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【第11話】旅立ち(7)


「いやはや……まさか単艦でガンバン一家とやりあい、本拠地を制圧してしまうとは……さすが宇宙海賊ドレイク家のご子息。若かりし頃のフランシス殿を思い出しますな」


 駆けつけたチャールス星系正規軍を指揮する初老の中佐さんに、しきりに感心されてしまった。


「ははっ、たまたまうまく行っただけですよ」

「ご謙遜を。戦闘ログを拝見したところ、小破を装ってステーション内に潜入し、奇襲とハッキングによって海賊たちを無力化したとか。まさに制圧戦の教科書のような戦いぶりではありませんか!」

「ありがとうございます。これも優秀な仲間たちのお陰です」

「うむうむ。我が軍に欲しい優秀さだ。いやはやお見それしました」


 やたらと賞賛してくれる中佐さんに曖昧な笑顔を返していると、中佐は何かを思い出したように付け加えた。


「ああ、そうそう。ギルドからの伝言を忘れておりました。後ほどガンバン一家の所有物の確認のために職員が派遣されてくるそうです。法的な手続きが完了するまでは勝手をしないように、と」

「了解してます。傭兵ギルドのマニュアルにもその旨は記載されていますからね。ギルド職員が来るまでは大人しく待機しておきますよ」

「うむうむ。それが良いでしょうな。それにしても……ジャック殿は傭兵とは思えないほど礼儀正しいですな。他の傭兵もあなたのように紳士であれば軍との諍いも起きないのですが……」

「は、ははっ……ありがとうございます?」

「ともかくガンバン一家はしかと預かりました。私が責任を持ってチャールス本星まで護送するのでご安心を」

「はい。お願いします」

「ではこれにて失礼」


 姿勢を正して敬礼をした中佐さんとの通信が切れ、俺は凝った肩を揉みほぐしながら仲間たちに声を掛けた。


「ふぅ。お疲れ様。みんな怪我がなくて良かった」

「ん。ジャック様もお疲れ様」

「みんなおつー!」

「お疲れ様でした! 皆さんがご無事で本当に良かったです……!」


 胸をなで下ろしたリリアは、肩を揉んでいる俺に駆け寄って、マッサージを引き継いでくれた。

 リリアの優しいマッサージを受けながらマーニに報告を促す。


「どうだったマーニ。例のアレは見つかった?」


 例のアレとは、ギルドと違法者たちの繋がりを示す証拠データの事だ。

 ステーションのマスターAIをハッキングするついでに、マーニに探してもらっていたのだが――。


「ん。ちゃんと見つけた。発ガンバン、宛カリーンギルド支部長の違法贈与の証拠データ」

「あちゃー、見つかっちゃったか。ギルドと違法者の癒着は確定だな」

「データを確認してみたところ、懸賞金を掛けられている違法者のほぼ全てが、カリーンギルド支部長と何らかの繋がりがある」

「懸賞金を掛けられてる違法者、か……」

「それってカリーンの支部長が貴族の情報を流してるってことー?」

「見つけたデータからはそう読み取れる」

「ふーん。腐ってるんだねー、ギルドって」


 嫌悪――とまではいかないが、ソールの口調からは侮蔑にも似た悪感情が伝わってくる。


「まぁ……ソールが言っていたように、清廉潔白な組織なんてものは無いのかもなぁ」

「で、でもピカミィさんはそうじゃないって、ご主人様が……」

「ああ、彼女だけじゃない。職員の大半は真面目に仕事をする人たちだと思うよ。だけど上が腐っていると被害が広がるからね」

「とはいえ、このデータ、ジャック様には荷が勝ち過ぎていると思う」

「そうだな。Gランクの俺が持っていて良いデータじゃない。かといって、正規軍に渡すのもまずいだろう」

「正規軍だって組織だもんねー」

「ああ。両者が共謀してもみ消す危険もある」


 ギルドと正規軍を敵に回す可能性を考えれば、このデータを使って俺が直接、ギルドに揺さぶりを掛けるのは悪手だろう。

 ならばどうするか――。


「よし。アーサー兄上にデータを渡そう」

「アーサー様に、ですか? でもどうして……?」


 俺の決定を不思議に思ったのか、リリアが小さく首を傾げた。


「アーサー兄上が経営しているPMC(民間軍事会社)『アーサー・ドレイク・カンパニー』はAランクの巨大傭兵団だからね。傭兵ギルドへの押し出しも強いし、多少の圧力なら跳ね返す力もある」


