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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第二章】第四節:エインフェリア公爵家・夜会にて(対公爵夫人)
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第12話 話題をさらう



 夜会会場に着くまでの間、ウィルターと話したのは一言だけ。


「私は今回、『エリス様の護衛同伴者として、夜会に参加せよ』と言われているだけですので」

「えぇ、分かっているわ」


 おそらく「武力以外の助力を期待するな」という事なのだろうと理解して、私は短くそれに応じた。


 まぁたしかに、一般的な同伴者としての社交を求められても、その辺の読み合いや配慮が苦手故に社交場を避けている彼としては困るだろう。

 あまり干渉して彼の主・スイズ公爵家にまで、私関連の火の粉を飛ばされては迷惑だという気持ちでもあるのかもしれない。



 どこまでが彼の意志で、どこからが兄からの指示なのかも、明確には分からない。

 しかしすべてが、どうでもよかった。


 私は私を守るための、そして邪魔をしない「喋らぬ盾」があればいい。

 ただそれだけなのだから。





 会場に到着し、卒のないエスコートで会場入りをする。


 夜会では、地位の高い者を待たせてはいけない。

 そういう暗黙の了解があるため、私が訪れた時には既に、《《唯一の例外を除いて》》、階上には既にすべての参加者が入っていた。


「まさか身重のエリス様が、夜会にご出席なさるとは」

「あの様子を見るに、第二子も順調に育っておられるようだが」


 会場内に入った私の耳に、そんな声が小さく届いてくる。

 


 もう少し厳しい視線を予想していたけど、意外と純粋な驚きや好意的な物も多かった。

 密かに驚きつつ何故だろうと考え、すぐに「あぁそういえばまだこの時期は、それ程でもなかったか」と思い出す。



 私が周りから分かりやすく侮られ始めたのは、この夜会がキッカケだった。


 そうしていいのだという意識を、今日の夜会での陛下と側妃の立ち振る舞いから、貴族たちは皆感じ取ったのだ。


 

 ――よくもこんなにいい時期に時戻りしたものだ。

 そんなふうに内心で独り言ちる。


 この夜会への準備期間が、三週間あったのも幸運だった。

 お陰で兄に話をしてウィルターを同伴者にし、密かに馬車を手配する時間もあった。

 それに、何よりも。


「それにしても美しいですな。持ち前の美貌はそのままに、あのドレスがまた」

「妊婦の美しさをあれほどまでに引き出すドレスが、まさかこの世にあったとは」


 ドレスで少なからず周りの気を引く事ができれば「妊婦の身で夜会に来るなんて我儘な」「同伴者に陛下以外を連れているなんて」という、普通ならば起きるだろう批判を少しは薄める事ができるのではないか。

 そんな思惑通り、いや、思惑以上だ。


 思いの他ドレスがいい仕事をしている。

 注目と話題を搔っ攫っている。



 その事に、私は確かな手ごたえを感じた。


 時戻り前の『周りがすべて敵』である時の記憶があるから、大人数の人前に出る事に少しは「怖い」と思うかもしれないと思っていたけど、実際には思ったほどではなかった。


 いや、実際に恐れはある。

 今は傍観者が大半のこの場の人たちが、いつ手の平を返して私の敵になるか、分かったものではないから。


 しかしそれ以上に、家を出る前のロディスの誉め言葉や、家族三人でのあの団欒の時間が大きいように思う。


 あの時の事を思い出すだけで、心や緊張で冷えがちな指先がポカポカと温かくなる。

 頑張ろうという気が湧き出てくる。

 二人のためになら、針の筵の上にだって立てると思える自分がいる。


 だから、怖くない。

 総じて言えば。

 

 だから私の帰りを後宮で待っているロディスの元に、すべてを成功させて帰るために、私は今の自分がすべき事をしよう。


 そう思い、会場をそれとなく見回した。



 この国では、下の地位の者が上の者に声を掛けるのは、マナー違反だとされている。


 私は王妃だ。

 私の上には、陛下と上皇陛下夫妻しかいない。

 そういう地位だ。


 だから下の者は、私のドレスにどれだけ興味があろうとも、直接話しかけには来れない。

 反対に、私は誰にでも声を掛ける事ができる。


 皆がおそらくこのドレスについて話を聞きたい今、私が話し相手に選ぶのは――。


「ごきげんよう、エインフェリア公爵夫人」


 この夜会の主催者であり、王家に次ぐ三大権力の一つ。

 エインフィリア公爵家の当主夫人。


 彼女と、共に雑談に興じていた彼女の取り巻きたちの会話の輪に、私は声をかけ微笑んだ。


「ようこそ、王妃殿下。本日のドレスはいつにも増して素晴らしいですね」

「ありがとうございます。実はこれ、身重の私でも夜会に参加できるようにと、今日のために、新たに型から作ったのです」

「まぁ!」


 参加するために、新しく作った。

 その声に反応した取り巻きたちが、「王妃様も、エインフィリア公爵家のすばらしさをご存じなのですわ!」「流石は夫人」と口々に彼女を囃し立てる。


 浮足立つ、社交の輪。

 そんな中、ただ一人エインフィリア公爵夫人だけは、外交と商売を司る公爵家に相応しく、目の奥に、見つけた商機を離さない商人に似た輝きを宿していた。


「コルセットで腰を絞らずペチコートも着ないドレスとはかなり斬新ですが、それでも尚ネグリジェのように煽情的かつ開放的になりすぎないその貞淑なシルエットを実現しているのは、その切り返しの位置のお陰でしょうか」

「流石は夫人、慧眼ですね。作った裁縫師曰く『このように胸のすぐ下に、敢えて目立つ切り返しを付ける事で、従来のデザインに比べてゆったりとしたドレスでありながら、体のメリハリがつく』のだと」


 そう。

 身重の私には従来のドレスに必要不可欠なコルセットも、重いペチコートも、体の負担にしかならない。


 だからそれらを除外して、それでも尚ドレスとして見られるように、むしろそれらを除いた事により、妊婦時期ならではの期間限定の美しさを演出できるように、デザイナーと共に試行錯誤をした。


 そうしてできたのが、このドレスである。



 妊婦が着る事のできる夜会ドレスなんて、今世ではまだ前代未聞。

 初の試みである。



 色々と大変だった。


 まず、時戻り前ではおよそ半年後に社交界ドレスに新たな風を巻き起こす筈のドレスの裁縫師と、密かに連絡を取った。

 後宮に招き、時戻り前の私の記憶なるべく詳細に伝え、加えて要望を聞いてもらった。


 そうしてその裁縫師が半年後に作り上げる筈だったドレスの進化型を、期限内に作らせる事に成功した。




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