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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第三章】第二節:後宮にて(第三賭:対エインフィリア公爵夫人)

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第26話 敵か味方かを分ける賭け



 相手がどういう人間かを知っているという事は、交渉の場においてかなりの強みになる。


 その最たるところが、先程の陛下とのやり取りだ。



 陛下は利を好み、不利を嫌う。

 両者を天秤にかけるなら、より不利がある事を嫌う節がある。


 それは、側妃が私にした数々の嫌がらせ――もとい政敵への攻撃を知りながら口を挟まなかったという、一種の怠惰とも言える事なかれ思考からも明らかだ。


 だから先程も、一見すると不利を打ち消し利だけを齎す《《だけ》》に見えるような提案を彼に持ちかけた。

 結果として交渉はスムーズに行き、欲しい物を手に入れる事ができた。



 対して知らない相手との交渉は、持てる手札が少なくなる分、必然的に難易度が上がる。


 そういう時は、どうするか。


 ――常に会話の主導権を握り、相手に隙を与えない。

 それが美しい社交です。


 ゆっくりと目を閉じて息を吐くと、数少ない母との記憶を一つ、ポツリと思い出し、苦笑する。



 さて、そろそろ次の来訪者が来る。



 着替え終わり、窓から外の庭に目をやった。


 外ではロディスが相変わらず、楽しそうに駆け回っている。

 健やかに育っている彼の姿が、とても眩しくて愛おしい。


「お母様、もうひと頑張りしてくるわ」


 口の中でそう呟いて、片手を息子が見える窓ガラスに、もう片手をお腹に軽く添える。


 無邪気なロディスの分も、リリアがポコッとお腹の内壁を叩いて返事をしてくれた。


 ――この子、こんなにお転婆だったかしら。

 そんな感想を抱きながら、元気なリリアにクスクスと笑った。


 そういえば、時戻り前この時期には、陛下と側妃の一件で体調を崩して安静にしていた。

 時戻り前には感じなかった胎動の力強さが感じられるのなら、それは彼女があの時よりも健やかに過ごしているという事だ。


 それが私の頑張りに対する勲章のように思えて、「あぁ私は報われている」と心の奥底で噛み締めたのだった。



 §§§



 あの日に着たドレスを、夜会用よりは簡素に飾りつけて、髪を整え、一人の女性を部屋に迎える。


「お招きいただきありがとうございます、王妃殿下」

「本当ならば先日いただいたお茶会の招待状に、いいお答えを返せればよかったのですが」

「あれは不躾な招待状でした。このように、こちらの我儘でお時間を取っていただけただけでありがたい事ですので」


 申し訳なさそうに眉尻を下げた彼女に、私はニコリと微笑みを返す。



 エインフィリア公爵夫人・ユアリア。

 今回の来訪者は先程のとは違い、一応挨拶とお詫びを口にできるくらいには分別を持ち合わせているらしい。


 それでも身重の人間にしつこく招待状を送るあたり、分別があるのは上辺だけだと考えるのが妥当だろうか。

 

 先日の夜会に参加したから、お茶会も大丈夫だろうと思った。

 そういう可能性もなくはないけど、普通なら妊娠すれば出産まで社交界を退く。


 私だって、必要に迫られたから参加しただけで、正直に言えばまったく無理しなかった訳ではない。


 だからこそ、あの夜会は途中でお暇したのだ。

 その辺に気付かなかったのならば、外交と商売を生業にしている公爵家の夫人としては、あまりにも力不足。


 流石に気が付かない彼女ではない。

 となると。


 嫌がらせか、圧力のつもりか、ダメ元か。

 彼女も他に社交への招待状をくれていた人たちと同様に、「私に興味を持っている」「交流を持ちたいと思っている」事を示しすための行動……という可能性もあったけど、それはこうして「体に負担のない範囲でいいから」「出てこれないなら訪問してでも」と相手が食い下がってきた時点で、消え失せた。



 正直に言えば、応じるかどうか、少し悩んだ。

 それでもこうして今日彼女を呼ぶ方を選んだのは、母のあの言葉を思い出したからだ。


 常に会話の主導権を握り、相手に隙を与えない。

 それが美しい社交なのかは私には分からないけど、有用なのは私にも分かる。


 ここまで私との会話を求めているというこの現状は、こちらの有利に話を進めるためにはうってつけ。

 どうせ出産後には一度、彼女からの呼び出しに応じようと思っていた事もある。


 それなら確実に主導権が握れるだろう今、彼女にとっては慣れない場所、私にとっては慣れた場所で交渉する事ができる利点を生かさない手はないと思った。



 もちろん体調が、第一だ。

 リリアが元気に生まれてくれる事が、最優先。


 体になるべく負担が少なく、事が済ませられるように。

 そういう意味で今回も、私は四つの賭けを講じている。


 賭けの仕込みは、先日の夜会で済ませている。

 あとはそれが実れば、話はより短期決戦かついい結果に。

 実らなければ、交渉は決裂、下手をすれば彼女が敵に。

 これはそういう戦いだ。



 一つ目の賭けは、『彼女が公爵家の夫人として力不足などではなく、今回の訪問が嫌がらせでもない』事。


 夜会で話していての感触では、私への悪意も品定めの結果見捨てたとも思えず、あちらが敵対して得るメリットを見出せなかった。

 だから「それなりの勝算がある」と思い、体の負担が少なく済みそうだからと今回この時期に、この席に臨む事にした。


 その賭けの結果は。


「陛下のお体の事もありますから、なるべく端的に相談をさせていただきたいのですが」

「何でしょう」

「先日の夜会に着て来ていた、あのドレスについてです」


 私の体調を慮っての、形式や遠回しを省いた話運び。

 どうやら無事に勝ったらしい。



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