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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第四章】第一節:後宮にて(第四賭:対後宮メイド)

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第33話 アンを傍に置くための建前



「お母さま! アン、ケガないって!」

「そのようね、よかったわ」

「あああああの! 王妃様! 助けていただきありがとうございます! 精一杯頑張らせていただきます!」

「えぇよろしくね」


 恐縮し切った様子のアンに、私は笑顔でそう応じた。


 今でこそ慣れない様子だけど、時と共に彼女も解れてくるだろう。

 無垢な子どもの心も持ち得ず、立場もある私が彼女にしてあげられる事と言えば、そのための時間を与える事くらいである。


「ではロディス、そろそろお部屋に戻りましょうか」

「うん!」


 ロディスが空いている方の手で、私の手を握った。



 悔しそうに歯噛みした階上のメイドを置いて、二人を連れ私は踵を返す。


 アンが恐縮してロディスの手を放そうとしたものの、私が「ロディスのしたいようにさせてあげて」とやんわりと制すれば、納得したようにそのままを許容してくれた。


「ところでアン、アンの得意な事は何かしら」

「得意な事、ですか? そうですね……。あっ! 食べられる草とそうじゃないのを識別するのは得意ですよ! って、こんな事が得意だからって、いったい何になるのかという話ですが」


 自嘲交じりの苦笑と共に「すみません」という謝罪が返ってきた。


 誰からか、過去にそんな事を言われたのだろうか。

 実際のところは分からないけど。


「謝る必要はないわ。むしろちょうどいいし」

「えっ?」


 食べられる草と、そうじゃない草。

 両者の識別ができるという事は、毒草かそうでないかを見分ける事ができるという事と、ほぼ同義だ。


 しかも、おそらくは生きた知識だ。


 その上、実際に安全な物は自身で食したとなれば、その内の何度かは失敗し、痛い目を見ているかもしれない。

 それならば、その時の症状や対処法も、おそらく知っているのではないだろうか。



 ちょうど、「毒は日常の近くにあるよ! 気をつけて!!」作戦を進めるためには、本で得た私の知識だけでは足りないなと思っていたところである。


 彼女だってすべての毒物を知っている訳ではないだろうけど、本にはないけど実は食べられる/食べられないものもあるかもしれない。

 知識の出先は一つより、二つの方が心強い。


「貴女には、私の側付きメイドをしてもらう傍らで、私やロディスにその知識や実体験を教える先生になってもらいましょう」

「せっ、先生?!」


 アンの声が盛大にひっくり返った。

 ロディスが私たちを見上げて「先生って何?」と聞いてくる。


「先生とは、知らない事を教えてくれる人。知らない事を知る事は、将来必ずロディスの事を助けてくれます。ですから、そうですね……。アンは私たちの未来の恩人になるという事ですね」

「そっか、おんじん!」

「はぅぅっ!」


 尊敬に満ちたロディスの瞳に、アンが当てられ身悶えた。

 一体どういう反応なのか。

 ちょっと定かではないものの、表情だけ見れば昇天寸前という感じ。

 少なくとも悪感情はない。


 ……まぁ?

 ロディスは可愛らしい子ですし?

 子どもにこのような無垢な瞳で見つめられた日には、胸をうっかり撃ち抜かれてしまう気持ちも分からなくはないけど?


 仲睦まじく前を歩く二人を見ながら、思わず母としての親バカが爆発したのだった。



 § § §



「王妃様。王妃様の傍に置く者に関しては、陛下にご確認いただかなければ」


 部屋に戻り、早速ロディスが新しい遊び相手の手を引いて庭に出て走り回り出した頃。

 ちょうど私が一人になったところを狙ったように、一人のメイドが固い声で言ってきた。


 私たちにずっと同行していた、『陛下の目』を担う、あのメイドだ。


 私は「はぁ」とため息を吐く。

 どうやら彼女は先程の話を、ちゃんと聞いていなかったらしい。


「貴女は先日、貴女が勝手に陛下を私の部屋に入れた時にした話の中で、誰でもない陛下御自身が『後宮内の人事権』をお認めくださった事、きちんと聞いていたでしょう」


 だから問題ない。

 そう言うと、彼女は固い声で「それはあくまでも家庭教師を雇い入れる事に関してです」と言い返してくる。



 たしかにそういう文脈ではあった。

 しかし実際に彼が認めたのは、いや、認めさせるように私が取った言質は、広義の意味での人事権だ。


 権力者の言葉は文脈ではなく、言った言葉それ自体が効力を持つ。

 そんなのは、この世界の貴族であれば皆が知り、気を付けるべき公然の注意事項だ。


「貴女は陛下が自分が口にした言葉そのものに責任も持てない、浅慮で狭量な人間だとでも?」

「私は王妃様が『平民を勝手に自分の懐に入れる浅慮』だと揶揄される事を避けたいだけです」

「あら。貴女のソレは、ただの陛下第一主義でしょう? 言葉は正しく使うべきだわ。『私の行動の結果、陛下に迷惑が掛かる事を避けたい』と」


 彼女は言葉を返さない。

 肯定こそしないが、否定もしない。


 その時点で答えがどのようなものなのか、察しなど簡単についてしまう。



 この様子では、私が何と言おうとも、このメイドは陛下に今回の事をすぐにでも報告するのだろう。

 もしかしたらより悪意を込めて、相手に伝えるかもしれない。

 しかしまぁ、それならそれでいい。


「私は陛下がこのような事に狭量を発揮するとは思っていませんが、もしそうなったところで今回は、私は彼女を『ロディスの家庭教師』として傍に置こうとしただけ。貴女が先程認めたように『家庭教師の雇い入れ』という与えられた権限の中で動く私に、陛下がどのような理由を突きつけて妨害してくるのか。ある種見物ではありますね」


 もし陛下がこれを却下すれば、彼は明確に一度口にした言葉を引っ込めた形になる。

 それこそこの話が外部に漏れれば、陛下の信用度は地を這うだろう。


 公にしたところで、私たちの不仲が露呈するだけだ。

 だから今のところ進んでそんな事をする気はないけど、それでも確実に私たちの間に亀裂が入る案件ではある。


 陛下は、利己主義。

 自分の利と不利に並々ならぬ鼻が利く。


 少なくとも今の、私を表立って冷遇してはいない、かつ先日エインフィリア公爵家とも友好を結んだ現状で、私を切るような馬鹿はしないだろう。


 まぁ万が一この『私に都合のいい信用』が裏切られるような結果になったとしても、私の認識が「陛下はそういう人なのだ」と改まるだけ。


 むしろ子どもたちの致命傷にならない場所で、それが分かってよかったとさえ思うだろう。



 私の声に、メイドは言葉を返さなくなった。


 それは果たして、勝算をなくしたからか、先日刺した釘のお陰なのか。

 前者だったら今度も面倒が続くのだろうけど、少なからず後者が影響しての事なら、先日のあの言い合いには意味はあった事になる。


 どちらにしても、彼女や陛下の今後の動向には、少なからず注力しよう。


 彼女はそうと分かっていて、傍に泳がせている『陛下の目』だ。

 泳がせている以上、叩き落とし切るより、経過を見るべき。


 そんな相手よりも叩き落とすべき人間は、目下に一人存在している。



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