第14話 ロディスを殺す女の使い方
半年後、時戻り前の彼女はノイマン裁縫店を初めて見つける筈だった。
そして彼女たちと共に、今正に私が来ているこのドレスで、王都に衣類のデザイン革命を巻き起こした。
私はそんな時戻り前の事実を、先回りして、利用した。
先に彼女たちに接触し、デザインの素案と機会を与え協力した。
そうする事で、それを成す時期と完成までの時間を早めさせる事に、見事に成功した。
言い方を取り繕わなければ、未来の彼女に対する成果の横取りだ。
実際に彼女はそれを機に、更に社交界で躍進していく筈だった。
側妃と共に、社交会での影響力では『王国の二大夫人』と言われる程にまでなり、力を得た彼女は――側妃と協力し、ロディスを殺した。
厳密に言えば、ロディスを殺すための毒薬を他国経由で手に入れ、側妃に売ったのが夫人で、それをメイドに使わせたのが側妃だ。
自分が手に入れた毒薬を誰に使うのか、夫人が知っていたかは分からない。
しかしそれでも、彼女がロディスが命を落とす原因の一端になったのは間違いない。
彼女が他国の――まだこの国には解毒薬が存在しない薬を手に入れ渡したりしなければ、ロディスは助かったかもしれない。
おそらく夫人はこのドレスを、自分の商売や外交力の強化に繋げたいのだろう。
しかし何故ロディスを殺した女に、功績を立てさせなければならないのか。
そんな機会をみすみす渡したり、無言の許容をしなければならないのか。
時戻り前のノイマン裁縫店は、最初こそ衣類革命の始まりを作ったけど、その後「平民だから」という理由で、革命の波から追い出されている。
エインフィリア公爵夫人は、彼女たちを最初の火付けにだけ使い、その後は自身の権力増強のために、使い勝手がいい子飼いの裁縫店や流通店を優遇した。
ノイマン裁縫店には何の権力的・金銭的援助もせず、結局その店を間接的に潰した。
そんな家から裁縫店を一つ取り上げて、一体何がいけないのか。
私は今回助力してくれた彼女たちに、見事な技術と独創的なアイデアを持つ彼女たちに、権力的・金銭的援助を惜しまない。
――まぁ金銭的援助は、厳密に言えば王城から。
国庫の中の私に割り当てられた予算から出る訳だから、すなわち陛下の財布から出るようなものではあるのだけど、それは援助をされる側からすればどちらでもいいだろう。
私が彼女たちとの関係を、今後も良好な状態で維持していくという事実は変わらない。
彼女たちももし選べるとだとすれば、きっと一度の使い捨てにされる相手よりは、私に拾われた方がまだマシな筈だと断言する。
「このドレスを制作した裁縫店に、何か仕事をさせるご予定でも?」
暗に「貴女もこのドレスの制作を依頼するつもりなのか」と問いかければ、一拍の間の後、彼女がニコリと微笑んだ。
「えぇ。実はノエさんの妹さんが先日懐妊したらしく、彼女にそのドレスを送る事を考えておりまして」
「まぁ! 夫人からドレスをいただけるなんて、妹も光栄に思いますわ!」
ノエさんと呼ばれた夫人が、嬉しそうに声を上げる。
時戻り前の記憶では、あのドレスを作るキッカケになったのは、夫人の妹が身籠った事だった。
このドレスのお披露目でそれを着たのは、その妹だ。
半年前の今、その妹の懐妊があったとしても、まだ世に話が出回る前だけど。
「私は二児の母ですが、妊娠中は可能な限り子どもに負担のないように過ごしたい一方で、母親だってお洒落はしたいですもの。そんな日々の楽しみの一つが制限されてしまう事を、とても残念に思っていました」
「分かります。私もですわ」
「しかしこのドレスがあれば、お洒落も楽しみつつお腹の中の子に負担を強いる事もないでしょうね」
「えぇ! そんなドレスがいただけるなんて!」
同意する人、感激する人。
周りは羨ましがり、盛り上がる。
その反応に、夫人もどこか満足げだ。
それらを見て、私も微笑んだ。
「そういう事でしたら、私にも助力させてください。夫人のお手を煩わせるまでもなく、私から直接裁縫師にお願いし、手配させましょう」
「! 王妃様! 光栄ですわ!!」
表情を華やがせたノエさんの隣で、夫人が遠慮がちに微笑みながら言う。
「しかし、そのような事を王妃様にしていただくなんて、申し訳ないですわ」
ですから私が直接裁縫店に。
おそらくそう言いたいのだろう。
その裏にどのような思惑があるのか、随分と分かりやすく透けて見えている。