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【第4話】ジャック・ドレイク(4)

「それはそうと――」


 リリアが侍女仕事に戻ったあと、思いついた疑問をマーニにぶつける。


「リリアに俺の過去が伝わってしまったのは仕方がないとして……ソールたちの正体を教えても良かったのか?」

「それは大丈夫。そもそもマーニたちの正体についてはリリアに並列化していないから」

「そうなのか……」

「女神の魂が持つ膨大な記憶を並列化なんてしたら、いくらハイエルフとは言え、リリアの魂が破裂しちゃうからねー」

「ん。だからマーニたちの記憶については、改竄を施した上で最小パケットのみリリアに転送しておいた」

「改竄ってどんな改竄をしたんだ?」

「ソールたちとジャック様は前世からの付き合いで、ジャック様と同じように色んな魔法を使えるって設定にしたんだよ」

「なるほど。それならまぁ……辻褄は合うか」

「ん。ただ一つ問題が発生している」

「問題っ!?」

「そうなんだよねー。女神であるソールたちと並列化をしたことで、リリアがソールたちの巫女になっちゃった」

「巫女って……もしかして女神の巫女ってことか?」

「それも太陽と月、二人の女神の巫女になってしまった」

「おいおい……」

「いくら情報を改竄したとはいえ、マーニたちの本質は女神だから。並列化のときにマーニたちの本質がリリアの魂に影響を与えてしまった」

「なるほど……」


 巫女という特殊クラスについた場合、ステータスが大幅強化される。

 そこまでは良いのだが――。


「つまり……リリアは今後、神にまつわる運命に巻き込まれることが確定したってことか」


 神の巫女になるということは神と運命共同体になったということと同じ意味を持つ。

 本来は何が起こるか分からないはずの『運命』に、神との関係があるということでバイアスが掛かってしまうのだ。

 それがこの世界の『(ルール)』だ。

 大賢者という特殊クラスだった俺と同じように、リリアにもこの先、神にまつわる様々な出来事が発生することになるだろう。

 だが――こうなってしまった以上、もう何もできない。


「ソールもマーニも、できる限りリリアを守るつもりだから。安心してね、ジャック様ー」

「ん。さすがに予想外だったけど。マーニも頑張ってリリアを守る」

「ああ。俺も力を尽くすけど、二人ともリリアのことをよろしく頼む」




 それから――。

 独立までの限られた時間の中で、俺はソールとマーニを助手として小型宇宙船の改造に力を注いだ。

 そして時は過ぎ――一週間後が門出の日となる今日、魔導科学を惜しみなく投入した世界最強の小型宇宙船が無事、完成した。


「完っ成っ、だぁーーーーーーっ!」


 全ての艤装を終えて真の姿を現した小型宇宙船を見ていると、自然と感極まった声が漏れてしまう。


「あははっ、やっと完成したねー!」

「ん。マーニも満足」


 作業着を機械油にまみれさせたソールたちも、同じように心底満足そうな笑顔を浮かべていた。


「六人乗りの小型宇宙船もこう見ると案外大きいな」

「全長七メール、全高全幅四メール。ずんぐりむっくりしててなかなか可愛い姿」

「それでも魔導科学で色々と魔改造しちゃったからねー。この子だけで正規軍の小艦隊ぐらいなら余裕で相手ができそうー。ジャック様やりすぎー」

「ま、まぁそこはほら、俺も初めての宇宙船改造作業だったから加減が分からなかったし」

「だけどやり過ぎな感は否めない」

「ぐっ……」

「通常動力に加えて魔素を取り込んで半永久的にエネルギーを生み出すマナジェネレータ搭載とか、ちょっと頭おかしいよこれ」

「装甲も物質硬化の魔法だけでは飽き足らず、マナジェネレータと連動させた大規模結界魔法を展開するバリアまで搭載。それに隠蔽魔法を利用したステルスモードとか。かなり頭がおかしい仕上がり」

「武装もやりすぎだとソールは思うんだよねー」

「ん。光学兵器の大出力化は言うに及ばず、艦の周囲に魔方陣を展開して四属性魔法を全方向に放つことができるし、転移魔法を使ったワープ機能なんかも搭載してる。……この技術が世に溢れたら世界が危険で危ない」

