モーゼ
一人のエルフがゆっくりとバスに近づいてくる。
恐怖するエルフ達がその一人のエルフに道を譲っている。
その光景はまるで映画のモーゼのようであった。
恐怖とは違うけど何か力のようなものを感じる。
ただ者ではないのがわかる。
エルフの女性が画面越しにこちらを見てくる。
画面越しなのに引き込まれそうな瞳に心臓がドキドキするのがわかる。
バスの目の前にくると女性が口を開く。
決して大きな声ではないのにその声はしっかりと耳に届くのであった。
「村を救ってくれて、ありがとう。
恩人に対して申し訳ないのだが、村人と怖がるので良かったら顔を見せてくれんか?」
女性のエルフが喋った後に微笑む。
見た目は若いエルフの女性だが、口調はかなりの年寄りだ。
仕草や雰囲気で他のエルフとは違い過ぎるのがわかる。
「と、斗馬さん。
このエルフ怖いです。
こちらの索敵に引っかかりませんでした。」
葵さんがかなり慌てた声を出している。
「確かに雰囲気はあるけど怖くはないかな。何だろう神々しさを感じるかも。
絶対に悪い人ではないと思う。」
葵さんに素直な気持ちを伝える。
「自分の勘を信じるよ。」
俺はそう言うとシートベルトを外してバスから降りる準備をするのであった。