本名は名乗らない
名前を尋ねられて固まる親子。
お母さんの方は汗がダバダバで始める。
ここまで露骨に反応があると疑わない方がおかしと思う。
親子は少し離れたところで相談を始める。
「お母さん、どうする?」
「まだ手配はされてないと思うけど‥。」
「やっぱり本名はまずくない?」
「だよね!
嘘で良くない?
何かトロそうな男だし、大丈夫よ。」
おい!
聞こえてるぞ、その相談。
誰がトロそうだ!!
俺に聞こえているとは知らずにニコニコ顔で戻ってくる親子。
「母親のエリザベートです!」
「娘のアントワネットです!」
腰に手を当ててドヤ顔で名乗ってくる。
「ダウト!」
思わず素でツッコんでしまった。
「ダウトとは?」
親子が不思議そうにしている。
いかんいかん、ダウトが通じる訳ないよね。
「私の田舎での褒め言葉です!」
とりあえず誤魔化しておく。
「名乗ったので助けて下さい!」
あっ、まだ続けるんだ。
いいけど気が乗らないなぁ‥。
ダメ元で乗車許可を与えてみる。
親子にはバスに乗るように伝える。
2人は拳を握りしめる。
だから隠してやってよ!
あからさま過ぎる。
母親が満面の笑みでバスに乗ろうとするがブザー音と共に弾き出されてしまうのであった。