 Gランクの俺がギルドの汚職を告発したところで、信頼も実績もない新人の言うことをまともに聞いて貰える可能性は低い。


「その点、アーサー兄上はAランク傭兵ギルドとしての実績と信頼がある。兄上の発言であればギルドも無視することはできないだろう」

「なるほどぉ……だからアーサー様に情報をお渡しするんですね」

「そういうこと。……それでどう? マーニ、ソール」

「ふむ……ん。良い案。マーニは賛成」

「ソールはどっちでも可ー」

「ならその方向で行こう。アーサー兄上には俺から連絡を入れるから、マーニは譲渡するデータの選別をお願い」

「ん」

「ソールは周辺宙域の索敵を頼む」

「ハイエナが集って来ないように見張ってろってことだねー。りょーかいでぇ~す!」

「あの、ご主人様。私はどうすれば……」

「リリアには一つ、重要な任務を任せたい」

「はい……! 私、命を賭けて頑張ります!」

「よし。じゃあリリア――」

「はい……!」

「今すぐ美味いご飯を作ってくれ。そろそろ空腹が限界なんだ……」

「うー、ソールもお腹ぺっこぺこー!」

「同じく」

「あ……はいっ! 私、頑張って美味しい料理をたくさん作りますね!」




 俺たちはリリアの作ってくれた食事に舌鼓を打ちながら、ギルド職員の到着を待つ。

 やがて職員が乗った艦が廃棄ステーションに到着し、その艦から見知った顔の職員がステーションに降り立った。




「ジャックさん!」


 ギルドの艦から下りてきたのは、カリーン支部の受付で俺の質問に答えてくれたギルド職員、ピカミィさんだった。


「ああ、ピカミィさんが来てくれたんですね」

「は、はい! たまたまジャックさんの窓口を担当した私に声が掛かって。それよりも、です!」


 ズンズンと足音激しく近付いてきたピカミィさんは、腰を腕に当てながらズイッと顔を近づけてきた。


「どうしてこんなに危ないことをしたんですか! 下手をすれば死んでいたかもしれないんですよ!」


 真剣な表情で怒りを表し、ピカミィさんが詰め寄ってくる。


「ガンバン一家は懸賞金の掛かった海賊で、今のジャックさんでは太刀打ちできないって忠告したじゃないですか! それなのに――」

「は、はは、いやぁ相手が油断してくれてなんとかなりました」

「油断とか、そんなレベルの問題じゃないですってばーっ! もう! 報告を聞いたとき、私がどれだけ心配したことかー!」


 涙目になって俺を責めるピカミィさんに、


「ごめんなさい」

 俺は素直に謝るしか術を持たなかった。


「全く……無事だったから良かったですけど。もう二度とこんな危ない橋は渡らないでくださいね?」

「は、はい。善処します」

「善処……はぁ~……傭兵っていつもそうなんだから……!」


 ブツブツと愚痴を零したピカミィさんが、テンションを切り替えるように大きく深呼吸をしたあと、メガネをピカッと光らせた。


「とにかく。これからギルド職員による内部調査を行います。それが終わるまでは艦で大人しくしててください」

「了解です。けど内部調査ってどんなことをするんです?」

「主に海賊の所有物の確認です。どれだけの資産を有しているのかをギルド職員が調べます。その後、ジャックさんに移譲される資産をリスト化するのが私たちの仕事ですね」

「なるほど」

「ちなみにリスト化されるのは海賊たちが所有した艦艇であるとか、武器弾薬……あと奴隷なんかも資産と見なされてリスト化されます」

「奴隷もですか。でも奴隷の移譲ってどうやってするんです?」

「その点はご安心を。銀河連邦政府から奴隷専門の特別な職員に同行してもらっていますから。その職員に任せておけば銀河連邦法に沿って合法的に奴隷の所有権を移譲できますよ」

