【第9話】旅立ち(5)
カリーンから出港したアルヴィース号は、依頼を受けていた未登録艦船の調査のため、カリーン星域A9ポイントに向かう。
その途中――。
「レーダーに感あり! 二時の方向、大型1、中型1、小型6! 大型は駆逐艦クラスと推定!」
「案の定来たな! みんな戦闘準備だ!」
「りょーかいでぇ~す! 動力をエレメントジェネレータからマナジェネレータに切り替えるよー!」
「火器官制、及び魔法管制システムオールグリーン。マギインターフェース展開」
俺の指示に従って、各員が自分の役割を果たし――あっという間に戦闘準備が整った。
「いつでもいけるよ、ジャック様ー!」
「ありがとう。とりあえず相手の対応待ちだ。おそらく接近したあと、通信が――」
「ご主人様! 相手から通信が届きました!」
「分かった。メインスクリーンに出して」
「はい!」
リリアの返事と同時にメインスクリーンに一人の男が映し出された。
『よぉ、ドレイクの三男坊。はじめましてだなぁ!』
「……おまえがガンバンか」
『カリーンの海を仕切っているガンバン・ドンバン様とは俺のことよ!』
「そうか。で、そのガンバンが俺に何の用だ?」
『うちの子分どもを可愛がってくれたようじゃねーか。そのお礼参りをしてやろうってなぁ!』
「そっちが先に突っかかってきたんだが」
『あん? 知るかボケぇ! てめぇみてぇなクソガキにやられたとあっちゃガンバン一家の名が廃るんだよぉ!』
歯茎を剥き出しにして威嚇するガンバンに冷笑を返す。
「はっ……田舎海賊の名に廃る価値があるのか疑問だ」
『なんだとぉ! てめぇ、甘い顔してりゃつけあがりやがって! たかがボート一隻でこのガンバン様とやりあおうってかぁ!?』
「たかが田舎海賊、ボート一隻で充分だ。汚い面ぁ見せてる暇があったら、さっさとかかってこいよ」
『てめぇ! ぶっ殺してやる!』
ガンバンは殺意を剥き出しにして吠えながら通信を切った。
「ご主人様! 敵がアルヴィース号を包囲するように動いてます!」
「了解。アルヴィース号、初の実戦だ。搭載したアレコレを色々と確認しよう。ソール、結界展開」
「りょーかいでぇ~す! 結界魔法展開ー!」
ソールがマギインターフェースに手を乗せて結界魔法を使用すると、アルヴィース号が球形の光に包まれた。
「マーニ、まずは先手を取らせる。その後、反撃するからそのつもりで居てくれ」
「ん。了解」
「リリアは敵艦の反応を逐次報告。あとガンカメラを起動して戦闘ログも取っておいてね」
「は、は、はいぃっ!」
初めての実戦で緊張しているのだろう。
リリアは声をひっくり返しながら頷いた。
「緊張しなくても大丈夫だよー。ソールとマーニがついてるからねー」
「ん。フォローは任せる」
「あぅぅ、ありがとうございます、ソールさん、マーニさん!」
(俺が付いてる、って言おうとしたのに先を越された……)
「ご主人様! 私、頑張ります!」
「あ、うん。一緒に頑張ろうな!」
「はいっ! あ! 敵艦のエネルギー反応増大してます!」
「了解。ソール、結界は?」
「もう展開してるよー」
「よし。それなら駆逐艦程度の光学兵器ぐらいは余裕で防ぐだろう」
「敵艦、発砲!」
緊迫したリリアの声と同時にブリッジがレーザー光によって明るく照らされた。
その光は瞬時にアルヴィース号に届き――だが目の前で結界に阻まれて八方に飛散した。
「被害は?」
「んー、被害ゼロー。強度も最高を維持してるよー」
「よし。結界魔法の展開は成功、防御も成功、と。自分で言うのもなんだけど魔導科学すげぇ」
「ん。頭おかしい」
「それ褒め言葉なの?」
「最大級の褒め言葉。で、次はどうする?」
「反撃しよう。ただ旗艦は残しておいて。あとで接収したい」
「あー、アルヴィース二号にするつもりなんだー」
「金を使わずに調達できるならそれに越したことはないだろ?」
今、搭乗しているこの小型宇宙船でも六百万クレジットもした。
駆逐艦クラスの戦闘艦艇になると数億クレジットは必要だ。
「元々、お金を稼いで艦を乗り換えていくつもりだったし、その機会が早まるのなら積極的に狙っていくべきだ」
「ん。効率が良くてマーニは賛成。なら取り巻きを先に潰す」
言いながら、マーニはマギインターフェースに片手を置いた。
