔を上げる。
遠くの森から、黒い影がぞろぞろと現れていた。
牙を剥いた狼型の魔物、ゴブリンの群れ、そして翼を持つ怪鳥。
どれも辺境ではよく知られる脅威だった。
「ま、まずい! 村には戦える者が少ないぞ!」
「どうするんだ村長!」
怯える声が広場を包む。
戦える若者は十人にも満たない。武器も古び、鍛冶屋すらいない。
このままでは村は滅ぼされるだろう。
「リオン殿……」
村長が震える声で僕を見る。
「どうか、何か策はないか……?」
「ぼ、僕ですか!?」
僕は目を丸くした。
戦闘なんてできるはずがない。僕のスキルは〈修繕〉だ。
だが、村人たちの不安げな顔を見た瞬間――心が決まった。
「……わかりました。僕にできることをやってみます」
◇
僕は慌てて倉庫を開け、直した道具や修繕済みの武具を引っ張り出した。
鍬、鎌、古びた剣、割れた盾。
それらはすでに〈修繕〉によって新品以上に蘇っている。
「これを使ってください!」
若者たちに武具を配ると、彼らの顔に光が戻る。
鍬を振るえば軽く、鎌は鋭く、剣は魔力を帯び、盾はびくともしない。
道具を手にした瞬間、勇気がわいてくるのがわかった。
「すげぇ……! これなら戦える!」
「俺たちにも勝機があるぞ!」
やがて魔物たちが村の柵を突き破ろうとした、その時――。
「行けぇぇぇっ!」
若者たちが修繕武具を構え、一斉に突撃した。
鍬が狼の牙を弾き、鎌がゴブリンの棍棒を切り裂く。
修繕された武具は、不思議な光をまとい、まるで持ち主を守るかのようだった。
「おおおっ!」
「負けるなぁ!」
村人たちの声援が飛ぶ。
戦いの最中、僕は壊れかけた盾を素早く直し、折れそうな矢を補強した。
そのたびに前線が持ち直し、戦況は次第に村人たちの有利に傾いていった。
そして――。
最後の怪鳥が撃ち落とされ、辺境の村に静寂が戻った。
地面に座り込む若者たちの顔には、達成感と笑顔が浮かんでいる。
「勝った……! 本当に勝ったんだ!」
「リオンさんのおかげだ!」
歓声が村に広がった。
僕は胸をなでおろし、力なく笑う。
「……僕は何もしてない。ただ、壊れた物を直しただけですよ」
そう言うと、村長が力強く首を振った。
「いや、リオン殿。そなたがいたから、この村は救われたのじゃ」
その言葉に、胸が熱くなる。
追放された僕が、誰かの役に立てた。
それだけで十分すぎるほど幸せだった。
◇
その夜、村は祝勝の宴となった。
笑い声と音楽が響き、皆が僕を称えた。
だが一方で、心の奥に小さな不安が芽生えていた。
――この力のことが広まったら、勇者パーティはどう思うだろうか?
それでも、今は考えない。
村の人々の笑顔を見ながら、僕は杯を掲げた。
「……これからも、この村を守ろう」
辺境でのスローライフは、少しずつ「救世主の物語」に変わり始めていた。




