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【第18話】世界を革命する力(4)


 その頃、アルヴィース号では――。




「探知魔法に感ありニャ! 惑星テラの境界域に多数のエネルギー反応! 多い……すごく多いニャ!」

「ミミ、数の報告は正確に」

「ほ、報告って言われてもニャ……とにかくいっぱいニャ!」


 混乱するミミの横でレーダーを確認していたリリアが、焦燥に満ちた声を上げた。


「艦艇の数はおよそ二千と推定! でもまだまだ増えていってます!」

「二千は少ないねー。あいつらが集まってくるとしたら、三万ぐらいにはなりそうだけどー」

「ん。多分、様子見」

「だねー」

「おいおい、そんなに落ち着いてて大丈夫なのかよ! こっちはこの艦一隻だけなんだぞ!」

「まぁ予想外のことが起きない限りは大丈夫大丈夫ー」

「ホントかよ……」

「ん。マーニたちの指示にちゃんと従ってくれれば安全は保証できる。……だから力を貸して欲しい」

「そりゃ、ご主人の命令もあるし、手伝うことは手伝うけどよ……」

「エルたち、こんな大艦隊と戦闘したことなんてないよぉ……」

「海賊たちと戦うのとはワケが違うニャ!」

「そう、ですね。本当に大丈夫でしょうか……」


 口々に不安を零すブリッジクルーに対し、


「大丈夫だってー。みんな心配性だなぁー」

 ソールはいつも通りの口調で仲間たちを宥めた。


「いや、あんたらが普段通り過ぎんだよ!」

「いつも通りやれば大丈夫だと知っているから。つまり皆もいつも通りやれば安全」

「だからそれが信じられない――あぁ、もう良い! とにかく今はあんたらがアタイらの指揮官なんだからさっさと指示をくれ」

「ん。分かった」


 ガンドに頷きを返したマーニが、管制席を立って艦長席へと移った。


「ドナ、統合管制は任せる」

「え、あ、はい!」

「ソールお姉ちゃんは攻撃と防御を担当。エルは操艦を」

「ほーい」

「ええっ!? エルが操艦するのっ!?」

「大丈夫大丈夫ー。ちゃんと教えたでしょー?」

「そ、それはそうだけどぉ……」

「万が一のときはソールがフォローするから自由にやっていいよー」

「ううっ、自由にやれって言われてもぉ……」

「今は人がいない。さっさとやる」

「ううっ、分かったよぅ」


 渋々と言った調子で答えたエルが操艦準備に取りかかる。


「リリアは機関の制御をお願い」

「分かりました! 任せてください!」

「ミミは索敵」

「ニャ……が、が、頑張るニャ!」

「ん。ブリッジの配置は以上」

「おいおいおーい! アタイはどうすりゃ良いんだよっ!?」

「ガンドは乗組員を安心させて回って」

「はあっ!?」

「ジャック様がいない今、乗組員たちが不安になると艦運用に支障が出る。だからガンドに乗組員たちの鼓舞をお願いしたい」

「鼓舞ったって……アタイ、そんなのやったことねーぞ?」

「いつも通り、ガンドらしく振る舞ってくれるだけでいい」

「はぁ……わーったよ。他にも何か用があれば遠慮無く言えよ?」

「ん。そのときはお願い」

「じゃあアタイは艦内を回ってくる。……頼むぜお二人さん」

「ん。マーニとソールお姉ちゃんに任せておく」

「ガンドもよろしくねー」


 ブリッジから出て行ったガンドを見送った後、マーニは艦長席のマイクを通して全乗組員に戦闘準備を命令した。


「これよりアルヴィース号はマーニが指揮する。各員、第一種戦闘態勢。ジャック様が戻るまでこの宙域に止まって敵を迎え撃つ。各員の奮励努力を期待する。以上」


 マーニがマイクを置くのを見て、ソールがブリッジクルーに指示を出し始めた。


「リリア、マナジェネレータ起動してー」

「はい!」

「ミミ、索敵した情報をエルに報告」

