第21話 時戻り前、“娘を殺した女 躍進”の記憶
時戻り前に私が当事者として何かに直接関わった事は、残念ながら多くない。
今思い出せば、私が子どもたちに関して本当の意味で当事者になったのは、すべてが終わった後だった。
ロディスが毒で死に至り、リリアが階段から転落死して、それからだ。
色々と調べ、当事者になったのは。
調べた内容を陛下の共に持っていく前、一度エインフィリア公爵夫人に会う機会があった。
それまではまったくと言っていい程、接点がなかった相手。
名前くらいは知っていたけど、片や新しい型のドレスで流行を作る事で、商業と外交を司る家の夫人としての実力を示した人、片や陛下に見捨てられた名ばかりの王妃だ。
実は陛下と側妃の夜会参加の件があって以降、一度だけお茶会への紹介状を出した事があったのだけど、帰ってきたのは、丁寧な定型文での断りのみだった。
後から思えば、その時には既に側妃との仲が進んでいたのだろう。
私に対する市場価値を、早々に見限って。
私が彼女に会ったのは、意外にも後宮内だった。
私はただ「何故」と問うたのだ。
そこには「何故、ロディスを殺したのか」という意図しか存在しなかった。
相手もそれを分かっていたのだろう。
私が『ロディスを殺めた毒の出所が、毒を側妃に渡した人間が、彼女である事を既に知っている』と分かっていて、それでも尚否定しなかった。
もしかしたら否定する意味を見出せなかったのかもしれない。
今更私が何を言い、どんな言質を取られたところで、終わった過去は覆せない。
過ぎる今をどうにかできる程の力も、私にはない。
私が唯一の頼みの綱にするだろう陛下も、動かせない。
そう見透かしているようだったから。
彼女は、私にこう言った。
「それが商売になるからですわ」
美しい顔で、淑女の笑みを浮かべて言った。
当たり前の事のように、人の命を金に換えたのだと言ってのけた。
それが公爵の判断だったのか、夫人の判断だったのかまでは、正直に言って分からない。
しかし彼女のその言葉は、まごう事なき「ロディスの命を一つの商品としてしか見ていない人間の物言い」だった。
その事がひどく腹立たしくて、そんな事を言われても尚あの場で返す言葉が出なかった自分が悔しくて。
その後、陛下から「死んだ人間の事で、今を波立たせるような事を求めてくるな」と暗に言われて、私はすべてに絶望したのだ。
祈るくらいしかできなかった私は、たしかに自分の無力のせいで子どもたちの命を救う事もできず、子どもたちの死後に満足に糾弾すらできなかった愚か者だ。
しかしそこに、自身の価値観を無理やりに押し付けて、結果的に幼い命を葬った女がいた事は、決して忘れない。
自身の価値観を持つのはいい。
自身の一番大事な物のために生きるのもいい。
しかし、彼女はそれにより私の子どもを傷つけ苦しめた。
だから私は、一生彼女を許さない。
彼女を信じる事もない。
どんなに私や子どもたちの生に貢献しようとも、きっと私が彼女を信用し信頼する日は来ないだろう。




