たまご焼きの作り方 まぜまぜ編
私はトワと一緒にキッチンに向かった。
そしておそるおそる冷蔵庫を開く。
だってトワのこと見てると、怖かった。
段ボールもぐちゃぐちゃだったし。
冷蔵庫にお洋服とか定規とかコンパスとか出てきそうだし。
……どうか食べ物が入ってますように‼
祈りながら開くと、卵が入っていた。
食べ物が入ってる‼
「卵、入ってる……」
「卵かけご飯を食べるからね」
トワは何故か得意げに私を見る。
「卵かけご飯が好きなの?」
「ううん。一番好きなのは卵焼き! でも作れないから、卵かけご飯にしてる。まぁ私のお腹の中は、卵焼きだと思ってるハズ。だから毎日、卵焼きだよ」
「何を言ってるの……?」
トワは、本当に、何を言ってるの……?
不安になりながら、ほかに何か探す。
冷蔵庫のそばに、お醤油があった。
お箸とお茶碗とお皿も。
たぶんさっき、トワが料理したときに使おうとしていたのだろう。
「ねぇトワ、油はある?」
「うん。番組で貰った、かっこいい油があるよ」
トワはサッとリビングの段ボールの山に向かった。
「えいやっ……ない。えいやっ……ううん? そーい‼」
トワは段ボールを開け、ぽいぽい中身を床に放り投げつつ、すぽんっとなにかを引っこ抜いた。
「ほら! あった!」
キラキラスマイルで言うけど、床は大惨事だ。
あとで片づけ、お手伝いしよう。
心に決めながら、焦げたフライパンを洗う。
そばに菜箸──料理用の長いお箸があったので、それも一緒に洗った。
トワはフライパンの焦げが落ちていくのをじっと見ている。
「どうしたのトワ」
「卵焼きって四角のフライパンじゃなきゃダメなんじゃないの?」
「丸いフライパンでも出来るよ」
私は手を洗って、お茶碗に卵を割り入れた。
お茶碗の中に、ぷるんと卵が滑っていく。
ぷっくりオレンジ色の部分が卵黄で、つるんと透明で弾力があるほうが卵白だ。
お箸を使って、卵黄を割ると、トロリとほぐれる。
オレンジ色の卵黄にぽこんと卵白が浮くから、卵白をお箸で切るようにして混ぜれば、卵白と卵黄でマーブル状だったお茶碗の中が、黄色く変わっていく。
「なんでそんなに混ぜるの?」
トワが首を傾げる。
「よく混ぜないと、卵黄の部分と卵白の部分がいっしょにならなくて、食べたときモサモサするからだよ」
「なんで?」
「卵黄とね、卵白、温めると固まるんだけど……それぞれ固まる時間が違うんだよ」
私は家庭科で習ったけど、トワは……知らないのかもしれない。
お仕事とかあるから、早退するって呟いてたの、見たことあるし。
「だから混ぜて、固まる時間を一緒にするの」
「混ぜる機械が無いと駄目だと思ってた」
トワは「お箸でもできるんだぁ」と魔法を見るみたいに言う。
「うん。それにきちんと全体が混ざれば、ずーっと混ぜてなくていいの。このドロッとした卵白がさらさらになれば大丈夫」