溺れる。
そういう音がした。下を見ると爪を立て手のひらを私に見せる兄の手があった。
いや、兄の手なんかじゃなかった。ひどく青白い、人の物なんかじゃない手が私の体から伸びていたんだ。怖くなり逃げるが追いかける手。無理もない、私から生えているのだから。疲れ切ってしまい、隙があったところでその手は私の顔に張り付いた。そしてその手はほかの人の体から生えていた手のように意識を持ち、あの顔のミイラへ連れて行った。私の気づかぬ間に、そのミイラはピクピクと息が薄いながらも起きようとしていた。それはすぐ起きてしまう。目をぎゅぅうと瞑り、ガッとあのミイラは起きてしまった。その目は赤く鋭い眼差しの喜怒哀楽を持った顔だった。
その顔はゆっくぅりと全体を動かしは、私と目を合わせた。
「あぁ。なまったもんだ。」
小さな声でつぶやくが、全身に鳥肌がたった。本当に生きているのだと、自覚できたからだ。
「誰だ!お前」
「んだお前見てわからんのか。兼続…だ。お前。烏山だろう。」
何も犯してないのに、罪をばれたかのように、心臓は蠢いてしまった。私は世捨て人なのか。目が乾き、瞬きをし、兼続を見ると、彼は半眼半口になって私をじぃろりと見ていた。あぁ。私は殺されてしまうのか。なぜそう自然に思ってしまった。
「お前も聞いたんだろう。金城に。弱高。あいつは目のない男だ本当に。そしてもう一つ聞いたのだろう?」
にやぁりゆっくり笑うと、ピキリピキッリと顔面が鳴っていく感覚を覚えた。あの茶色い肌がピキリと割れていきついにはすべて剥がれ落ちてしまった…するとあの兼続の顔なく、その顔の口と思わしき所には、一つの空間があった。その空間からグワッと細く白茶色いボロボロの手が私の顔を襲った。細いくせに、強かった。あの腕は、金城さんが持ってきたあの腕と同じだった。
私の持つ三本目の腕は役立たずだ。動くはずなのに動かない。引き込まれてしまいそうだ。頭や、私の体はあの空間に行かないよう、行けないようと筋肉が強張り拒否しているが、阿のボロボロの腕がぐっぐ…と引き込んでいる。ひきひきとかっかっと静かで不気味で不快な笑い声が、私の染み出す汗が多くなるほど、強くなっていった気がしてならなかった。
一本の腕には五本の指がある。ボロの一本の指から、またもう一本と、腕が生えてきた。
指が五本、さらに二十五本、百二十五本、六百二十五本、三千百二十五本…増えていった。
その指たちはげぞのように絡みつき、私の魂を吸い付いて奪うようだった。ようだったじゃないかもしれない。そうだったのほうが正しいかもしれない。吸い付いて離れなかった。
爪を立て、なんとか食いしばるが、もう駄目だ。力が…尽きてしまう。あのもう真っ暗だ。
私は何本もの糸がぷつぷつと千切れるように、意識を失い、あの空間へと引っ張られてしまった。あぁ無念。さらば私。いや、俺———————