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子爵令嬢マルグリットの暗躍  作者: 玖保ひかる
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第5話 ジェイコブの心変わり

 ジェイコブとマルグリットが出会ったのは、王立学園である。


 王立学園には16歳から18歳の貴族の子女が通っているが、ジェイコブのように裕福な平民も学力さえ認められれば入学できる。


 学園のクラスは成績順に編成されていて、教育に金を掛けられる高位貴族は上位のクラスに集まっていた。


 ジェイコブが所属した最も下のクラスは、ほとんどが平民階級であったが、下位貴族の成績不良者が混ざっていた。


 下位貴族は平民と変わらない生活を送っている者もいたのに、プライドだけは高く、そういう者ほど貴族であることを振りかざしたり、平民を下に見たがったりした。



 一学年下に、マルグリットが入学してきたとき、ジェイコブは一目で恋に落ちてしまった。



「おい、ジェイコブ。やめておけよ。貴族のお嬢様がお前なんかと付き合うかよ」

「うるさい。わからないだろ?俺はどうしてもマルグリット嬢と付き合いたい!」



 友人に止められても、気持ちは止まらなかった。


 ジェイコブは何度もマルグリットの許へ行き、自分の気持ちを伝えた。



「マルグリット嬢、女神のように美しいあなたに私の心はとらわれてしまいました。どうか私と付き合ってください!」



 マルグリットはまんざらでもなさそうだったが、良い返事はなかなかもらえなかった。



「あなたのお言葉はわたくしの心に心地よく響いておりますわ。ただ、わたくしの一存ではお付き合いを決められませんの。ごめんあそばせ」



 ジェイコブはあきらめず、何度でも愛をささやいた。


 初めてマルグリットに自分の髪色のルビーを送った時、マルグリットは嬉しそうに受け取ると、すぐに身に着けてくれた。


 愛するマルグリットがほほ笑んでルビーを身に着けてくれ、天にも上る心地であった。


 マルグリットがお茶会やパーティーでジェイコブが贈ったアクセサリーを身に着け友人に自慢してくれるおかげで、下級貴族の顧客が増え、ガスター商会としても大変にありがたかった。


 しかし、ここのところは、プレゼントを贈っても大して喜んでくれなくなっていた。


 当り前のことになってしまっていた。


 先日も新作のラインナップのアクセサリー一式を贈ったが、マルグリットはにこりともせず、アクセサリーを一瞥して受け取った。



「今回のこれは、何の石なの?」

「ピンクトルマリンだよ。かわいらしいだろ?マルグリットに似合うと思って」

「そうね。わたくしに似合いそう。それで?母にはないのかしら」

「今回は新作のシリーズを一式用意したんだ。お義母様にはもう少し大人っぽいシリーズを後で贈るよ」

「そう。よろしくね」



 マルグリットのそんな態度にジェイコブは少し嫌気が差し始めていた。


 それに比べて、今日のアリステルはどうだ。


 露店で安物のリボンを買ってやったら、嬉しそうにはにかんでいたではないか。


 マルグリットとはタイプが違うが、アリステルも大変美しい娘だ。


 元貴族の令嬢で身寄りがないと聞いたが、同じ貴族でもマルグリットとはまったく違う。



(あのように優しく、控えめな令嬢がいるとは・・・)



 学園で知り合った令嬢は、みなマルグリットのようにお高く止まっているように見えた。


 そもそも平民を馬鹿にしているのか、声をかけても嫌な顔をされたり、無視をしたりされたものだ。



(アリステル嬢は違う。あんな女たちとは・・・)



 ジェイコブの心は、どうしようもなくアリステルに惹かれていた。


 アリステルに会ってから、美しいと思っていたマルグリットの顔さえ、高慢な嫌な女に見えてきている。


 そして監禁だ。


 ガスター商会のことを想えばマルグリットとの婚約は重要な局面であるが、一生を共にする伴侶として、本当にマルグリットでいいのか、ここにきて考え始めてしまった。



(マルグリットと別れて、アリステル嬢と婚約できないものかな・・・)



 アリステルなら、妹のリリーも懐き、気に入っている様子だった。


 きっと可愛がってくれることだろう。


 礼儀正しく、控えめな性格もいい。


 自分を立てて、ガスター商会を支えてくれるだろう。




 ジェイコブがそんな勝手な妄想をしているころ、マルグリットは自室にメイドのダリアを招き入れていた。



「首尾はどうかしら?」

「はい、お嬢様。明日、友人が会ってもいいと言ってくれました。落ち合う場所がちょっと込み入った所なので、明日はご一緒しましょうか?」

「そうね、付いて来てちょうだい」

「かしこまりました。では、明日に・・・」



 ダリアが部屋を出て行くと、マルグリットはアリステルをどう懲らしめようかと考えた。



(どうしてやろうかしら。顔に醜い傷をつけるか、貞操を奪うか。それとも奴隷商に売り飛ばすか。あんなちっぽけな娘、たいした金にもならないわね。やはり貞操を奪うのが一番かしら?)



 そう考えて、マルグリットは泣き叫ぶアリステルを思い浮かべ、満足げに笑った。




 翌日の夜になって、ガスター家からジェイコブの消息を尋ねる使いが来たと、マルグリットに知らせが入った。



「わかったわ。わたくしが対応します」



 マルグリットは玄関に姿を現し、ガスター家の使用人と面会した。



「こんな時間に何事ですの?」



 不愉快そうに尋ねれば、ガスター家の使用人は身を震わせて謝罪した。



「申し訳ございません。実は、ジェイコブ坊ちゃんが帰らず、ご家族が心配しております。もしかしたらこちらにお邪魔していないかと思い、参った次第です」

「ジェイが帰らないの?」

「左様にございます」

「それは心配ね。うちには来ていませんわ。昨日街で偶然お会いし、一緒にカフェに行きましたけれども、そこで別れましたの。どこかお友達の所へでも行っているのではなくて?」

「左様でございましたか。このような時間に大変失礼いたしました」

「いいのよ、気にしないで。もしジェイが来たら、ご家族が心配していると伝えるわ」

「ありがとうございます」



 ガスター家の使用人が帰ると、マルグリットはニヤリと笑った。



「また使いが来たら、ジェイコブはいないと答えなさい」

「ですが・・・」

「具合の悪いジェイコブを帰したら、ユーディコッツ家が毒でも盛ったのかと疑われてしまうわ。いいから、そうしなさい」

「・・・かしこまりました」



 その足でマルグリットはジェイコブのいる応接室へと向かった。

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