第42話 妹の思惑、俺の思惑 ~ルティード視点~
「また面倒かつ大きな案件を持ってきたな、あの妹は」
妹が去った後の室内で、私は一人、そう独り言ちる。
血の繋がった相手ではあるが、情はない。
だからあの場で妹からの要請を断る事もわけはなかった。
それでも調査を請け負ったのは、それが俺の宰相補佐としての仕事の範疇であると同時に、公爵家次期当主としても意味ある事だと思ったからだ。
『王城内の不正を正すのは宰相補佐の仕事のうち』というのは、そのままの意味。
対して『公爵家次期当主として、この件を明るみにする事に意味がある』というのは、今回の調査対象である文官長が、敵対派閥であるダンドール公爵派もとい侵略派に属する家だからだ。
王城経理部といえば、王城の要職の一つである。
そこに所属する敵対派閥の男を一人、正当な理由で排除する事には大きな意味がある。
少なくとも、王城内におけるかの派閥の影響力は下がるだろう。
それどころか、国庫を脅かしたという事実は、国の屋台骨を揺るがす不正だ。
社交場でそれを論えば、かの派閥の社交的発言力さえ下げる事さえ可能になる。
そうなれば、相対的に王族派もとい和平派の影響力は増すだろう。
派閥内での俺の発言力や、神輿たる陛下からの信頼も上がる。
つまりこれは、『結果主義の俺が、結果を得るためのいい機会』なのである。
動かない訳がない。
その辺を、分かっているのか、いないのか。
事実は分からないものの、少なくとも最近の妹を見る限り、確信犯のような気がするが、そんな事はどちらでもいい。
結果が付いてくれば問題ない。
宰相補佐の権限と、スイズ公爵家の権力、何なら事前に国王陛下からの調査許可まで得て、万全な状態で調査に挑む。
結果は自ずとついてくる。
懸念すべきは、そもそも不正などというものが存在しなかった場合だが……。
「今の妹が、俺が一度の失敗で妹を見捨てるだろう事を、目算に入れていない筈がない」
そうでなくとも、本来『部外秘資料の写しを取る事』は罪になる。
王妃教育を受けた妹が、その事も、俺がそういう事を取り締まる立場にある事も、知らない筈はない。
それでもアレを俺に見せた事。
そして直近――夜会の一件で成果を上げた事と、先日陛下の言質を取った上で、自分に利のある後宮内人事を行った事。
それらは、実績とするには十分だ。
実績とは、すなわち成果である。
成果主義の人間が、成果を評価基準にしない筈などなく。
このくらいの件なら、妹を信じてやってもいいと判断した。
もちろん今回成果が出なければ、以降は取り合う気などないが。
まぁ今の妹ならば、俺がそう思っている事も看破しているのではないだろうか。
俺も、特に隠していない事だしな。
それでも尚賭けに出る理由が、何かあるのだろう。
その何かが何なのかは知らないが。
まぁ何も守れず何も残らないような、以前までの生き方をする妹よりは、たとえ賭けでも博打でも、行動する方が建設的だ。
そういう人間が、成果を生む。
俺は、今の妹に情はないが、それでも以前よりは幾分か評価しているつもりだ。




