第12話 王都への旅立ち
翌朝。
村の広場には、人が溢れていた。
老若男女、子どもから大人まで――村の全員が見送りに集まっている。
僕の荷物は小さな鞄ひとつ。修繕用の道具と、直したおもちゃの木の剣が入っているだけだ。
「リオンさん……本当に行っちゃうの?」
昨日泣いていた子どもが、また目を赤くして僕を見上げる。
僕は膝をつき、目線を合わせて微笑んだ。
「大丈夫。また帰ってくるよ。その時までに、いっぱい強くなっておいてな」
「うん……!」
子どもが力強く頷くと、今度こそ涙をこらえ、笑顔を見せてくれた。
「リオン殿」
村長が前に出る。
「そなたの決断、わしらは尊重する。……だが無理はするでないぞ。帰る場所はいつでもここにある」
その言葉に、胸が熱くなった。
「ありがとうございます。僕は……この村が大好きです」
村人たちから一斉に拍手が起こり、あたたかな空気が広がる。
僕はその光景を胸に刻みながら、馬車に乗り込んだ。
馬車がゆっくりと村を離れていく。
見送りの人々の姿が小さくなり、やがて森の影に隠れていった。
隣にはロイが座っている。
彼は窓の外を見ながら口を開いた。
「……後悔はしていないか?」
「ええ。少し寂しいですけど、これが僕の選んだ道ですから」
そう答えると、ロイがわずかに口元を緩めた。
「強いな。辺境に残っていた方が、楽だったはずだ」
「楽なだけじゃ、意味がない気がします。僕は修繕を通して、人を守りたいんです」
その言葉に、ロイは一瞬だけ目を見開き、やがて静かに頷いた。
馬車の外は、緑の森から次第に石畳の道へと変わっていく。
王都へ向かう大街道。商隊や旅人とすれ違うたびに、僕は少しずつ現実感を増していった。
(……僕が王都に行くなんて、少し前までは考えもしなかったな)
勇者パーティを追放され、絶望の中でたどり着いた辺境村。
あそこで得た笑顔や信頼が、僕の力になっている。
だからこそ、どこへ行っても――きっと大丈夫だ。
「リオン」
ふいにロイが声を低くした。
「王都に着いたら、お前はただの“村の修繕士”ではいられない。
陛下はお前を“国の宝”として迎え入れるだろう。……それは同時に、自由を失うことを意味する」
「……自由を?」
「お前の力は強すぎる。利用したい者、奪おうとする者……必ず現れる。
だからこそ、心しておけ」
ロイの言葉は重かった。
けれど僕は静かに答える。
「分かりました。それでも……僕は、修繕で人を救いたいです」
ロイはしばし沈黙し、そしてわずかに笑った。
「やはり、お前は不思議な奴だな」
馬車は夕日に照らされながら進み続ける。
遠くに見えたのは、そびえ立つ城壁――王都の影。
心臓がどくん、と高鳴った。
(さあ、次は……王都での物語だ)