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トワのキッチン  作者: 稲井田そう
ふわふわ♡たまご焼き
2/10

わたしとトワ

 トワを好きになったのは、中学生に入ってすぐの新学期がきっかけだ。


 私は、中学校でちゃんとできるか不安だった。


 勉強もそうだし、部活とか、委員会もいろいろ。


 一番不安だったのは、友達ができるかどうか。


 小学校で仲良しだった子は、みんな私立の学校を受験した。


 だから中学校は別々になってしまった。


 私が入学した中学校は、小学校から一緒の子もいる。


 でも、すっごく仲が悪いわけでも、仲良しでもない。


 ほかの小学校の子たちは、ほかの小学校の子同士で仲良くお話していて、邪魔できない。


 自分から話しかけなきゃと思っても、嫌われたらどうしようって勇気が出ない。


 学校から帰っても、明日のことを考えるとお腹が痛くなった。


 みんなに友達なんてすぐできるって言われても不安は消えなくて。


 そんな時、スタパルの曲がすっごく流行った。


 みんなスタパルが大好きになっていく。


 でも、私はまだまだ、名前しか知らない側。


 輪に入れないって思ってた。でも。


 ──ここなさんって、スタパルって知ってる?


 ──ごめん、名前だけ。


 ──えぇ⁉ そうなの?


 ──じゃあ、教えてあげる‼ ね‼ みんな‼


 ──うん。最初に聞くのは、この曲がいいかも‼


 みんなスタパルについてお話してくれた。


 ──ここなちゃん‼ スタパルの曲聞いた?


 ──うん、聞いたよ。


 ──じゃあ、このドラマ見てみて、トワが主題歌なんだ~!


 ──ありがとう!


 そうやってクラスの皆と少しずつ話せるようになった。


 学校が楽しくなった。


 そうして仲良くなった子たちに、どうしてみんなスタパルについて教えてくれたのか聞くと、みんなはこう言ったのだ。


 ──トワが誰でも皆初めて、知らないことは、新しいことを知るチャンスって!


 ──スタパルを知らない子がいても、優しく教えてって言ってたから!


 トワの言葉で、皆は私に声をかけてくれた。


 トワの言葉で、何にも知らない私に優しく教えてくれた。


 だから、私はトワが好き。トワのおかげで学校が怖くなくなったから。


『どうか私の声が、あなたに届きますよーに!』


 動画終わりでニコニコ笑顔のトワが言う。


 届いたよ、と私は心の中で返事をし、あったかい気持ちでいっぱいになりながらスマホを鞄にしまう。


 ちなみに私の鞄には、スタパルのキーホルダーがついている。


 本当はトワ推しって分かるトワのキーホルダーをつけたい。


 でも、ランダムでトワだけ引くのは出来ないから、絶対買えるグループのキーホルダーをつけている。


 私はキーホルダーをぎゅっと握ってから、隣の席にちらりと視線を向けた。


 メガネをかけた、クールな雰囲気の男の子。


 朝日(あさひ)すばるくん。この間、このクラスに転校してきた子だ。


 話しかけたいけど、彼は誰とも話そうとしない。理由は分からない。


 一人が好きな子なのか、人見知りなのかも分からないくらい、喋らない。


 でも、すばるくんが誰かと話がしたいのに、勇気が出ない子だったら。


「すばるくん、スタパルって知ってる?」


 私はおそるおそるすばるくんに声をかけた。


「知らない」


 すばるくんは無表情で首を横に振った。


「興味ある?」


「ない」


「すばるくんお話するの好きじゃない?」


「普通」


 すばるくんはそう言って、また読書を始める。


 これじゃあどっちか分からない。


 現実は、推しがいてもちょっぴり難しい。

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