「そうなんですね。ああ、そういえば……マーニ、例のものを」

「ん。これ、先行して調べておいたリスト」

「え? あ、はい。どうも。中を拝見させてもらいますね」


 そう言うとピカミィさんはマーニから渡されたリストをパラパラとめくっていった。


「ふむふむ、おおー、なるほどー……これはすごい。海賊たちの資産の詳細が丁寧にリスト化されてますね。これは有り難いです!」

「ははっ、待っている間、暇だったもので。ステーションのマスターAIから情報を引き出しておいたんです」

「助かります。ただ業務上、このリストをそのまま使うことはできませんのでリストを参考にしつつ、私たちでも調査させてもらいますね」

「ええ。それは当然です」


 ウソのリストを提出して自分が得をするようにする――そんなことを考える傭兵もいるだろうから、ギルドとしては当然の判断だ。


「それにしても……かゆいところに手が届く、素晴らしいリストですねー。ギルドの職員として欲しいぐらいです。これはこの方が?」

「ええ。俺の自慢の仲間です」

「仲間、ですか……」


 呟いたピカミィさんの視線が、メイドたちの首元に向かう。


「お三方ともジャックさんの奴隷……ですよね?」

「ええ。でもそれが何か?」

「あ、いえいえ。ジャックさんと奴隷の人たち、なんだか仲良しに見えたもので」

「仲良しですよ。俺にとってはかけがえのない仲間ですから」

「仲間、ですか。そうですか。……うん、良いですね!」


 ニコッと微笑んだピカミィさんが、しきりにうんうんと頷き、俺たちの関係を祝福してくれた。


「虐げられる奴隷が多いなかで、ジャックさんと奴隷さんたちの間には、確かな絆があるように見えます。そういうの、イエスですよ!」

「……ピカミィさんはそう思うんですか?」

「はい! 職業柄、傭兵や違法者、他にも色々と奴隷を連れた人たちを拝見することがありますけど。……正直、見ていて不快なことも多いんです」

「それは……」


 違法者は言うに及ばず傭兵も奴隷を使う。

 だがその使い方には酷いものも多いのだ。

 雑用をさせるのは言うに及ばず、銃撃戦時に盾代わりに突撃させたり、爆弾を装備させて敵のアジトに突入させて自爆させたり。

 もちろん性奴隷として使ったりと、奴隷の扱いはとにかく酷い。

 それがこの時代の普通なのだ。

 奴隷の扱いとしてそれが普通だからこそ、不快に思うピカミィさんの感性は普通ではないとも言える。

 俺としては歓迎できる感性だけど、そういう考え方をするピカミィさんにとっては生きづらい世の中かもしれない。

 残念だけどそれが今の時代なのだ。


「だからジャックさんと奴隷さんたちが仲良しなのを見て、私、なんだか安心しちゃいました。可能ならばガンバンたちが所有する奴隷たちも引き取ってあげて欲しいです」

「それは……ええ。できる限りのことはするつもりでいますよ」

「ありがとうございます! それじゃ、私は他の職員と一緒に、すぐにリストアップの作業を進めますね! では!」


 ペコッと頭を下げたピカミィさんは、俺たちに背を向けると同僚たちの元へと走り去った。


「ピカミィさん、良い人、ですね……」


 走り去ったピカミィさんの後ろ姿を見送りながら、リリアが嬉しそうに呟いた。


「ああ。今の時代でああいう感性の人が居るってのは救いだね」

「本当ならそれが普通だとソールは思うけどねー……」


 複雑な表情を浮かべ、皮肉めいた言葉を零したソールの頭を撫でた。


「その『普通』をこれから広めていこう。俺たちの力で」

「……(コクッ)」




 それから――。

 ステーションの中をギルド職員たちが駆け回り、ガンバン一家の所有していた資産のリストアップが進む。

 その間、俺たちは特にやることもなく、アルヴィース号の中でのんびりとした時間を過ごしていた。


「んー、やることがない」


 いや、正確に言うと、やることはある。あるにはある。

 あるのだが、今のタイミングで動くとまずいので動けない、と言った方が正しい。


「違法者とギルド幹部の癒着の証拠、さっさとアーサー兄上に渡したい気持ちはあるんだけどなー」

「ギルド職員が居る間は止めた方が良いとマーニは判断する」

「まぁ、そうだよな」


 可能性は高くないとは言え、ステーションで活動しているギルド職員がアーサー兄上への通信を傍受するかもしれないのだ。

 事が事だけに、できる限り慎重に行きたい――。

 と考えているからこそ、今はやることがないという訳だ。


「ギルド職員たち、まだ仕事が終わらないのかな?」

「進捗を確認した。リストアップはほぼ終わっている」

「そうなんですか? じゃあどうして報告がこないんでしょう?」


 マーニの説明にリリアが首を傾げた。


「この廃棄ステーションの所有権をどうするか、迷っているらしい」

「ん? どういうことだ?」

「この廃棄ステーションはギルドの()のデータベースには掲載されていない施設。だけど現実に廃棄ステーションは実在している」

「ああ、なるほど」


 廃棄されているとは言え、宇宙ステーションは戦略施設だ。

 その所有者は普通、統治政府になるのだが、ギルドのデータベースを確認するとこのステーションは存在していないことになっている。

 情報として存在していないのだから、このステーションは『初めて発見された』ものとなり、それより以前の所有者は存在しないことになる。

 だがステーションは現実として実在しているのだ。

 だったらステーションの扱いをどうするか?

