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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第三章】第一節:後宮にて(対国王)

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第24話 利己的で傲慢な思考の至る所 ~国王視点~



 王妃エリスに、特別な感情はない。


 エリスがスイズ公爵家の令嬢であった事。

 立ち居振る舞いも外聞も、国王の伴侶として問題なかった事。

 それらが理由で婚姻を結んだ。


 完全なる政略だが、そもそも王家の婚姻とはそういう物だろう。

 公務を常に共にして、子作りも国王の義務としてきちんと成した。

 エリスも王妃の義務として無事に子を産んだ。


 ただそれだけの事である。



 それ以上でも、以下でもない。

 そんなのは公然の真実だ。


 そしてそれは、側妃ミーナも同じ事。



 ミーナと初めて会ったのは、とある夜会会場だったと思う。

 こちらの不注意でぶつかって、令嬢を一人転ばせてしまった。

 それがミーナだった。



 ミーナは愛のない婚姻に愛を囁いてほしがるエリスとは違い、サッパリとした性格の女だった。


 楽しかったら笑い、つまらなかったらそういう顔をする。

 彼女には周りの顔色を窺わない強さがあり、それが彼女に人としての華の根幹にあるように見えた。



 エリスのように貞淑な妻は、常に俺をよく立ててくれる。

 ミーナのように芯が強い妻は、常に俺の隣に立つ。


 俺にはどちらも有用だ。

 有用な物はうまく使うべきだ。


 この国のすべては、王のためにある。

 どう使おうと、俺の自由だ。



 俺はどうにも、相手の欲しいものを感じ取る力があるらしい。


 昔からの特技だが、相手が欲しい物を与える事程、他人を思い通りに操れる物もない。

 だからエリスには「愛の言葉」という名の見返りを、ミーナには「側妃」と優遇感を渡した。

 それぞれが最も欲しいだろう物を、事前報酬として渡したのである。



 それもここ半年、側妃に見返りの比重の偏りには自覚があったが、それにはきちんと理由がある。


 国を二分する派閥の片割れ――ダンドール公爵率いる侵略派が、最近宰相だけでなくその息子の後継者教育として、息子も城に上がった事。

 それを追うようにスイズ公爵家の娘エリスが後宮に上がり、そうでなくとも「国王率いる和平派が、近頃権力を握り過ぎだ」として水面下で騒いでいた事。

 そこに更に、エリスが二人目を身籠った事が重なったからだ。


 エリスをある程度冷遇しなければ、侵略派が動く口実を作りかねない。

 そうなれば、俺の生活に支障が出る。


 一番困るのは俺だ。

 そういう意味では、侵略派に属する家の娘であるミーナを側妃に召し上げたのは英断だったと言わざるを得ない。


 ミーナに寵愛の比重を置く事で、遠回し的に侵略派に便宜を図る事にした。


 それでこの半年間、事なきを得ている。

 俺の思惑はうまくいったのだろうと思う。



 この事は、エリスには話していない。


 スイズ公爵家には、宰相にもその息子にもよくしてやっている。

 公爵家への厚遇はそれで十分だろうし、この辺の政治向きの話をしたところで、エリスにはきっと理解できまい。


 そもそもエリスは、俺の決めた事にとやかく言うような女ではない。

 万が一下手に説明してゴネてきたらきたで、機嫌を取るのがまた面倒だ。



 早い話が、説明して俺が得られる利はない。

 だから何も言わない事にしたのだ。



 それで、すべてはうまく行っていた。

 なのに、何故今目の前のエリスは、こんなにも機嫌が悪いのだろう。


「ご要件は何でしょうか、陛下」


 久しぶりに部屋を訪れた俺に、エリスはめかし込むような事もなく、部屋着で出てきてそう言った。



 そんな事は、初めてだった。

 彼女の後ろにいた俺がエリスに付けたメイドが、今にも反論しそうな勢いで一歩前に出て、エリスに睨まれ口を噤ませられていた。



 エリスは、こんなふうに誰かを強くけん制するような女だったろうか。

 面食らいながら、そう考える。



 機嫌を損ねる理由として思い当たる事があるとすれば、先日ミーナにねだられて、ある夜会のエスコートをした事だろうか。


 いやしかし、あの時には既に今までのエリスとは違っていた。



 あの日のエリスには、今までにはなかった『たしかなカリスマ性』というものがあった。


 一体今までどこにその力を隠していたのか。

 そう尋ねたくなるくらいには、堂々とした立ち居振る舞いの『王妃』で。


 俺は迷わず、俺により利を与える方――エリスを選んだ。



 俺が忙しい執務の合間に、わざわざ後宮を訪れたのは、今後有用になりそうなエリスに、今後の働きの見返りを先払いするためだ。


 見返りの先払いは、人に借りを作る。

 相手は勝手に義務感や使命感、恩を感じて動くようになる。


 見返りの内容は、今までと同様。

 言葉一つで見返りになるのだから、随分と安上がりで、楽で助かる。



 そう、思っていた。

 つい先程まで。


「用事がなければ、来てはいけないような場所ではない筈だが」

「そうでしょうとも。後宮のすべては、陛下のため。そう考えれば、たしかに。しかしお忘れかもしれませんが、私も人間なのですわ」


 そこに少し前までの「俺の来訪に喜び、目一杯めかしこんで、頬を緩め、嬉しそうに『ようこそ陛下』と言って迎え入れてくれていたエリス」はいなかった。


「どのような人間にも少なからず、予定や私事というものがあります」


 歓迎とは正反対の、拒絶にも似た反応を示すエリスがそこにはいた。



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