【第10話】旅立ち(6)
艦内で戦闘準備を続ける俺たちをよそに、アルヴィース号はガンバンの旗艦に牽引されながら廃棄ステーションの港に係留された。
抵抗がないことを確認したガンバンたちは、武装した姿でわらわらと姿を現してアルヴィース号に取り付いた。
「アルヴィース号の統合管理AIに外部からのハッキングを確認」
「対応できる?」
「AIがやってくれている。……そもそもジャック様とマーニが手塩に掛けたこの子が簡単にハッキングされるはずがない」
「自信満々だな」
「この子は言うなればマーニとジャック様の子供。優秀なのは当然」
「こ、子供ぉっ!?」
「リリア、反応しすぎだって」
「あぅぅ、だ、だって、いいなぁって思ってしまってぇ……」
「あははっ、リリアだっていつかはジャック様の赤ちゃんを授かるんだし、遅いか早いかだけの違いだよー」
「ん。お姉ちゃんの言う通り」
「私とジャック様の……えへ、えへへ……」
「は、はは……状況を考えて妄想しような、みんな」
「あぅ……ご、ごめんなさいです……!」
注意されて項垂れたリリアの横では、マーニが管制卓の操作盤で指を踊らせていた。
「んー……ん。ジャック様、とりあえず港の監視カメラのハッキングに成功した。アルヴィース号外部の映像をモニターに回す」
マーニの言葉と同時に港内の映像がモニターに映し出された。
「うわっ、なんかおっきい機械を動かしてる。あれなにー?」
「あれは宇宙船の装甲を切断する重機だな。アルヴィース号のハッチを無理やり切断するつもりだろう」
「はわわっ、だ、大丈夫なんですかっ!?」
「問題ない。アルヴィース号の装甲は普通の宇宙船の装甲とは比べものにならないほどの防御力を持っている」
「通常装甲に硬度強化の魔法陣を描いて一枚ずつ強化してるからなぁ」
「そうなんですか? さすがご主人様です……っ!」
「俺、というより魔導科学が、って感じだけどね」
アルヴィース号の装甲に使用している鋼材には、一パーツ毎に硬度強化の魔法陣を描いている。
戦艦の主砲の直撃を受ければ貫通されるかもしれないが、今のところ懸念としてはそれぐらいしかない。
「たかが重機の刃程度で傷つくものじゃないよ」
「ほぇぇ……すごいですご主人様っ!」
瞳をキラキラと潤ませたリリアの真っ直ぐな賞賛に照れていると、
「あっ、重機の刃、全部欠けちゃったみたいー」
モニターで様子を窺っていたソールが現状報告をしてくれた。
「お次は対物ライフルを連射するみたいだよー?」
そんなソールの言葉を追いかけるように、モニターに接続されたスピーカーから腹の中まで震動する発射音が聞こえてきた。
だがどれだけ対物ライフルの弾頭が直撃しようが、アルヴィース号のハッチは開くことはなかった。
「はい無理ー。……って、あははっ! あいつら八つ当たりみたいにハッチを蹴り出したー! かっこわるーい♪」
どうにも開かないハッチに向かって八つ当たりする海賊たちの姿に、ソールが腹を抱えてケタケタと笑い転げる。
「そろそろ頃合いかな。ソール、準備は?」
「できてるよー!」
「よし。なら上部ハッチから出て、上から奇襲を掛けるぞ」
「りょーかいでぇ~す! それじゃ行ってくるねー!」
「ん」
「お二人とも無事に帰ってきてくださいね……!」
俺たちはリリアの声援を受けながら艦上部にあるハッチに向かう。
その途中――。
「ジャック様ー。敵は全部殺しちゃうのー?」
「まさか。無力化するだけだ。懸賞金も掛かってるしな」
「そっかー。懸賞金があるなら仕方ないねー」
「ああ。……なぁソール」
「んー?」
「……以前に比べて、ソールの攻撃性が高くなってる気がするんだけど、気のせいか?」
太陽の女神ソール。
慈愛に満ちた優しき女神と呼ばれていたが、その本質は太陽と同じく、とても苛烈なことを俺は知っている。
「人に恵みをもたらすと言われる太陽は、だが時として人々を断罪の炎で焼き尽くす。その両面性こそソールの本質なのは理解してる。だけど――」
受肉してからのソールが、人の命に対して冷徹な判断を下すようになっている――俺はそのことが気に掛かっていた。
「だけどやたらと好戦的、ってことー?」
「まぁそうだな」
「……それには色々と理由があるんだよー。でも言いたくないかなー」
「そっか。……ソールもマーニも隠し事が増えたな」
「乙女の秘密……ううん、女神の秘密だよー」
戯けた口調で答えたソールの横顔には、仄暗い影が差しているように感じられた。
「女神の秘密か。それって時機が来れば教えてもらえることか?」
「んー、どうだろ? 教えたいような、教えたくないような――」
曖昧な口調は、誤魔化しよりも迷いに近い感情を俺に伝えてくる。