 情報が無いからステーションを『初めて発見されたもの』であるとして処理し、ギルド規定に従い、発見した傭兵にその所有権を渡すのか。

 情報が無くても、現実に存在している戦略施設なのだから、傭兵には渡さず所有権を持っているであろう統治政府に返還するのか。

 その二択をどうするべきか、議論が尽きない――というのが今の状況という訳だ。


「ぶっちゃけステーションなんて要らないから、その分、クレジットが欲しいんだけどな」

「ん。それがベスト。だけどこちらから提案するのは不可」

「違法者とギルド幹部の癒着が絡んでるからねー。できるだけ距離を取って知らんぷりしておいたほうが良いだろうしー」

「お姉ちゃん正解」

「となると、まだしばらくは待機しないといけないってことか」

「やることがないなら部屋に籠もってリリアとズッコンバッコンを推奨」

「ふぇっ!?」

「す、するかよそんなこと!」

「どうして? 暇潰しにセックスに耽るのは若者の特権」

「なんならソールも参戦するよー!」

「マーニも参戦希望。初4Pに挑戦するのも悪くない」

「いやせんわ。つか悪いわ! それに俺はそこまで飢えてないぞ!」

「ジャック様、もう飽きた?」

「飽きて! はないけど……いつ連絡が入るか分からない状態で、そんな爛れた生活ができるか」

「えー? ジャック様なら突然連絡が入ってきたとしても大丈夫だよー。すぐ終わるしー」

「ん? なんだそれ。おい、どういう意味だ?」


 今、不穏な単語が耳に入ってきたんだけどっ!?


「お姉ちゃんに同意。早いし」

「早いっ!? そ! そ、そ、そ、そ、早漏ちゃうわ!」


 えっ! 違うよね! 十分は保つし! えっ、早漏なの俺っ!?


「だ、大丈夫ですよジャック様! ちゃんとできてます! ジャック様は全然大丈夫ですから!」

「曖昧な慰めは逆に男を傷付ける。リリアはもう少し男心というものを勉強したほうが良い」

「へぅ……そ、そうでしょうかぁ……」

「あははっ、大丈夫大丈夫! リリアはなーんにも悪くないよ! 悪いのは早いジャック様だし!」

「やめろ! それ以上、俺の心に傷を負わせるな……!」


 俺は俺で頑張ってるつもりなんだから!


「まぁジャック様の今後に期待している。せめて二十分は持つように頑張って欲しい」

「ううっ、分かったよ……」


 女性陣から遠回しに不満足を告げられてへこんでいると、に外部からの通信を知らせる呼び出し音がブリッジに鳴り響いた。


「ピカミィ女史から通信」

「分かった。メインモニターに回して……」

「了解」


 マーニが管制卓を操作すると、ブリッジ中央にあるメインモニターに見知った顔が表示された。


『ジャックさんすみません! 連絡が遅くなりまして……! ってあれ? なんだか元気がないみたいですけど大丈夫ですか?』

「は、ははっ、まぁ色々とありまして……。で、そろそろリストアップは終わった感じですか?」

『はい、お陰様で! まずは資料をお送りしますね!』


 ピカミィさんの台詞とほぼ同時にデジタルデータを受信した。


「マーニ、内容のチェックを頼む」

「ん。……チェック完了。当方に移譲される物品のリストを確認」

「分かった。……頂いたリストに掲載されているもの全てが俺の所有物になるって認識で合ってます?」

『その通りです! 大きなモノで言うと、まずはガンバンが使っていた軍用駆逐艦ですね。あとはいくつかの小型艦船と奴隷たちが三百人ほど。他には細々とした武器弾薬やレアメタルなど、って感じです』

「なるほど。売ればそこそこ良い金額になりそうですね」

『駆逐艦をゲットできたのは大きいですよ! 新品を買おうと思えば数億クレジットはしますから! 大収穫ですね、ジャックさん!』

「ありがとうございます。頑張った甲斐がありました」

『ギルド職員の立場から言わせて貰えば、もう二度とこんな無茶はしないで欲しいですけどね』

「それはまぁ……ははっ、今後は気をつけます」

『はい、気をつけて下さい。あと一つ。これは相談なのですが――』


 言いづらそうに言葉を濁したピカミィさんが、俺の表情を窺うようにしながら言葉を続けた。


『ガンバンが拠点にしていたこのステーションなんですが。実はちょっと面倒なことになってまして』

「面倒、ですか?」

『はい。このステーション、実は三百年ほど前に廃棄されたものみたいなんですけど、ギルドのデータベースに記載されていなくてですね。権利の所在が曖昧なんです』


 ピカミィさんは説明を続ける。


『ステーションは戦略施設ですから、所有権はその地の統治政府が持っているのが常なんですけど、そこが曖昧になってまして。ギルドが勝手に所有権を渡すことができないんですよぉ』

