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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第三章】第二節:後宮にて(第三賭:対エインフィリア公爵夫人)

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第27話 公爵夫人が抱く野心



 また、二つ目の賭けにも勝てたようだ。


 あのドレスの件をエサに、こういう場を作る事。

 思い通りに事が運んでくれたお陰で、私の負担がまた少し減る。


「あのドレスと同型の物は、他にも作成しているのでしょうか」

「私のは、これ一着です。夜会でお話しした通り、ノエさんの妹さんへのプレゼントは、今誂えさせているところですけれど」

「多く作る予定はないのですか? 新たな流行として、あのドレスを」

「あのドレスはあくまでも、『妊婦には妊娠中にも負担が少なく着れる』というのが売り。締め付けが少ない上でそれなりに形になる様に作っていても、やはり本気で着飾るのなら、コルセットを付けメリハリがつく、多少重くても飾りつけられた従来のドレスの方が視覚的に勝る。周りはそう評価するでしょう」

「しかし先日の夜会では、皆の目を見事に奪って見せました!」


 笑顔で躱そうとしたものの、夫人は更に食い下がった。


 ハァ、と小さくため息を吐く。

 言いくるめられないのなら、仕方がない。


「あれを新たな流行にするには、まず社会の『美』に対する概念に切り込まなければなりません。それ程今の美からは乖離したデザインですから」


 最大の理由を告げたところ、おそらく彼女も正しく認識しているのだろう。

 グッと押し黙った。



 アレをあのまま妊婦以外も着れるように整えて世に出したところで、それだけで流行の発信源になるほどの力が生まれる程、この世は革新的ではない。


 だからこそ、時戻り前の彼女は『妊婦のためのドレス』をお披露目した後、それ以外も着れるドレスに誂え直すのと同時に、流行を作り出すための情報工作と言ってもいい程の、話題性の演出を行った。

 両方同時でなければ、意味がないのだ。


 それを知った上で、彼女は今日、ここに来た。

 その目的は。


「私からあのデザインの権利を買い、出産・育児と忙しく時間のない私の代わりに、この国に新たな変革を齎したい。夫人はそんな野心をお持ちなのでしょう?」


 そう指摘してやると、見透かされているとは思いもしかったのか。

 それともここまで真っ直ぐに突きつけられるとは、思っていなかったのか。

 夫人の顔がほんの一瞬、真顔になった。



 あぁ、やはり図星だった。

 私はそう強く確信する。


 夫人が私のドレスを使って、自らの野心を形にしようとする事。

 これが、私の三つ目の賭け。


 これに関しては、完全に五分五分の賭けだった。


 彼女は時戻り前にも、あのドレスで野心を形にしている。

 しかしそれは、『自分で作ったドレスで』だ。

 『私が作ったドレスで』ではなかったから。



 制作発起人が自分ではない上で、尚それを使って野望を成そうと思わせるためには、魅力的な品が存在していなければならない。


 そういう品が作れていたか、そう見える演出ができていたか。

 それらが私が賭けに勝つための、補強材料だった。


 ここまで熱烈に話をする場を求められていたからある程度の勝算は見えていたけど、どうやら勝ちが確定したらしい。



 実際、ドレスの生産と流通・意識改革を彼女に任せるのは、一つの手ではあると思う。


 時戻り前の彼女は、実際にそれらを成し遂げている。

 使える伝手をすべて使い、大々的かつ確実に。


 これを機に、時戻り前の彼女はまだなかった実績を作り、エインフィリア公爵家夫人の名に恥じない名声を手に入れた。 

 国内だけではなく国外にも流通の輪を広げ流行を拡散し、それが国外に顔を売り、国力増強の一役を担う結果にもなった。



 話題を集めている今、一刻も早く事に出た方がいいのは間違いない。

 悔しいが、子育てに注力したい私としては、労力的にも任せた方がいい。


 しかし、リリアを殺したこの女にタダで功績を立てさせるのは、何があってもあり得ない。

 どうせ任せるのなら、彼女を味方――とはどうあっても思えないだろうから、せめて大きな貸しを作る事で、側妃の方に行かないように鎖を繋いでおきたい。


 となれば。


「構いませんよ。夫人にすべてをお任せしても」

「! ありがとうございま――」

「幾つかのお約束を守っていただけるなら、ですが」


 夫人に楔を打ちにかかる。



 嬉しそうに表情を華やがせた彼女は、おそらくこちらに何の見返りもなく私があのドレスの権限を手放すとでも思ったのだろうか。

 もしそうだとしたら私の事を「何も考えていない頭空っぽの王妃」か「根拠なく相手を信用する馬鹿」だと思っているとしか思えない。


 まぁ時戻り前の私なら――実際にこんな場面に出くわした事は一度もなかったけど――そうしていたのかもしれないけど。



 笑顔の端に僅かに警戒心を覗かせながら、夫人が「その約束とは……?」と尋ねてくる。


 ここからが四つ目の賭けであり、本命の賭けだ。



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