「ええと、敵艦隊、侵攻を開始したニャ!」

「りょ、了解! ええと、アルヴィース号はどう動かせば良いの?」

「敵陣に突入ー!」

「ええっ!? そんなのムリムリムリムリー!」

「お姉ちゃん、勝手に決めない」

「へへー、ごめーん」

「アルヴィース号はひとまずこの場で待機。あとお姉ちゃんはさっさと結界魔法を展開する」

「ほーい」

「ドナ、マギインターフェースをマーニとお姉ちゃん、あとリリアの場所に展開して」

「了解です。……マギインターフェース展開します」


 ドナが管制卓を操作すると、各々の場所にマギインターフェースが展開された。


「あとは敵の動きを待つ」


 そう言ってマーニは艦長席のシートに背中を預けて沈黙を貫く。

 やがて――。


「ニャッ!? 敵艦隊より入電ニャッ!」

「答えなくていい」

「む、無視するのかニャ?」

「何を言いたいのかは分かる。相手するだけ無駄」

「りょ、了解したニャ……! って、敵がアルヴィース号を包囲するように動き始めたニャ!」

「ん。定石通りの動き。予測の範囲内」

「そ、そうなのニャ?」

「今はアルヴィース号に敵を引きつけておく。ジャック様が帰ってきてから反撃を開始するつもり」

「えーっ。ソール、あいつらギッタギッタのメッコメッコにしてやりたいんだけどー」

「それはマーニも同じ気持ち。だけど今は悪手」

「むーっ」


 マーニの指示に、ソールは不満げに唇を尖らせる。


「とにかく今は防御に徹する。ミミ、敵の情報は逐一報告」

「ほ、報告って言ってもニャー……ああっ! 敵艦隊、エネルギー反応増大したニャ!」

「ん。お姉ちゃん、結界は?」

「展開完了してるよー。ただの光学兵器なら余裕余裕ー」


 マーニの確認に答えるソールの言葉を遮るように、ミミが焦りに満ちた声を上げた。


「敵艦、砲撃を開始したニャ!」


 その言葉と同時にメインモニターが白い光に覆われた。

「うわー、すごーい……こんなの見たことない……」


 迫り来る白い閃光を見て、エルが呆けたような感想を漏らす。


「着弾まで、3、2、1……結界に着弾ー」


 ソールの報告と共に、メインモニターに映っていた白い光は一気に霧散し、再び暗い宇宙の様子が映し出された。


「被害報告」

「は、はい! 統合管制AIによる被弾チェック……被害、ゼロです!」

「結界の強度も維持できてるよー。というか、光学兵器程度でソールの結界を破ろうとかナマイキすぎー」

「お姉ちゃん油断しない。……ミミ、敵の状況は?」

「包囲継続なのニャ! でも包囲している敵部隊の後方から、どんどん増援がやってきてるニャ……!」

「数は?」

「ええと、ええと……たくさんニャ!」

「数は正確――ん、ここまできた以上、数の正確性は意味を持たない。ミミは引き続き、戦場全体の状況を把握しておく」

「りょ、了解ニャ!」


 ミミが答える間も、アルヴィース号のメインモニターには敵艦隊からの砲撃の光が殺到し、結界に阻まれて霧散する光景が映し出されていた。


「うーん……」


 モニターに映る光景を眺めながら、ソールは首を傾げる。


「お姉ちゃん、どうかした?」

「……この程度の攻撃しかできないレベルなのに、あいつらはどうして神の否定なんて呪詛を使ったのかなーって」

「それは……明確な回答はできない。マーニにも分からないから」

「だよね。……ジャック様なら何か分かるのかな?」

「ジャック様は『全てを識る者』と呼ばれた大賢者。きっとマーニたちの疑問に答えてくれるはず。……マーニはそう信じてる」

「ジャック様を信じて待つしかない、ってことかー」

「ん。女神だって完璧じゃないし万能でもない。マーニたちは――」


 マーニが言葉を続けようとした矢先、ミミが緊迫した声を上げた。


「敵艦隊、なんか後退していくニャ!」

