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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第二章】第五節:エインフィリア公爵家・夜会にて(第二賭:対国王、側妃)
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第17話 側妃との応酬



 そんな少々無謀な事を為さねばらないのだ。

 今回もまた、兄を相手にした時と同様に、賭けに出る必要があった。



 今回行った賭けは、四つ。

 そのうちの二つは、既に成せている。


「そなたは参加、していたのだな」

「はい。陛下にお話しした通り」


 私の体調云々から、話を逸らそうとしたのだろう。

 当たり障りのない事を尋ねてきたが、逃がさない。

 会話の軌道を『陛下』に戻す。


「……同伴は、ジェイス卿か」


 思い通りにいかない事に、不服でも感じたのだろう。

 声がワントーン、先程より落ちた。


 それを分かっていて、知らぬふりで続ける。


「えぇ。一人で参加する事も考えましたが、この通り身重ですもの。いざという時に私を支えてくれる方が必要だと思い、生家の公爵家から適任を」

「何も同年代の未婚の男を、同伴に選ぶ必要はなかったのではないか?」

「彼は我がスイズ公爵家に忠誠を誓う真面目で清廉な騎士であり、今まで一度も浮いた話などなかった生粋の仕事人間です。そんな方に人妻の相手を擦り付けるのは、流石に彼に申し訳ないですわ」


 完璧な作り笑顔で、彼の物言いをチクリと刺した。



 一見すると夫の可愛い嫉妬心に見えるかもしれないけど、これはただの『利己主義者の傲慢な独占欲にも似た支配欲』と、『いいとは言えない現状に対するただの八つ当たり』だ。


 今更この男から、本物の嫉妬などという薄ら寒いものを向けられても、困る。

 しかし、だからといってそんな感情の受け皿にされてしまっては、同伴者になってくれた彼が可哀想だ。



 私の口答えが不服だったのか、彼の口の端が不機嫌に下がる。



 あまり陛下の機嫌を損ね過ぎるのも、この後の事を考えればあまりよろしくないのだが、どうやらそうして買った不興の甲斐はそれなりにあったらしい。


「あら王妃様。身重を押してまで我儘を通すほど、夜会に出たかったのですか? だから陛下におねだりして、叶わなかったからって今度は、生家から人を借りて今日、参加したと」


 お可哀想に。

 側妃から、そんな声が今にも聞こえてきそうな、上から目線の嘲笑が向けられた。



 公衆の面前で「自分を同伴させておいて、居合わせた私に嫉妬を向ける陛下の姿」を見てしまって、どうやら勝手に煽られてくれたらしい。


 ちょうど会話の糸口を探していたところだ。

 そこにお誂え向きなのが垂れ下がってきて、私は内心ほくそ笑む。


「そんなに夜会に行きたかったなら、言ってくだされば今回は陛下のお隣を《《お譲り》》しましたのに」

「『譲る』だなんて、そんなまるで陛下を物のように仰るなんて、品位というものが知れますよ?」

「なっ?!」


 言い返さないと思ったのだろうか。

 驚きと憤怒が隠せていない。


 ……いや、今までの私は「言い返さない」と思われても仕方のない対応をしてきたのだろう。

 そういう意味では侮られる落ち度は私にも十分あったと思うが、だからといって「自分は色々と言っておいて言い返される心の準備はしていない」なんて、かなりお粗末な話である。



 が、そのような事は一旦横に置こう。


 私が今ここで彼女に求めたいのは、彼女を言い負かす事ではなく、彼女を取り巻く現状に関する『言質』なのだから。


「それで? 貴女が今日の夜会に誘ったのですか? それとも陛下に誘われて?」

「私の可愛いおねだりを、陛下が聞いてくださったのです。『そのくらいの事、お前のためになら簡単に叶えてやろう』と仰って」


 おそらく自分の優位を示せる話題を振られて、嬉しかったのだろうと思う。

 何の躊躇もなく上機嫌に、そんな言葉が返ってきた。



 おそらく彼女は、自分が陛下に好かれる事に、絶対的な自信を持っている。

 そういう錯覚を生むような言葉を、実際に陛下も口にしたのだろう。



 しかし今ここでそれを口にして、陛下の評判がどうなるか。

 そこまでは考えが至っていないらしい。



 ありがとう、側妃。


 内心に、心からのお礼を強く抱いた。



 私は今回にあたって、三つの賭けをした。


 一つ目は、事前に送ったエインフィリア公爵家への手紙。

 そこに「私より先に着く陛下と側妃を、私が到着して十分経つまで、何らかの理由を作って別室に留めておいてほしい」というお願いを記しておいた。

 それを公爵家が聞いてくれるか、という点。


 二つ目は、会場入りした後、陛下たちが来る前に無事に時限爆弾の設置が終わるか、という点。


 そして、三つ目は。


「そうなのですね、残念です。――まさか『公の場での陛下の同伴は必ず王妃で』というこの国の王家の不文律を、歴代守り抜いてきた王家の慣習を、陛下自らが理由もなく、こうしてお崩しになるなんて」


 悲しそうな、寂しそうな、傷付いたような。

 そんな表情を惜しげもなく作り、私は三つ目の賭けに出る。



 二人が来る前に丁寧に撒いた、「健気な私と、それを蔑ろにしようとしている常識破りの陛下」という構図の種。

 果たしてそれが、ちゃんとこの場で開いてくれるか。


 これが、私の賭けだった。



 そんな事には気が付かない側妃は、私の表情に満足げ。

 顔にはありありと「勝った!」という字が書かれている。


 きっとこれ以上ない程に、自尊心が上がっている事だろう。

 だから気付けない。


 自分の隣にいる陛下が、今どんな顔をしているか。



 側妃が彼の顔面に貼りつけたレッテルに、陛下自身は気がついている。


 でなければ、ほんの一瞬でも真顔にはならなかった筈だ。



 本当ならば、暗黙の了解を破った事に対する反発なんて、国王の権力で握り潰せばいい。


 国王には、それができるだけの権力がある。

 個人の思想を集団の中で無理やり是にする事なんて、造作もない。

 


 しかし利己主義な陛下は、考えるだろう。


 このまま行けば、この件で自分が受ける不利益はどれ程か。


 側妃に対する慰労の前払いに「今日の独占エスコート」という願いを叶えて、後に自分が受けるだろう利。

 それと、どちらがより大きいか。




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