「そ、そんなにかなぁ?」

「なにを誤魔化しているのだかとマーニはジャック様にジト目を向ける」

「おなじくー!」

「は、ははっ、でもさ、こういうのってさー、浪漫だろ?」

「わかる」

「おなじくー!」

「だろーっ!」

「でもこの船はこの時代で技術的特異点(シンギュラリティ)を担うと言っても過言ではない存在。扱いには細心の注意を」

「ま、それは当然だな。でもこれからのことを考えると、この船だけで終わる問題ではないからなー……」


 奴隷たちを解放し、真に平和な世界を目指す。

 そのために必要な力の一つ。

 それは間違いなく魔導科学だ。


「影響を与えすぎないように注意しながらやるさ」

「ん。危なくなったらマーニたちがブレーキを掛ける。今はジャック様の好きなようにすればいい」

「ああ。そうさせてもらうよ」

「ところでさージャック様ー! この子、なんて名前にするのー?」

「ああ、それはもう決まっているんだ」


 言いながら、艦の中枢を担う統合管制AIに接続した外部端末のキーを軽やかに叩いた。


「『全てを識る者(アルヴィース)』号。そして船長の名はキャプテン・ジャックだ!」

「おおーっ、すごーいっ!」

「ん。すごい。マーニもこの名前、気に入った」

「うん。お姉様のことを思い出せる良い名だってソールも思うよ!」

「ああ、ありがとう」


 二人が気に入ってくれて良かった。


「さて。出航まであと一週間しかない。早速、食糧や燃料の積み込みを始めよう! 二人とも手伝って」

「おー!」

「おー」


 宇宙船が完成して意気軒高の俺たちは物資の積み込みに時間を費やす。

 積載しなければならない物資は殊の外多い。

 宇宙船の燃料である『エレメントリキッド』や薬や食糧、水や酸素。

 武器弾薬にそれぞれの私物などなどだ。

 途中、リリアや他の家人たちも手伝いに来てくれたため、思った以上に作業が捗り――出航の二日前には全ての準備を終えることができた。




 その夜――。


「おおジャック! 我が愛しの三男坊よ!」


 独立を二日後に控えた夜、俺とリリア、ソールとマーニ、両親と妹のシャーロットや少数の家人たちを交えて、ささやかな晩餐が開かれた。

 その晩餐会が開かれた途端、父上が俺の身体を強く抱き締めた。


「いよいよ二日後には出航か。ううっ、父はな。父は寂しいぞぉ!」

「あ、あははっ、父上、そう言って下さるのは嬉しいですけど、正直に言うと痛いです……!」

「ガハハッ! すまんすまん!」


 解放してくれた父上が、改めて激励するように俺の肩に手を乗せた。


「いよいよだな、ジャック。独立した後のことは考えているか?」

「はい父上」


 頷きながら、俺は独立後の計画を父上たちに披露した。


「俺にはアーサー兄上のような統率力も、ハリー兄さんのような商才もありません。グレース姉上のような度胸もなければ、エラ姉さんのような叶えたい夢も持ち合わせていません」


 そこで一度言葉を切り、肩に乗った父上の手に自分のそれを乗せた。


「何もない俺ですが、でも憧れていることはあるんです。小型宇宙船一隻で宇宙に繰り出し、違法者(アウトロー)たちと渡り合い、武功と実績を積んで一家を構えた大海賊フランシス・ドレイク。俺はそんな風にカッコイイ男になりたい!」


 父上の大きな手を包み込み、胸を張って宣言する。


「俺は父上と同じように宇宙に飛び出し、たくさんの仲間たちと共に宇宙を旅し、そして辺境域で一旗あげようと思います!」

「おおっ! つまり領主を目指すということか!」

「はいっ!」


 この時代、辺境宙域で居住可能な未開拓惑星を発見した者は、様々な条件を経たあと、その惑星の領主になることを認められているのだ。


「領主となって力をつけ、誰もが幸せに暮らせる国を興す。それが独立した俺の描く夢です!」

「うむ! うむっ! 素晴らしいぞジャック! その意気! その大志! それでこそ我が愛する三男坊だ!」


 国興し宣言に感動したのか、瞳を潤ませた父上がバンバンと俺の肩を叩いてくる。

 少し痛い。

 だけどその痛みからは父上の愛情がしっかりと感じられた。


「独立したとは言え、おまえは俺とエミリーの息子であり、アーサーとハリーの弟であり、グレースとエラの弟であり、シャーロットの兄だ。苦しければ兄姉を頼れ。辛ければ父母を頼れ。しかし絶対に挫けるな! 己の夢を叶えるために全力を尽くせ! ドレイク家の家訓を忘れるなよ」

「ドレイク家家訓! 夢を叶えるは己自身であると知れ!」

「そうだ!」


 そう言うと父上は手を差し出してきた。

 その手をしっかりと握り絞める。


「征けジャック! 宇宙は広大だ!」

「はい!」


 父上の激励に力強く返事をすると、少女が横からぶつかってきた。


「お兄ちゃん! 元気でね! 絶対に絶対にシャルのこと、忘れちゃいやだからね!」


 たった一人の血の繋がった妹、シャーロット。

 金髪をクルクルと捲いておしゃれをしたシャーロットが、涙を堪えながら再会を願う。


「もちろんだよ」


 五年前、俺の十歳の誕生日の時は舌足らずだった話し方も、シャーロットが九歳となった今では、おしゃれに気を遣う立派な淑女になっていた。


「シャルの誕生日には、ちゃんとメッセージを頂戴ね? 約束だよ?」

「約束する。だからシャーロット。母上のことを頼んだよ」

「うん!」


 力強く頷いたシャーロットの後ろでは、俺たち二人の様子を涙を湛えた瞳で見守ってくれている母上の姿があった。


「母上、行って参ります」

「ええ。フランシス・ドレイクの息子として、胸を張ってお征きなさい。母はここからあなたの無事を祈っています」

「はいっ!」


 短い激励の言葉。

 だがその言葉に万感が籠もっていることは伝わってきていた。


「さぁ湿っぽいのは終わりにして今夜は盛大に騒ごう! 我が愛しの三男坊の門出、皆も共に祝ってやってくれ!」

 グラスを掲げた父上の言葉を皮切りに、晩餐に参加している者たちが食事を開始した。

 それぞれが会話を楽しみながら、楽しげに食事をする光景。

 その光景が何だかとても懐かしく思えた。


(前世の仲間たちのことを思い出すなぁ……)


 五千年と少し前。

 戦乱に塗れたルミドガルズ世界を救うために行動を共にした、かけがえのない仲間たち。

 その子孫もこの世界のどこかで生きているのだろうか。

 いつか会ってみたい気持ちもある。


(その前に……あいつにも会いたいな)


 女神ユーミル。

 このルミドガルズ世界の『創世の女神』。

 お人好しでおっちょこちょいで、だけど憎めないあの女神は、今頃どんな気持ちでこの世界を眺めているのだろう。


(いつか会えると良いんだけどな……)




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