「ここで後退? ミミ、敵艦の動きをメインモニターに回す」

「了解ニャ!」


 マーニの指示に従ってミミが敵艦隊の動きをメインモニターに映した。

 そこにはアルヴィース号を包囲していた艦隊が後退する姿が映し出されていた。


「アルヴィース号の包囲を崩している……? ドナ、別レイヤーで統合管制AIの機動予測を映す」

「了解。少しお待ちを」


 マーニの指示を受けてドナが管制卓を操作すると、メインモニターにAIによる敵艦隊の機動予測線が映し出された。

 予測線によって敵艦隊が方円陣に移行しようとしているのが判明した。


「方円陣って防衛用の陣形だよねー? あいつらなんでそんな陣形を取ろうとしてるんだろー?」

「分からない……」


 敵の意図を図りかねたマーニが、ジッとモニターを見つめる。

 と、そのとき――。


「え……そんなっ! こんなのって……っ!」


 ミミのフォローをしていたリリアが焦燥に満ちた声を上げた。


「リリア、どうかしたー?」

「て、敵艦隊から魔力反応が……っ!」

「魔力ぅっ!?」

「はい! 敵艦隊全体から魔力の発生を感知しました!」

「そんな……まさか! どうしてあいつらが魔力を――!」

「お姉ちゃん落ち着く。そもそも魔力は生きとし生けるもの全てが持つ。それがこの世界の『理』」

「だけど魔法文明が滅びてもう四千年以上経ってるんだよ? 魔法を行使する術を失ってるんだから魔力を使うことなんてないはずでしょー?」

「それはそう。でも『古き貴き家門』だけが魔法技術を秘匿していた可能性もある」

「それは……確かに考えられるかー……」

「今は対処。お姉ちゃん、『対魔法結界(アンチマジックシェル)』の発動をお願い」

「了解ー!」


 マーニからの指示を受け、ソールはマギインターフェースに手を触れさせて魔法を発動させた。

 するとアルヴィース号を覆う結界の上にもう一枚、障壁が展開された。


「これでよし。多分だけど」

「ありがと。これで少し様子を――」


 見よう。

 マーニがそう発言しようとした、そのとき。


「マーニさん! 敵艦隊が魔法陣を展開させています! 大きい……すごく大きい魔法陣を…っ!」


 方円陣を組んでいた艦隊の艦首が光を放つと、その光が繋がって巨大な魔法陣が姿を表した。


「展開した艦隊で魔法陣を描いた……っ!? でもあんな魔法陣、マーニは見たことがない……!」

「そもそも魔法陣の公式に当てはまってないよ! あんな魔法陣で魔法が発動できるはずが――」


 ソールの言葉を遮るように、リリアが悲鳴にも似た声を上げた。


「敵艦隊、魔力増大! なにか来ます!」


 その声とほぼ同時にメインモニターが白く輝いた。


「くっ! 各員、対ショック防御! 衝撃に備える!」


 アルヴィース号に光の洪水が襲いかかり、それと同時に強烈な衝撃がアルヴィース号を包み込んだ。

 各所から爆発音が相次ぎ、ブリッジには耳をつんざくほどの警告音が鳴り響く。


「ドナ、被害確認!」

「待って下さい……被害、確認しました! 艦首装甲の一部が中破! 主砲の一部と副砲の大部分が損傷! 効果的な反撃ができない状態です!」

「乗組員の被害はっ!?」

「そちらの被害は軽微です! 今のところ重傷を負ったクルーの報告はありません!」

「分かった。お姉ちゃん! 結界の張り直し!」

「もうやってる!」

「ダメです! 敵艦隊、魔力反応増大! 次が来ます!」

「そんな――! 次はもう――」


 次は防げない――マーニの絶望の声と共に光がアルヴィース号に直撃しようとした、そのとき。


七色の障壁プリズマティック・ウォール!」


 クルーたちを力づける、大きな声がブリッジに響き渡った――。




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