「宇宙空間で使用するなら土か氷がベター。どうするジャック様」
「氷かなー」
「了解。『氷の槍』展開」
魔力を高めたマーニが行使した氷魔法に、手で触れていたマギインターフェースが反応を示すと同時に、アルヴィース号周辺に魔法陣が現れた。
「魔法陣展開確認。サイズは大で展開数は百ほどにしてみた」
「オーバーキル過ぎない?」
一つの魔法陣から一つの氷の槍が射出される。
つまり魔法陣が百あれば、百本の氷の槍が射出されることになる。
しかもサイズが大ということは、全長七メートルのアルヴィース号とほぼ同等のサイズだ。
そのサイズの質量が魔法によって超高速で射出されるのだから、運動エネルギーを考えればかなりの破壊力となるだろう。
「これはテスト。なら全力を尽くすべき」
「それもそうか。よし、照準は任せる」
「ん。魔法管制システムによる誘導を設定。ジャック様、指示を」
「撃て!」
俺の指示を受けてアルヴィース号周辺に現れていた魔法陣が反応を示し、現出していた氷の槍が敵に向かって射出された。
「マギインターフェース、魔法制御システムとリンク。誘導開始」
マーニの言葉と共に、射出された氷の槍が敵艦に向かって殺到する。
「うわぁ、すごい……氷の槍が艦を追いかけてる……」
モニターに映し出された氷の槍の誘導機動を見て、リリアが感嘆の声をあげていた。
「発動した魔法効果を魔法制御システムのAIによってコントロールする。良い感じにハマッてくれてるな」
効果を現した魔法を魔力で制御し、そのコントロールを術者ではなく第三者である魔法制御システムのAIにリンクさせて誘導や維持を行う――。
それこそがアルヴィース号の最強を支える柱の一つだ。
「ん。弾着誤差、タイムラグ共に許容範囲」
「よし。あとは氷の槍が相手のバリアフィールドを貫けるかどうか……」
モニターに映し出される戦場の情報を注視していると――。
「敵艦に着弾!」
すぐにリリアが着弾報告をあげた。
「戦果は?」
「ええと……大破6、中破1、駆逐艦は無傷のままです!」
「マーニやるぅ!」
「ブイ」
姉からの賞賛を受けてマーニはまんざらでもない様子を見せた。
「どうやら相手のバリアは反応しなかったみたいだな」
「ん。そもそもバリアフィールドは光学兵器用。ミサイルや氷の槍のような質量兵器にも多少の効果はあるけど、基本は装甲で防御するしかない」
「ミサイルなら対空機銃で誘爆させて撃ち落とすって手も使えるけど、ただの氷の塊を機銃だけで撃ち落とすのはちょっと厳しいしねー」
「よし。テスト結果は上々だ。マーニは無人になった艦の残骸を無限収納に回収しておいてくれ」
「ん。了解」
「さて、次は――」
取り巻きは潰せた。
あとは旗艦を追い詰めて根城に撤退させるだけだ。
「リリア、敵の動きは?」
「はい! ええと……あっ! 敵旗艦、反転してます!」
「取り巻きを一瞬でやられてびびっちゃったかなー?」
「恐らくな。不利を察してすぐに撤退の判断を下すなんてなかなかやるじゃないか、ガンバン・ドンバン」
「で、どうする? ジャック様」
「ある程度、距離が離れたところでステルス機能を最大にして追跡、かな。隠蔽魔法もテストしておきたい」
「了解。準備しておく」
そう言うとマーニは制御卓を操作し、次の行動の準備を始めた。
「リリア、レーダーから目を離さないでね」
「は、はい、頑張ります!」
「ソールはステルス航行の準備を」
「りょーかいでぇ~す!」
指示に従って動いてくれる仲間たちを見つめながら、俺は艦長席に腰を下ろし、隠蔽魔法を行使するためにマギインターフェースへ手を置いた。
「敵艦、後退していきます! 当艦との距離、三万!」
「五万になったらステルス機能最大」
「りょーかいでぇ~す!」
「マーニ、準備はいいか?」
「んー……ん。バッチリ」
「よし」
「敵艦との距離、五万になりました!」
「了解。隠蔽魔法を発動するぞ!」
「ほーい! ステルス機能最大! ポチッとな!」
「ステルス機能起動を確認。マギインターフェース、魔法管制システムとのリンク正常」
「隠蔽!」
隠蔽魔法を発動すると、マギインターフェースを通じて発動した魔法陣がアルヴィース号を包み込んだ。
「魔法効果発動を確認。現在本艦はレーダー波を無効化すると同時に存在隠蔽状態にあり。このまま敵を追尾する」
