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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
第五章:やり直し王妃、正義の文官を求める

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第37話 野望に満ちた者 ~側妃ミーナ視点~



「二人目が生まれた?」

「はい、先程。何事もなく、姫が生まれました」


 王妃の部屋付きの中に忍ばせているメイドからの報告を聞き、私はキュッと口を引き結ぶ。


「あの程度じゃあ、確実性はないと思っていたけど」


 お腹の中の子が、王妃のお腹を食い破って出てくる。

 王妃を救いたかったら、お腹の子の息の根を止めるしかない。


 そんなふうに吹き込ませたメイドは、この件とは別件で王妃によって後宮から追放された。



 王妃がこちらの工作に気付いていたとは思えない。

 追放は、ただの事故のようなものなのだろうけど、それにしても自分の子飼いが削られるのは気分がいい話ではなかった。


 だから願ったのだ。

 吹き込んだ嘘が、何らかの形で芽吹く事を。



 王子が二人目を殺せば最善。

 そうならなくてもお腹の子や王妃に危害を加えれば、両者の関係性にきっと亀裂が走るだろう。


 王妃と王子――第一継承権の保持者が距離を置けば、次善。

 その王子をこちらに引き込めれば、更に上々。


 そんなふうに思っていた。



 しかし実際は、何も起きなかった。

 何事もなく、生まれてしまった。


 

 側妃ではなく、正妃になりたい。

 それが実分譲叶わないのなら、正妃以上の側妃になりたい。


 そんな私の野望に倣い、既に先日一つ、それなりに大きく事を成そうとした。


 それは失敗。

 私は未だに、名実ともにこの国で二番目に権力を持った女のままだ。


「この子がお腹に宿った時、これは天の采配だと思ったのだけど」


 そう言いながら、お腹を擦る。



 まだまったく目立っていないお腹。

 しかし妊娠の兆候は出ており、医師からも既に「間違いない」と言われている。



 子どもができれば、正妃は「後継ぎを持つ唯一の妃」ではなくなる。

 それを足掛かりに陛下には、正妃の子より私の子を愛し優遇してくれるように働きかけるつもりだ。


 少し前までの手ごたえならば、それだけでも十分『正妃に勝る側妃の地位』を得る事は現実的だと思っていたのだけど。


「最近、心なしか陛下がつれないような気がするし」


 厳密に言えば、先日のエインフィリア公爵家で行われた夜会の時以降。

 外面はまったく変わらない。


 この前だって、欲しいアクセサリーを買ってくれた。

 相変わらず陛下は私に甘く、色々なお願いを聞いてくれる。


 それでも何となく、少し素っ気なくなったような、距離を取られたような気持ちなっている。

 気のせいかもしれないその変化に追い立てられるようにして、正妃の息子に吹き込んだのが、先日の話。



 これまた天の采配でうまく事が転ばないかと思ったけど、結果は振るわず。

 

 正妃が生んだ二人目が、男でなかった事はよかった。

 そこは神の加護があったのかもしれない。


 お陰で私は一人殺せば、少なくとも次期国王の母にはなれる。


「とはいえ、状況はあまりいいとは言えないのよねぇ。陛下の件がもし気のせいだとしても、最近王妃に私の子飼い(メイド)を、追放されたところだし」


 あのメイドは、自分の矜持と野心に素直で、とても扱いやすかった。

 目に見える見返りがなくとも私の言葉通りに動いてくれたし、それをストレスに思わないどころか楽しそうにやっていた。


 十中八九寝返る事のない、ちょっとした事を命じるのに、とても都合のいいメイドだった。


「それと同時に、自分は何? 側付きを一人増やしたなんて。話を聞くに、最近は特にその子を重用しているみたいだし」


 ズルいじゃない。

 そう呟く。


 正妃のところに不定期で出入りしている者の中に、何人か目をかけているのがいるのだけど、メイド周りは正妃が自分に近しい場所の用事を新しいメイドにほぼ振るようになったせいで、大した情報が取れなくなった。


 それも相まって煩わしく、何だかとてもイライラとする。


「そのメイドを辞めさせてもいいけど……」


 後宮での権限は、建前上は正妃が強い。

 先日陛下が「正妃の後宮内での人事権を認めた」らしい。

 そういう話をメイドから伝え聞いた。

 

 だから表立って私の権限で、件のメイドを辞めさせる事は難しい。

 正妃のところに囲われて以降、滅多な事がなければ正妃の傍を離れなくなったらしい彼女に、直接的に私が何かするのも難しく、情報取り用のメイドの誰かに嫌がらせを指示する事もできるけど……。


「あんな弱っちい正妃如きにこれ以上人数を減らされたら、今度こそ苛立ちでどうにかなっちゃいそう!」


 たしかに先日の夜会の時はやられたけど、あんなのどうせ偶然か何か。

 人の本質はそう変わらないのだ。

 あんな他人に甘くて弱い女に、私が負ける筈もない。


 しかしだからこそ、もしそうでない偶然がこれ以上重なれば、その屈辱は計り知れない。


 と、なれば。


「私が直接的に行動した方が確実ね」


 妊婦にとって、ストレスは大敵だもの。

 本当は誰かに任せた方が楽でいいのだけど、その方が却ってストレスが溜まるという事なら、話はまた別になる。


 相手はちょうど出産を終え、幼児と乳児の育児をしながら社交界にも出なければならないような時期。

 精神的にも肉体的にも余裕がない今、仕掛けるのにはちょうどいい。


「私もこの先お腹の中の子が大きくなるにつれ、社交場に顔を出せなくなってしまうしね」


 だからその前に。

  


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