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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第三章】第一節:後宮にて(対国王)

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第23話 メイドも敵



 しかし私は、何も感情的な理由だけでこんな事を言っている訳ではない。


「こんなのは、一般的な貴族王族の常識でしょう? それを守れない王が、周りから一体どう見られるか」

「そ、それは……! 陛下は何も皆にこのような事をなさる訳ではありません! 王妃様相手だからこそ!」

「なるほど、私相手なら軽んじてもいいと」

「違います! 親しい者同士の間の話であれば!」

「そうね、たしかにそれならそうでしょう。でも」


 私は、微笑んだ。

 苛立ちを押し殺して、なるべく綺麗に。


「私と陛下は、果たしてそれ程親しいのかしら。私が二人目を身籠った途端に、急に訪れを絶ち、早八ヶ月。後宮メイドたちがしきりに『陛下は、最近訪れの多い側妃様に鞍替えされたのでは?』と嗤って噂する程の仲なのに?」


 これはある種の皮肉である。

 

 対外的に仲がよく見せようという努力を怠った陛下への。

 私を、日々退屈しのぎのための嗤い者にしているメイドたちへの。

 そして、それが私の耳に届くほど大きな声なのに、それを知っていて止めさせなかった、肩書だけは私の筆頭メイドである、監督不行き届きの彼女への。



 私の言葉に、彼女は歯噛みして答えない。

 反論はおろか、謝罪も出てこない。



 結局のところ、配置換えをしてもこの人は陛下のメイドなのだ。



 それは、彼女のこれまでの仕事を見ていても明らかだった。


 たしかに彼女は、卒なく仕事をこなしてみせる。

 少なくとも私の知る限りでは、失敗を見た事は一度もない。


 しかし、同時に必要以上はしない。

 例えば私の好みや気分を察し、先回りして少しばかり心付ける。

 そんな仕事をした事はない。



 一流のメイドは、皆それができる。

 できるからこそ、一流なのだ。


 陛下のメイドだったのだから、本来の彼女も、それができる筈だった。

 なのにしないのは、私を「尽くすべき主人」だと思っていないからか。



 私だけならいい。

 でも、もしこの先ロディスやリリアにも同じ事をするのなら。


 それこそ時戻り前の時のように、私の不在中に幼いリリアを部屋から「散歩に行こう」と連れ出す騎士を、止める事なく見送ったりするのなら。


 その散歩の先でリリアが階段から落ち、彼岸と此岸を間を彷徨っていた時にも知らん顔で、その事実を私に報告しなかったりするのなら。


 私はそんな人間に、それでも尚いつまでも頼る愚は犯さない。


「それで? 陛下はどちらに?」

「……既に、王妃様のお部屋に」

「あぁ、貴女はとことん私を軽んじるのね」


 どうやら私の私室で待っているらしい。

 夫婦とはいえ女性の部屋――応接室ではなく私室に、私の断りもなく入れ、悪びれも申し訳なさもなくそれを報告してくるなんて。


 そんなため息が、言葉になった。



 それでも時戻り前の私なら、まったく気にしなかっただろう。

 それどころか、下手をすれば「気を使う必要がないと思っているくらい、私に心を開いてくださっているのだわ」だなんていう、斜め上の思考に行きついていたかもしれない。

 

 しかし今は、そうではない。



 あぁもう本当に、時戻り前の私がどれ程周りから軽んじられていたのか。

 分かっていたつもりではあったけど、こうしてまた目の前に突きつけられると、最早「時戻り前の私、これに気づかなかったなんて凄いな」と逆に感心してしまう。


「まぁいいわ。対応します。一緒に部屋に入室しても構わない。ただし私と陛下の間の会話に、何があっても口を差し込まない事。それができない無礼者に、――陛下の命で私を監視する資格はないと思いなさい」


 無意識のうちに、声が低くなる。


 本当ならば、「私付きのメイドをクビにする」と言いたかったところだけど、そんな事を脅し文句に使ったところで大した効果はないと見た。

 だから陛下の名前を使った。


 彼女は陛下を敬愛している。

 ならば陛下から言い渡された仕事ができなくなり、陛下から失望されると想像させた方が、少しは抑止力になると思った。



 彼女の答えを聞く前に、私は陛下がいるらしい私室へと歩き出す。


 やはり、私の側の人間は総入れ替えしよう。

 子どもたちの身を守るために、早急に。


 そのためには、陛下に配置換えの許可を取らなければならない。



 そう思えば、陛下がここまで来てくれてちょうどよかった。


 予定を聞いて、事前に約束をして、わざわざ出向いて許可を得る。

 そんな面倒な事を、せずに済んだ。


 私はそう思うことにした。



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