「報告ありがとうマーニ。ステルスも無事成功したな」
「だねー。これで転移、次元、結界、攻撃、隠蔽魔法はクリアーっと。あとテストしたほうがいい魔法ってあったっけー?」
「一通りは完了したかな?」
魔法使いが魔法を使用し、その魔法効果を艦に拡大して実行する――。
そのテストは無事完了したとみて良いだろう。
「じゃあこれで名実ともにアルヴィース号は最強ってことだねー♪」
「最強、ですかー。ふぁぁー……そんなにすごい船なんですね。アルヴィースちゃんはこんなにちっちゃいのに」
「それもあと少しで終了」
「あっ、そっかー。敵の駆逐艦を接収しちゃうから、アルヴィース号はお役御免になっちゃうねー」
「ええっ……まだ一緒に旅をして少ししか経ってないのに……」
「大丈夫だよ。この船もちゃんと使うつもりだし、駆逐艦が手に入ったら名前はアルヴィース号にするし」
「なら、一号ちゃんと二号ちゃんってことになるんですね」
「まぁそんな感じだね」
駆逐艦を接収したあとも改造するためには色んな資材が必要だし、改造の費用を稼ぐためにもまだまだこの艦には頑張って貰わないと。
「まずは目の前のことだ。ガンバンの根城を突き止めたら、一気に制圧に動くからそのつもりで居てくれ」
「はい!」
それから――。
ステルス状態でガンバンの旗艦を追尾していた俺たちは、やがてガンバンが根城にしているであろう廃棄ステーションを発見した。
「廃棄ステーションを根城にしてたってわけか……」
「今、データベースを調べた。あの廃棄ステーションはおよそ三百年前に廃棄された中継ステーションらしい」
「三百年っ!? すごい。そんなに前に捨てられちゃったものが、まだ動いているんですね……」
「改修はしてるだろうけどねー」
「でもデータベースに載っているのに、今まで見つかっていないってどういうことだ?」
ガンバン一家は多額の懸賞金を掛けられている海賊だ。
その懸賞金目当てに、傭兵たちがガンバンの根城を血眼になって探していると思っていたのだが――。
「それは簡単。今、マーニが見ているデータベースはギルドが秘匿している裏のデータベース。つまりあのステーションは隠蔽されている」
「はっ!? ギルドに裏のデータベースなんてあるのっ!?」
「ん。どうやらギルドも一枚岩では無さそう」
「おいおいマジか……」
「まっ、清廉潔白な組織なんて存在しないしねー」
「それは理解してるけど。まさかギルドが違法者と通じているとはなぁ」
「ええっ、そうなんですかっ!? もしかしてピカミィさんも?」
「いやー、あのお姉ちゃんは関係してないと思うよー?」
「一般職員が不正に携わっていたとしても、たかがしれている。マーニがアクセスしている秘匿データベースは、かなり厳重な攻性防壁によって守られていたから、恐らくギルドの上の方が関与してる」
「そんな厳重な防壁をさらっとハッキングするなよ」
「マーニに掛かれば余裕。ブイ」
「いや褒めてないからな? というか、ギルドに登録したばかりのペーペーGランクの傭兵が、ギルドの秘匿データベースをハッキングするってヤバすぎでしょうが」
「大丈夫。痕跡を残すようなヘマはしない」
「まぁそこは信頼してるけど。……あまり派手なことはしないでね」
「善処する」
全く善処する気の無さそうなマーニの返事に思わず溜息が出る。
「そんなことよりジャック様ー。根城を制圧するのは良いんだけど、ギルドにはどうやって言い訳するのー?」
「それなー。実は迷ってるんだよ」
ガンバンたちを制圧する。それは良い。
だが制圧するための法的根拠を得るためには、先行してギルドに報告してから制圧に乗り出さなければならない。
「ギルドに登録したばかりのGランク傭兵が、ガンバン一家の根城を発見して制圧する。それって無理があるよなー」
「無理しかない」
アルヴィース号の火力、そして俺やマーニ、ソールの力があれば、廃棄ステーションにいる海賊程度、百人居ても物の数ではない。
しかしそれを他人に信じさせようにも、俺たちには言えない秘密が多すぎるのだ。
「うーん……何か、俺が動いても仕方が無いと納得させることのできる理由があれば良いんだけど」
どうしようかと悩む俺に、
「あの……私が捕まってしまったから、というのはダメでしょうか?」
リリアがおずおずと口を開いた。
