第14話 王宮での試練 ― 修繕士の実力を証明せよ
王の歓迎の言葉に続き、広間は拍手と歓声で包まれた。
だが、その中に混じる冷たい視線を僕は感じ取っていた。
「ふん……“修繕士”など眉唾だ」
低く響く声に振り返ると、豪奢な衣を纏った老人――宰相のドレイクが立っていた。
鋭い鷹のような眼光が、僕を射抜く。
「折れた剣や鎧を直した程度で、奇跡などと騒ぐとは愚かしい。王都には腕の立つ鍛冶師が山ほどいる」
「ですが宰相殿、修繕士リオンの力は確かに――」
ロイが口を開くが、ドレイクは一蹴した。
「証拠もなく軽々しく認めるわけにはいかん。国を揺るがす存在なのだぞ」
広間の空気が重くなる。
王は沈黙を守り、ただ僕を見据えていた。
「よろしい。ならば試すがいい」
ドレイクが手を叩くと、騎士たちが巨大な木箱を運び込んできた。
蓋が開けられると、中には――。
ひび割れ、砕け散った大盾が収められていた。
表面には複雑な紋章が刻まれ、かつては王国を守る至宝だったと分かる。
「これは《聖盾アークレア》。千年前の戦で砕け、以来誰一人直せなかった王国の遺産だ」
ドレイクの声が広間に響く。
「もし本当に奇跡の修繕士ならば、この盾を直してみせろ」
ざわめきが広がる。
僕の喉がごくりと鳴った。
(千年前の遺産……僕にできるのか?)
不安が胸を締め付ける。
けれど、村人たちの笑顔や、子どもたちの声が頭に浮かんだ。
「僕は……逃げない」
深呼吸し、盾に手をかざす。
「――〈修繕〉」
次の瞬間、広間が光に包まれた。
砕け散った破片が宙に舞い、淡い糸のような光がそれらを結び付けていく。
ゴゴゴゴ……。
重厚な音を立てながら、聖盾が一つに形を取り戻していく。
「ば、馬鹿な……!」
「本当に……直っていくのか!?」
貴族や騎士たちの驚愕の声。
やがて光が収まったとき、そこにあったのは――傷一つない、美しい大盾。
紋章が輝き、まるで千年前から蘇ったかのようだった。
僕がそっと手を離すと、盾が低く唸るように共鳴した。
持ち上げた騎士は、その軽さと強度に目を見開いた。
「まさしく奇跡……!」
広間はどよめきと歓声に包まれる。
国王はゆっくりと立ち上がり、僕を見据えて告げた。
「修繕士リオン。その力、疑いようはない。我が国はそなたを“国の守護者”として迎え入れる」
その言葉に、広間の人々が一斉に頭を下げた。
だが――。
宰相ドレイクの瞳には、なお鋭い光が宿っていた。
(あれは……承服していない。必ず何か仕掛けてくる)
胸の奥で、不穏な予感が膨らんでいった。