操られ...
私は昨日聞いたことに対して不思議でたまんなかった。金城なんて聞いたことなかったし、頭を祭ってたなんて知らないからだ。おかげで兄の腕はピクリとも動かない。昨日は真面目に聞いていたが、よく考えると「ホントか?」と思う。なんだか、操られていた紐を切られ、自由に道を歩いているようだ。途方もない、ただ、引き返すと得体のしれないものにまた操られる…そんな気分だ。ほとんどの場合、穴か、怪物か、光かわからん道に行くより、光が差し出て、確実に自分を安全な所へ行かしてくれる誰かも顔もわからん神のほうへ行くだろう。しかし、私は興味本位という宗教に属しているのだ。なのだから、誰かもわからん神のところ行くより、気になると思ってしまう穴や怪物のほうへ行ってしまうのだ。なのだから、今日の今日まで信じていたいわゆる「兼続の頭」が見たくなる。
私はそんな気持ちだったので、本殿へ行くことにした。本殿の奥に、小さな扉がある。その扉の前に私は毎日祝詞やらなんやらを唱えている。少し高さがあるため、その扉まで登り、ゆっくり、ゆっくり開けていく。ワクワクとドキドキ、色々な興奮が抑えられない。遂に、遂に開けてみると、木箱のようなものが。木箱、なんだか怖い。なんと言えばいいか分からないのだが、触ってはいけないような気がする。だが、それが物凄く楽しい。そんな気に思えた。浮き出た血管と汗にまみれた手でゆっくりと、興奮を抑え、あの木箱を少し握った時…私の手を誰かに握られたのだ。そして振り落とされ、高いところから木箱がガタン!と落とされた。「誰だ!」と思ったが、一瞬で分かった。私の兄だった。胸から生えた兄弟が振り落としたのだった。前頭葉らへんが少し痛み始めてしまった。
「あぁー。痛い」少し小言でつぶやいた時、脳にうっすらと何かが伝わった。
「その木箱に触ってはならぬ。今すぐそこへ離れろ!」
そんな声が私の頭を掠めたが、私はそれを無視し、あの木箱のもとへ立ち寄った。
少し空いていたその木箱をに指を入れ、勢いよくその木箱を開けてみると、大きい物体に半紙で包まれているようだ。墨で「この目見るべからず」と焦ったように書いてある。
「これが明神様…いや兼続か」とつぶやいた。
恐怖と興奮まみれのこの手を使い、私は半紙を恐る恐る、取ろうとした。脈を打つごとに震える手。何かとんでもないことをした。顔を見ていないのにそう思った。徐々に、徐々にと痛くなる頭だったが、この興奮には追い付けなかった。汗、雫が半紙にポタポタと。
和紙が濡れていき、和紙越しのなにかの色がわかる。それは不気味な黄土色だ。気色の悪い、なんだか本当に気持ちの悪い、興味のない私なら
「そんな色の物見たくない」
その一言で物事を片付けただろう。しかし、今私はこれを見たいと思っている。悪魔の手のひらで転がされているのか、小指でさそわれているのか、それぐらい、何かに引き寄せられていた。少しづつ、少しづつ。異明神がにひにひと笑っているのが聞こえる。私は意を決してその和紙を開いた。
そこには、乾燥して黄色く濁っていた目を見開いて、笑っているのか、憎んでいるのかわからない口。すべて憎むような面持ちで、ミイラ状態で保管してあった。頭には少し光を反射する侍烏帽子がキッチリとかぶってあった。間違いない。この面持ちは兼続、嚼塊異明神だ。ここはあの紙で出来た神殿なんかじゃない。其れよりもお粗末な現世なのだ。守りもなんもない。私はその濁った褐色のミイラに触れようとしたとき…
びりびりびりぃいいい。