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クリスティーネ先生

クリスティーネ先生のご愛読、ありがとうございました!

ちょっと縁起でもないタイトルになってしまっていてアレですが、クリスティーネ先生シリーズの書籍、本日2025年3月28日、発売となっております!

とってもかわいい2人を表紙や挿絵にたっぷり描いていただきましたので、表紙だけでも見て行ってください!


詳しくは活動報告にUPしましたので、よろしければそちらをぜひご覧ください。表紙画像もUPしております!

それでは応援のお礼と発売記念をかねた短編をどうぞ~。




「こんにちは、レオナルド様」

「ああ」


 その日は、レオナルド様が我が家を訪ねてきてくださいました。

 時々差し入れを持って進捗伺いに来てくださるのです。


 その日も手土産にと差し出された、小さなガラス瓶に入ったお菓子を受け取ります。

 飴でしょうか。きらきらしていて、カラフルな色遣いが可愛らしいです。


「綺麗なお菓子ですね! あとで執筆のお共にいただきます」

「うん」


 そうお返事したのですが、レオナルド様はどこか気もそぞろのご様子です。

 入ってきたエントランスのドアの向こう……門の当たりを気にしていらっしゃるようでした。


 もしかして、お仕事がお忙しいのかしら。すぐに出ないと次のご予定に間に合わない、とか?

 レオナルド様はちらちら後ろを振り返りながら、言います。


「……誰か、来ているのか?」

「はい、叔父様……ええと、私の父の弟が来ていまして」


 レオナルド様の問いかけに、頷きました。

 そういえば、今日は叔父様の馬車が停まっているはずです。なるほど、それを気にしていらっしゃったのですね。

 確かに自分以外にも来客があると知ったら、そわそわしてしまうかもしれません。


「叔父は普段は商売で近隣諸国を飛び回っていて、今回もその途中に立ち寄ってくれたのですけれど」

「そうか」

「あまり会えないので、私も両親も楽しみにしているんです。前にお会いしたのは……確か、留学の時だったかしら」

「留学」


 レオナルド様の眉間にきゅっと皺が寄りました。

 まるで苦いものでも食べたかのようなお顔です。

「苦虫を嚙み潰したような」というのはこういうお顔のことを指すのでしょう。


 どうしてレオナルド様が苦虫を噛み潰していらっしゃるのか分からず、おずおずと問いかけました。


「あの時、叔父様の商売について行ったんです。……お話していなかったでしょうか?」

「聞いていた、かもしれない」


 レオナルド様がむすっとした表情で言いました。


 どうしたのかしら。

 レオナルド様、考えていることが全部顔に出てしまわれるので……ご機嫌を損ねていることは分かるのですが、何故そのお顔になるのか、という理由が分かりませんでした。


 しばらくご様子を窺っていると、少し俯いていたレオナルド様が意を決した様子で顔をあげました。

 腕を組んで、やっぱり眉間に皺を寄せています。


「……挨拶しよう」

「はい?」

「紹介してくれ」



 ◇ ◇ ◇



「やあやあレオナルド殿! 初めまして、テオドア・ゴードンだ。お会いできて嬉しいよ」


 よく分からないながらも、とりあえずレオナルド様と叔父様を引き合わせました。

 叔父様は「クリスティーネの婚約者に会ってみたい!」と以前から言っていたので、とっても乗り気です。


 対する私は、先ほどから眉間に皺が寄ったままのレオナルド様が気がかりで仕方がありません。


「僕のことは気軽にテッド叔父さんと呼んでくれ」

「いや、遠慮する」


 レオナルド様は握手には応じたものの、距離を縮めようとした叔父様に対してきっぱりと断りました。

 お顔は相変わらず不機嫌そうです。

 そのお顔を見ていた叔父様が笑顔を引き攣らせて沈黙したかと思うと、さっと私に近づいてきて耳打ちします。


「クリスティーネ! 僕、何か嫌われてないかな!?」

「そ、そんなことはないかと」


 ……思うのですけれども。


 ですが、確かにレオナルド様はしかめっ面ですし、いつもぶっきらぼうな態度が今日は輪をかけて、むすっとしていらっしゃるような。


 レオナルド様、つっけんどんなところはありますけれど、それにしたって私やアンナさんと初めて会った時とは明らかに違います。

 敵意がむき出し、と言っても過言ではありません。


 でも……初対面なのに嫌いになるなんてこと、あるのでしょうか。

 しばらく戸惑った様子でレオナルド様の表情を窺っていた叔父様ですが、睨むような視線に耐えかねたのでしょう、私に向き直りました。


「し、しかし、クリスティーネもついに婚約かあ。この前までこーんなに小さかったのに」

「もう、叔父様! そんなに小さかったことありませんわ!」

「ああ、レオナルド殿。実はクリスティーネは小さい頃は結構おてんばでね、誕生日の日にケーキの蝋燭で前髪をちりちりに」

「おじさま!!」


 流れでレオナルド様に話を振った叔父さまの腕を引っ張って、必死で止めます。

 家族全員レオナルド様にその話をするので辟易しています。レオナルド様だってもう耳にタコが出来てしまっているでしょう。


 レオナルド様が冷ややかな視線を叔父様に向けました。

 それに縮み上がった叔父様が、再び私にこそこそと耳打ちします。


「クリスティーネ! 僕、やっぱり嫌われてない!?」

「そ、そんなことは……」


 私もひそひそ話で応じながら、ちらりとレオナルド様の表情を窺います。


 蝋燭で前髪ちりちりの話がお嫌なのかと思いきや、その冷たい視線は叔父様だけに注がれています。

 私たち、ではなく、叔父様だけに。


 そのあたりを鑑みて、正直に言いました。


「……あるかもしれません」

「だよね!!??」


 叔父様がショックを受けていらっしゃいます。

 かわいそうですが、でも、何故嫌われているのか私にも分からないので、どうフォローすればいいやら……


 戸惑っていると、レオナルド様が口を開きます。


「テオドア殿は」

「う、うん!」

「何故クリスティーネを、留学に?」

「……え?」


 叔父様がきょとんとした顔をしました。

 私も目を瞬きます。


 どうしてそんなことを聞かれるのでしょう。もしかして……レオナルド様も、留学にご興味が?