「んん? どういうこと?」
「私は奴隷で、ジャック様の所有物なので、あのステーションに私一人で潜入して、それで捕まってしまえば、ご主人様が戦う根拠になるんじゃないかなって」
「あー……なるほど」
ガンバンに拉致された所有物を取り戻すために戦闘を仕掛けた。
そうすればギルドに言い訳ができるのではないか。
と、リリアはそう言いたい訳だ。
だが――。
「俺はリリアを危険に晒したくないよ」
「あぅ、でもご主人様が困っているのなら、私は大丈夫ですから……!」
「ダメ。却下。否定。不採用」
「あぅぅ……」
リリアの案を頑なに拒絶する俺を見て、リリアは困った顔を浮かべた。
――と、その横でリリアの案を聞いていたマーニが口を開いた。
「ん。その手はあり」
「はぁ!? 何言ってんだ。無しに決まってる。なしなし!」
「もちろんマーニもリリアが本当に捕まるのは反対。だけどアイデアの本質は良いところを突いているとマーニは考える」
「本質? どういうことだ?」
マーニが何を言いたいのか今いち掴めず、中途半端に首を傾げた。
そんな俺の横で、ソールが得心がいったような面持ちで頷いていた。
「なるほどねー。つまり中に入っちゃうってことかー」
「お姉ちゃん正解」
「中……わざと捕まるってことかっ!?」
「ん。根城に近いこのタイミングで仕掛ければ、相手は反撃せざるを得ない。そのとき、わざと被弾したフリをして拿捕されればいい」
「でもその後で艦に乗り込まれたら面倒だぞ?」
「ガンバンの引き際を見れば、態度に反して慎重な性格なのが分かる。根城の近くで拿捕したならば、根城の中に曳航する可能性が高い」
「仲間たちと取り囲んだ方が安全だしねー」
「そう。囲まれた段階でジャック様とマーニたちで敵を撃退、制圧する。……これがベター」
「本当かよ……」
とは言うものの、マーニの案はいくつもの魅力があった。
アルヴィース号の実力の秘匿もその一つだ。
「色々と小細工は必要そうだが……その手で行くか」
「ん。交戦中にギルドに詳細を報告。あと曳航されている段階でもう一度報告して座標などを送信して助けを待つ。その間に根城を制圧して完了」
「そんなにうまく行くかねえ?」
「あははっ、結果を出しちゃえば何とでも言い訳できるよー!」
「お気楽だなぁ」
とは言え、ソールの言い分にも一理ある。
「ガンバンと一部のギルド職員が繋がっている証拠を押さえれば、無言の圧力にも使えるかな?」
「ん。その辺りの情報はマーニが調べておく」
「頼む。んじゃ、その方向でいきますか!」
「りょーかいでぇ~す! 被弾した工作はマーニに任せるよー?」
「ん。敵の攻撃が結界に着弾した瞬間、幻影魔法を使って火災が発生したように装う予定」
「ほーい!」
「リリアは戦闘中にギルドへ報告」
「わ、私がですかっ!? あぅぅ、うまくできるかなぁ……」
「大丈夫大丈夫ー。リリアならいけるってー」
「ん。マーニたちより純粋なリリアのほうが信憑性の高い報告ができる」
「そ、そうですか? ううっ、が、頑張ります!」
「よし。それじゃ各員の役割も決まったし……仕掛けますかね」
「りょーかいでぇ~す! ステルス機能カットー! ポチッとな!」
楽しげなソールの声に会わせて艦のステルス機能がカットされた。
その途端、レーダーに映った敵旗艦の動きが慌ただしくなる。
「あははっ、焦ってる焦ってるー♪」
「突然、姿を見せたのだから焦るのも当然」
「よし。マーニ、仕掛けて」
「ん。通常兵装で攻撃を開始する」
管制卓を操作したマーニによって、アルヴィース号に搭載された通常兵装が一斉に砲撃を始めた。
「通常兵装のほうもそれなりに改造してるから、出力には注意してくれ」
「把握している。相手のバリアを抜かないギリギリの出力で攻撃しているから安心する」
「ははっ、了解。全部マーニに任せるよ」
「任された」
冷静に答えたマーニに操作されて、アルヴィース号の砲口は敵の旗艦に集中した。
戦火が開かれた当初、敵旗艦は戦域から逃走しようとスピードを上げたのだが、こちらの火力が弱いと見るや艦首を反転させ、今では真っ正面からアルヴィース号へレーザーを浴びせてきていた。
「あははっ、予想通り食いついてきたねー。でも初戦で取り巻きをやられたこと、もう忘れてるのかなー?」
「そうかもしれないな」