「なるほど」

『そこでギルドからの提案なんですが。ジャックさんにはステーションの所有を諦めて頂き、その代わり、ギルドからクレジットで謝礼をお支払いする……という形にできるとありがたいなー、なんて……』

「ふむ……」

『ダメ、ですかね……?』


 ピカミィさんは、まるで子犬が飼い主に縋るような目で俺を見る。


「……分かりました。それで構いませんよ」

『……っ!! 本当ですかっ!』

「ええ。駆け出しのGランク傭兵がこんなモノを所有していても重荷にしかなりませんし。これからお金が必要になるでしょうし、謝礼を現金で貰えるならそっちの方が有り難いです」


 実際問題、駆逐艦の改装や三百人もの奴隷の維持費を考えれば、クレジットのほうが何百倍も有り難いのだ。


「ただ、いかほどクレジットを貰えるのかは気になりますけどね」

『それは……確約はできませんが、ご満足頂ける額になるように私も頑張りますから、それなりに期待してもらっても良いかと!』

「分かりました。全てピカミィさんにお任せします」

『ううっ! ありがとうございますぅぅぅ!』


 モニターの向こうで勢いよく頭を下げたピカミィさんが、すぐに頭を上げていくつかのデータを送ってきた。


『ではステーション関連の処理以外は全ての処理が完了したということで! ギルド発行の移譲証明書をお渡ししますね!』

「データ受領。問題なし」


 マーニの報告に頷きを返し、


「はい、受け取りました」

 ピカミィさんに受領した旨を伝えた。


『これでジャックさんたちは移譲された資産にアクセスできるようになりました。すぐに艦を乗り換えて出港されますか?』

「いや、一度、頂いた艦のメンテナンスをしたいので、カリーンに戻りたいですね」

『分かりました。では移譲された資産についてはギルドが責任を持ってカリーンステーションに移送する、ということでどうでしょう?』

「助かりますけど……そんなことまで任せてしまって良いんですか?」

『ステーションの所有権を放棄してもらった、そのお礼の一部とでも思って頂ければ』

「なるほど。では遠慮無く。よろしくお願いします」

『承りました! ではカリーンへの移送が完了次第、ギルドから連絡が入れますので、受け渡しは後日ということで!』

「了解です。あの、奴隷たちの扱いは――」

『それも大丈夫です。ひとまずギルドに所有権を移管した後、受け渡し時にジャックさんへ所有権を書き換えますので。私が責任を持って、ひどい事がされないように目を光らせておきますよ!』

「よろしくお願いします」

『では報告についてはこれで! また後日、カリーンステーションでお会いしましょう!』


 そう言ってピカミィさんからの通信は切断された。


「ふぅ……まぁ上々の結末かな」

「ん。ジャック様、ナイス演技」


 グッと親指をあげたマーニからお褒めの言葉を頂いた。


「ステーションの代金、どれぐらいになるかなー。楽しみだねー♪」

「まぁそこはあまり期待してないけどな」

「そうなんですか?」


 俺の言葉にリリアはちょこんっと首を傾げた。

 あーかわいい。


「いくら戦略施設のステーションでも三百年前に廃棄されたものだからね。よくて一千万クレジットぐらいじゃないかな」

「ギルドの予算も無限じゃない。こちらとしてはその額で充分」

「そういうこと。だけど問題はそれ以外にもあるんだよなー」


 三百人からなる奴隷たちの生活基盤を固めなくちゃいけないし、移譲された駆逐艦に魔改造も施したい。


「正直、お金はいくらあっても足りないから、まだまだアルヴィース号には活躍してもらわないと」

「ん。とりあえず受けていた依頼の遂行を提案」

「未登録船舶の調査だっけー。簡単なミッションだねー♪」

「そうかもしれないけど、気持ちを入れ替えて慎重に行こう」


 好事、魔、多しとも言う。

 うまく行っているときほど気を引き締めなければ、どんな落とし穴が待っているか分からない。


「とにかくこのステーションでの俺たちの仕事は終わった。さっさと宇宙の海に戻ろうか」

「ん。出航準備を進める」

「りょーかいでぇ~す!」

「あぅ、あぅ、ええと、私は――」

「そうだな。まずは俺たちに美味しい紅茶を淹れて欲しいな」

「はいっ! とびきり美味しく淹れてさしあげますね!」



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