わたしとトワ
トワを好きになったのは、中学生に入ってすぐの新学期がきっかけだ。
私は、中学校でちゃんとできるか不安だった。
勉強もそうだし、部活とか、委員会もいろいろ。
一番不安だったのは、友達ができるかどうか。
小学校で仲良しだった子は、みんな私立の学校を受験した。
だから中学校は別々になってしまった。
私が入学した中学校は、小学校から一緒の子もいる。
でも、すっごく仲が悪いわけでも、仲良しでもない。
ほかの小学校の子たちは、ほかの小学校の子同士で仲良くお話していて、邪魔できない。
自分から話しかけなきゃと思っても、嫌われたらどうしようって勇気が出ない。
学校から帰っても、明日のことを考えるとお腹が痛くなった。
みんなに友達なんてすぐできるって言われても不安は消えなくて。
そんな時、スタパルの曲がすっごく流行った。
みんなスタパルが大好きになっていく。
でも、私はまだまだ、名前しか知らない側。
輪に入れないって思ってた。でも。
──ここなさんって、スタパルって知ってる?
──ごめん、名前だけ。
──えぇ⁉ そうなの?
──じゃあ、教えてあげる‼ ね‼ みんな‼
──うん。最初に聞くのは、この曲がいいかも‼
みんなスタパルについてお話してくれた。
──ここなちゃん‼ スタパルの曲聞いた?
──うん、聞いたよ。
──じゃあ、このドラマ見てみて、トワが主題歌なんだ~!
──ありがとう!
そうやってクラスの皆と少しずつ話せるようになった。
学校が楽しくなった。
そうして仲良くなった子たちに、どうしてみんなスタパルについて教えてくれたのか聞くと、みんなはこう言ったのだ。
──トワが誰でも皆初めて、知らないことは、新しいことを知るチャンスって!
──スタパルを知らない子がいても、優しく教えてって言ってたから!
トワの言葉で、皆は私に声をかけてくれた。
トワの言葉で、何にも知らない私に優しく教えてくれた。
だから、私はトワが好き。トワのおかげで学校が怖くなくなったから。
『どうか私の声が、あなたに届きますよーに!』
動画終わりでニコニコ笑顔のトワが言う。
届いたよ、と私は心の中で返事をし、あったかい気持ちでいっぱいになりながらスマホを鞄にしまう。
ちなみに私の鞄には、スタパルのキーホルダーがついている。
本当はトワ推しって分かるトワのキーホルダーをつけたい。
でも、ランダムでトワだけ引くのは出来ないから、絶対買えるグループのキーホルダーをつけている。
私はキーホルダーをぎゅっと握ってから、隣の席にちらりと視線を向けた。
メガネをかけた、クールな雰囲気の男の子。
朝日すばるくん。この間、このクラスに転校してきた子だ。
話しかけたいけど、彼は誰とも話そうとしない。理由は分からない。
一人が好きな子なのか、人見知りなのかも分からないくらい、喋らない。
でも、すばるくんが誰かと話がしたいのに、勇気が出ない子だったら。
「すばるくん、スタパルって知ってる?」
私はおそるおそるすばるくんに声をかけた。
「知らない」
すばるくんは無表情で首を横に振った。
「興味ある?」
「ない」
「すばるくんお話するの好きじゃない?」
「普通」
すばるくんはそう言って、また読書を始める。
これじゃあどっちか分からない。
現実は、推しがいてもちょっぴり難しい。