真っ黒こげのフライパン
「ううう、どうしよう、どうしよう……どうしよう……!」
トワは泣きそうな顔でコンロのフライパンを前にウロウロしている。
フライパンからはモクモクと煙が上がっていた。でも、火はついてない。
「トワ‼」
名前を呼ぶと、トワがバッとこちらに振り返った。
先生に怒られた子みたいな、助けてって顔をしている。
「トワどうしたの? 大丈夫?」
すぐに駆け寄ると、トワは「わかんないよぉ」と声を震わせた。
フライパンの中には、真っ黒なよく分からない何かがあって、煙はそこから出ていた。
「か、換気扇は?」
料理をする前は、しっかり換気扇をつけなきゃいけない。
お料理をするときに出てくる湯気や臭いがつくのもあるけど、こういう時危ないから。
でも……、
「換気扇?」
トワの返事に、私はすぐコンロに近づいて換気扇のスイッチを押した。換気扇の羽が回転する音がして、煙がどんどん吸い込まれていく。
焦げ臭いのと煙は、火事じゃなくて換気扇をつけてなかったからだったんだ!
臭いも煙も行き場が無くて、部屋の中をグルグルしたあと、私の家まできちゃったらしい。
煙や臭いがこっちまで来たのは分かったけど……そもそも、なんで煙や臭いが……?
私はフライパンの中を見る。プスプスいっているそれは、真っ黒焦げで何か分からない。
まん丸っぽい、塊っぽい、テニスボールくらいの大きさの、何か。
「こ、これ何」
トワに聞くと、彼女は「カレー……」と呟いた。
「えっ、カレーがなんでこんなに、塊みたいに……?」
「れ、レトルトのやつ、温めようとしてただけ……」
「でもレトルトのカレーって、袋のままお鍋で湯煎したり、電子レンジでチンするもの……」
「そ、そ、そ、そうだけど……袋から出してフライパンでやったほうが早いと思って……電子レンジは、ご飯温めてたし……うぅ」
トワはさっきみたいな冷たい感じじゃなく、しょんぼりしていた。
「でもなんでこんな、真っ黒こげに」
私はフライパンをじっと見つめ、ハッとした。コンロは火が消えていても、最後に弱火を使ったのか、中火だったのか、強火で使っていたのか分かる。
見ると、最後に使っていた火力は強火だった。
「なんで強火?」
「早そうだと思ったから」
「いや、強火は早くするためのものじゃないよ?」
軽く焦げ目をつけたり、水分をとばして外側をカリっとさせるためのものだ。
だから、早く作るために使うものじゃない。
でもトワは顔をぐしゃぐしゃにして、自分の手のひらをぎゅっと握り、ぷるぷる震え始めた。
「トワ……?」
「そ……」
トワはか細い声で呟く。
「そ?」
「そんなの知らない‼ 分かんないもん‼ うわああああああああああああああああん‼」
そして、まるで赤ちゃんが泣くみたいに、トワは泣きだした。