「そうか。……でも言いたくなったらいつでも言ってくれ。全部、真っ正面から受け止める用意はできているから」
「……ははっ」
「なんだよ? 急に笑い出して」
「んーん。ジャック様ってば相変わらず――」
「?」
「……なんでもなーいよ♪ それよりほら、戦闘の準備準備!」
「お、おお。準備って言っても特に無いけどな」
障壁魔法を展開して、光子剣を使って斬り込むだけだし。
「ソールのほうの準備はどうだ?」
「こっちはいつでもー♪」
ソールは両手に銃火器を構えてにっこりと微笑んだ。
「よし、行くぞ!」
上部ハッチの扉を開けて気合いの言葉を発しながら俺たちは一気に飛び出した。
「人の艦を好き勝手してくれたなぁ! ガンバン!」
「なあっ!?」
予想外の場所から出現した俺たちに面食らい、ガンバン一家があんぐりと口を開けて動きを止めた。
そんな海賊たちに向かってソールが機関銃をぶっ放した。
「あははははーっ! ほらほらほらほらー! 逃げないと弾に当たって死んじゃうぞー!」
「ぎゃーっ!」
「や、やめろっ、うわぁぁぁ!」
「ぐわぁ!」
銃撃を受けて阿鼻叫喚となった海賊たち。
そんな海賊たちをよそに、俺は全身のバネと腰のスラスターを活用して無重力状態の港の中を縦横無尽に駆け回る。
「おいっ、何をしてやがる! さっさとあのガキどもを拘束しろ!」
「へ、へいっ!」
ガンバンの命令を受けて手下どもが殺到する。
だが――。
「そう簡単に捕まるものかよ!」
「へへーん、ほらほら、こっちだよー!」
空中で方向を変えて別方向に飛び去る俺たちに付いてこれず、海賊たちはもつれ合って宙を滑っていった。
「なんだぁこいつらぁ!? 無重力状態でなんでそんなに簡単に方向転換ができるんだぁ!?」
答えは簡単。
俺とソールは空中歩行スキル『天歩』を使用し、空中に足場を作って方向転換しているからだ。
「次はこっちの番だ!」
光子剣を抜き払った俺は、空中に作った足場を蹴って海賊たちの中へと突入する。
「ぐわぁ!」
「ぎゃっ!」
「わぁぁ!」
海賊たちの手にした武器を光子剣の一閃によって破壊し、海賊たちを無力化していく中、
「てめぇ! あんま調子乗ってんじゃねーぞぉ!」
ボスのガンバンだけは意気軒高に吠え、俺に向かって突進してきた。
「はっ、丁度良い。おまえを拘束すれば全部お終いだ。さっさと降参してもらおうか!」
「舐めるなよクソガキぃ! 俺はガンバン一家の頭目、ガンバン・ドンバン様だぞぉ!」
雄叫びをあげたガンバンが俺に向かって銃把を振り下ろしてきた。
その攻撃を難なく回避した俺は、一気に距離を詰めて接近戦を挑む。
「ちぃ!」
繰り出される光子剣をギリギリで避けるガンバン。
だがそれも俺の想定通りの動きだ。
右から、左から、下から――四方から剣を突き出し、圧をかけてガンバンを壁際に追い詰めていく。
やがて――。
「くそっ!」
背中が壁に触れ、追い詰められたことを悟ったガンバンが、
「死ねっ!」
苦し紛れに至近距離で引き金を引いた。
わずか五十センチほどの至近距離での発砲だ。
普通ならば腹部に直撃を免れない――だが俺は普通ではない。
発砲に瞬時に反応し、光子剣で銃弾を受け止めた。
弾丸が高出力の光子によって蒸発する音が耳に届く。
「なぁ!? てめぇ、バケモノかよっ!」
「失礼な。俺はただの十五歳の健康的な一般男子だよ!」
予想外の結果に茫然とするガンバンを、スタンモードに切り替えた光子剣で一閃すると、
「うぐっ……くそぅ……」
苦しげな声と共にガンバンが昏倒した。
「ふぅ。おーいソール。こっちは終わったぞー」
「ほーい。こっちももう終わってるよー! んーしょ」
ソールの方を見ると無力化した海賊たちをワイヤーで拘束している最中だった。
「早いなぁ」
「あははっ、ジャック様もねー。ほい!」
ソールが投げて寄越したワイヤーロープでガンバンを拘束する。
それと同時にマーニから通信が入った。
『ジャック様。ステーションのマスターAIのハッキングが完了。全システムを掌握』
「よし! じゃあステーション内にいる海賊たちの投降勧告を頼む」
『ん。それとギルドへの報告について。リリアがうまくやってくれた。援軍が六時間後に到着する予定』
「六時間って。もう終わっちゃったんだけど」
『それも後でリリアに連絡を入れてもらう』
「分かった。俺たちはこのまま拘束した海賊たちを見張っておくよ。何かあったら連絡してくれ」
『了解』
マーニの降伏勧告に従った残りの海賊たちを武装解除させ、ガンバンたちと一緒に拘束する。
拘束されて大人しくなった海賊たちを見張りながら、俺たちはギルドからの救援を待つ。
やがてチャールス星系の正規軍がステーションに駆けつけ、無事、ガンバン一家を引き渡すことができた。




