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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第二章】第三節:後宮からの脱出(対騎士、メイド)
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第10話 邪魔者たち



 エインフェリア公爵家の夜会に出るための馬車は、もちろん王城から出る事になっている。

 しかし同じ夜会に出席する陛下と側妃に、行く前にバレてしまっては困る。


 だから周りに気取られないよう、私の出発は陛下たちが出た後だった。



 メイドには用件を言わず、今日のために作成したドレスを着、別で頼んでいた飾りを指示し付けさせる。


 すると、とてもじゃないけど社交場には向かないシンプル過ぎるデザインのドレスが、社交場に必須のコルセットの締め付けも、何枚も重ね履きするペチコートも必要としないにも拘らず、斬新ではあるけどそれらしい社交場仕様に仕上がった。


「あの、王妃様。もしかしてどこかにお出かけになるのですか……?」


 私を着飾ったメイド本人が、驚きと困惑と焦り交じりに聞いてくる。



 驚きは自らが作り上げたドレスに対するものだろう。

 困惑はおそらく「急にどこに行くのか」という類のもので、焦りは突然こんな行動を起こされては陛下に報告する時間がないからと考えれば、自然か。


「お母さま、とってもきれい!」

「ありがとうロディス」


 言いながら、私をまっすぐに見上げてくれている、純粋な目をキラキラとさせた息子に和み、頭を撫でる。


「ごめんね、ロディス。お留守番させてしまう事になるけど」

「だいじょうぶ! ぼくお兄さまだし、お母さまとさっき『いい子でお留守番してる』ってやくそくしたもん!」


 そう言って胸の前で両手のこぶしを握り、俄然留守番にやる気を見せた。



 あぁ。

 うちの子ったら、なんて可愛らしいのかしら。


 戦場に旅立つ前の癒しに、まるで心が洗われるかのようだ。


「お母様、ロディスとリリアのために頑張ってくるわね」

「リリア?」

「そう。お腹の中にいる、貴方の妹の名前よ」


 お腹を優しくさすりながら、言う。


 この子がリリアと名付けられたのは、この子を産んだ後だった。

 生まれた子の顔すら見に来なかった陛下は、生まれたのが女の子だという話だけを聞いて「名はリリアだ」とメイド伝手に伝言を寄こしたのだ。



 だから今はまだ、リリアがリリアという名前になる前。


 このまま何もしなければ、リリアはおそらくまたリリアと名付けられるだろう。

 それでも今はまだ、付けられていない名前である。


 それを先回りして使ってしまうのは、もしかしたらあまりよくない事なのではないかとも考えた。

 だから何度か口から出そうになるたびに、その名を飲み込んだ。

 でも。


 ――そんな愛のない名付けられ方をするくらいなら、陛下の前に私が愛を持って、その名を呼んであげる方がきっと何倍もいい。


 あの時はどういう形であれ、名付けてもらった事を誉に思っていた。

 リリアという名前が、不器用で忙しい彼が私たちに向けた、愛の証明だと思っていた。


 しかし、おそらくそういうものではなかったのだろう。

 でなければ、あんなふうにこの子たちを、見殺しにするような事ができる筈もないのだから。


「リリア、お母さまとパーティー楽しんできてね」

「ありがとうロディス」


 自分が留守番されて、妹だけパーティーに連れて行ってもらえる。

 そんな状況にも関わらず、ロディスは妹が楽しめるようにと、お腹に手を当てて声をかけた。

 そんな彼の兄としての真心が、どうしようもなく美しくて、眩しくて。


 兄の声に応えるように、お腹の内側からトンと軽い衝撃が伝わってきた。


 目をパチクリとしたロディスが、私を見上げて可愛らしくはにかむ。


「リリアが返事した!」

「ふふふっ、そうね」


 お腹の中でリリアも何となく、喜んでいるような気がした。



 ――守りたい。

 守らなければ。


 改めて、やる気がわき上がってくる。



「じゃあお母様、行ってくるわね。ものすごく遅くはならないけど、眠かったら無理せずに先に寝ていてちょうだい」

「うん、わかった」


 最後にロディスの頭を一撫でし、私は部屋を後にした。


 今日ほど『後ろ髪を引かれる』という言葉の意味を、深く実感した日もない。

 そう思う程には離れがたく、幸せなあの空間にいつまでも浸っていたい気持ちが強かった。


 ――それでも。

 自分の今の小さな幸せよりも、未来の子どもたちの幸せのために。


 受け身は止めると決めたのだ。

 停滞はしないと、甘えは捨てると決めたからには、最後までやり通さねば。




 部屋を出ると、いつものように部屋前で警備をしていた騎士が、私の身なりを見てギョッとした。


「お出かけでしょうか」

「貴方には関係ないわ」

「あります。私は貴女の身の回りを守る事が仕事ですから」


 早足で私の後についてくる彼に、食い下がられる。

 それでも答えずにただ歩いていると、業を煮やしたのか、立ちはだかるようにして私の進行方向を遮ってきた。


「仕える相手に対し、無礼な行動だとは思わない?」

「私の主人は国王陛下です」

「……そう」


 この男は、先日私がお兄様の元に訪れた時についてきたのと同じ騎士だ。

 あの時多少のお灸は据えたつもりだったけど、やはりと言うべきか、あれ以降もまったく私への態度を変える気はないらしい。



 そんな男は、傍には要らない。

 邪魔だ。

 それが、未来で子どもの身の安全さえ守ろうとしない男ならば、猶更だ。


 後ろからは、先程私に後の予定を聞いてきていたメイドも追いかけてきている。

 彼女は彼女で、陛下に事の次第を報告するため、監視をするために追いかけてきたのだろう。



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