魔法が廃れた今の時代を生きる一般人にとって、魔法によって起こされる現象は不可思議に映るだろう。
初戦、俺たちはアルヴィース号と魔法の力によって敵の取り巻きを瞬殺してみせた。
ガンバンにしてみれば何が起こったのか分からなかったことだろう。
だがアルヴィース号の攻撃を受けて考えが変わったはずだ。
先ほどの敗北は何かの間違いで、やっぱり小型宇宙船並みの火力しかないじゃないか、と。
「信じたいものが目の前に現れたとき、その答えに飛びついてしまうのは人の性だからな。気をつけていても案外、流されてしまうものだ」
偉そうなことを言っている俺だって、昔も今も大小様々にやらかして後悔することのほうが多い。
いくらチート能力があるからといって、俺は完璧な人間じゃない。
色んな間違い、色んな挫折を経験して、少しずつ賢くなっていく――それが人生ってやつなのかもしれない。
「ソール、そろそろ被弾するように艦を操作して」
「ほーい。よいしょー!」
かけ声と共に操縦桿を傾けて、ソールはアルヴィース号を敵艦の砲火の中へ突入させた。
途端、結界に阻まれたレーザーが飛散し、モニターを明滅させる。
「着弾したよー」
「ん。幻影魔法発動」
マギインターフェースに乗せた手に魔力を籠めて、マーニが幻影魔法を発動させた。
幻影魔法は本物と全く同じ幻を現出させる魔法だ。
「今更だけど、幻影魔法って人の目を誤魔化す魔法だろ? 光学カメラを誤魔化すことなんてできるのか?」
「熱や質量に魔力による代替情報を付与すれば可能。ただし普通は魔力が長時間保たないから厳しい。でもマギインターフェースを経由すれば――」
「そうか。マナジェネレータが生み出す魔力を使えるってことか」
マーニの採った方法に感心していると、衝撃と共に艦が揺れた。
「なんだっ!?」
「大丈夫大丈夫ー。敵から牽引索を打ち込まれただけだからー」
「そうか。じゃあこっちの思惑通り、拿捕してくれたってことだな」
「そうみたいです。敵は機首を反転してステーションに向かってます。どうやらアルヴィースちゃんをこのまま牽引していくつもりみたいですね」
「よし。作戦通りだな。あとは――」
敵の根城である廃棄ステーションに入港後は俺の出番だ。
「直接戦闘は俺とソールが担当するから、マーニはステーションのマスターAIをハッキングしてライフラインを掌握して」
「ん」
「リリアはマーニの傍に」
「そんな! わ、私だって魔法で戦えます! ご主人様と一緒に――」
「今はまだダメ」
「そんなぁ……」
耳をしょんぼりと垂れさせて項垂れるリリアに、
「リリアが魔法の訓練を頑張っているのは知ってる。だけど実戦は甘くないんだ。だから今はマーニを守ることに専念して欲しい」
なぜリリアを戦闘に参加させないかの理由を説明する。
「マーニさんを守る……」
「ああ。マーニにはハッキングに集中して貰いたい。その背中を守る盾が必要になる。それをリリアにお願いしたいんだ」
「……分かりました。マーニさんのことは私が絶対に守ります!」
「うん。頼りにしてるよ、リリア」
「はいっ!」
「――ステーションを肉眼で確認」
マーニの報告を受けてモニターを見上げる。
「見た目はただの古びたステーションだな」
「ん。でもその割にはエネルギー反応が高い。それに――」
マギインターフェースに手を乗せたマーニが探知魔法を使用すると、サブモニターにステーション内の生命反応が表示された。
「生命反応多数あり。数は四百ほど」
「四百! それは結構多いねー」
「大丈夫。鑑定すると八割は奴隷」
「となると、旗艦の乗組員を入れておよそ百人強が海賊ってことか」
「そうなる」
「百とちょっとかー。それならジャック様とソールで余裕だねー」
「よ、余裕なんですか?」
「よゆーよゆー。ジャック様もソールも最強だしねー♪」
「はぁ……すごいです、ご主人様もソールさんも……っ!」
「まぁ油断はしないで行こう。前衛は俺。ソールは後衛。攻撃魔法は無しで銃火器での援護を頼む」
「ほーい」
軽い口調で返事をしたソールが、管制席の下をごそごそと漁るといくつかの銃火器を取り出した。
「個人兵装も魔改造してるから取り扱いには注意してくれよ」
「大丈夫大丈夫ー」
「軽いなぁ。まっ、背中はソールに任せるよ」
「りょーかいでぇ~す!」