 きょとんとしたまま、叔父様が答えます。


「ええと……昔からクリスティーネは外国に興味があるようだったから、いい機会だしな~、と思って」

「……それでクリスティーネが帰ってこなかったらどうするつもりだったんだ」

「んん?」


 叔父様がレオナルド様の顔をじっと覗き込みます。レオナルド様は相変わらずのしかめっ面です。


 レオナルド様、留学を誤解していらっしゃるようでした。

 行ったきりになるのは移住です。お家に帰るまでが留学ですわ。


 変わらず睨むようなお顔をなさっていたレオナルド様が、急に近づいてじろじろと何かを確認するような眼差しを向けてくる叔父様に、わずかにたじろぎました。

 叔父様はしばらくそんなレオナルド様のお顔を眺めた後、ぽんと手を打ちます。


「ああ、そうか! レオナルド殿はクリスティーネがいなくて寂しかったのか!」

「は!?」

「なるほどなるほど、だから留学を勧めた僕に怒ってたんだね!」

「違う、俺は、」


 先ほどまでとは打って変わって、朗らかに笑いながら背中をポンポン叩いてくる叔父様に、今度はレオナルド様がたじたじになっています。

 叔父様はお髭をさすりながら、うんうんと一人で頷いていました。


「そうだよねぇ、会えなかったら寂しいもんねぇ」

「だから違う」

「しかもクリスティーネはこんなに可愛いからね! 不安になるのも分かるよ!」

「ち、ちがう……」

「叔父様! いい加減にしてくださいまし!」


 叔父様が恥ずかしいことまで言い始めたので、腕を引っ張ってレオナルド様から引き離しました。

 そりゃあ小さい頃から我が子のように可愛がってくれた叔父様にとっては可愛い姪っ子なんでしょうけれども、それをレオナルド様に押し付けないでほしいです。


 叔父様を引きはがした後で、レオナルド様の袖を軽く引きました。

 身を屈めてくださったレオナルド様に耳打ちします。


「すみません……叔父様、少しその……叔父バカなところがありまして」

「そのようだな」


 頷かれてしまいました。

 もう、恥ずかしくて小さくなることしかできません。


 小声で謝る私とそれを聞くレオナルド様の様子を、叔父様はにこにこして眺めていらっしゃいました。

 そして、穏やかに微笑みながら、言います。


「レオナルド殿。もう勝手にクリスティーネを連れて行ったりしないから、安心してね」

「…………それなら、いいが」

「レオナルド殿って、全部顔に出る人だね」


 叔父様がからからと笑うと、レオナルド様の眉間にまた皺が寄ってしまいます。

 ああもう、叔父様ったら。


 誤解(?)が解けたところで、叔父様がふと思いついたように言いました。


「ところで、ハネムーンの行き先はもう決めた? 今度行こうと思ってる国、気候が温暖で観光にもすごくよさそうなんだ。よかったら一緒にどうかな?」

「え?」

「実は遥か昔の遺跡が発掘されたらしくてね。茶器とか骨董品としての価値もありそうだし、これは値が付く前に一度見ておかないとと思ってさ」

「遺跡……」


 遺跡。とっても、ロマンあふれる響きです。

 冒険ものの物語にもよく出てきますけれど、実物を見たことはありませんでした。

 どんな感じなのでしょう。発掘というくらいですから、やっぱり穴を掘った先にあるのかしら。


 遥か昔、人々がどのようにして暮らしていたのか。それを知るために遺跡へつながる大穴へと集まる考古学者たち。

 それに価値のある茶器や骨董品も眠っていると知ったら、学者だけではなくそういった品物を狙う人も集まりそうですね。もしかしたら財宝だってあるかもしれませんもの。


 誰もが遺跡へと駆り立てられる時代が幕をあげるのです。世はまさに大冒険時代――


「新婚旅行は俺とクリスティーネの2人で行く」


 物語の世界に旅立ちかけた私を、レオナルド様の声が引き戻しました。

 いけません、完全にぼんやりしていました。ええと、今、何の話でしたっけ?


「いやいや、もちろん一緒の宿に泊まるつもりはないけど」

「全行程、貴殿とは同行しない」


 レオナルド様がぴしゃりと言い放ちました。

 先ほどと同様に眉間には皺が寄っていますけれども、叔父様がにこにこしているので何となく、仲が良くなったように見えます。


「だが情報は教えてくれ。候補地にする」

「そうだよねぇ、やっぱりクリスティーネが喜ぶところに行きたいもんねぇ」

「撫でるな!!」


 叔父様がレオナルド様の頭をおーよしよしと撫でていました。いつの間にか完全に形勢逆転しています。


 ええと……私が物語の世界に旅立ちかけている間に、何があったのでしょうか……??





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― 新着の感想 ―
初手でやらかしたせいでどうにもかみ合ってない レオナルド頑張れwww
「僕のクリスティーネなのに!」が全開過ぎるw
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