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子爵令嬢マルグリットの暗躍  作者: 玖保ひかる
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第2話 女の勘

 マルグリットはジェイコブの家に呼ばれて晩餐を共にするのが好きだった。


 なぜなら、自分の家より高級な食材を使って作られた食事が大変においしいからだ。


 しかもジェイコブの家族からは貴族のお嬢様と言うだけでチヤホヤとされ、気分がよかった。


 しかし、あまり嬉しそうにするとジェイコブが調子に乗るといけないので、気を付けて不機嫌に見せたり、言葉の端々に思い上がらないようにさせる言葉を交えたりしていた。


 そのような態度を取っても、ジェイコブは変わらずマルグリットを女神のように讃えるのであった。




 その日も晩餐会に招かれ、ガスター家を訪れた。


 馬車の中ではジェイコブに早く王都へ帰って来るよう甘えてお願いし、色よい返事をもらったが、もし晩餐の時話を切り出さないようなら、マルグリットが自分で話題に上げようと思っていた。



(ジェイコブはちょっと気弱だから、わたくしがしっかりしなくてはね)



 ジェイコブにエスコートされて馬車を降り、玄関に立つと、ガスター家の使用人がずらっと並び迎え出ていた。


 その人数はユーディコッツ家よりも多い。



(平民のくせに)



 マルグリットは民のことを下に見ていた。ジェイコブのことも。


 ただ、差別意識よりも資産に目がくらんだだけのことだ。



「お兄ちゃん、おかえりなさい!」

「リリー!ただいま。いい子にしてたか?」



 ジェイコブに妹のリリーが抱き着くのを、マルグリットは冷ややかな目で見つめた。


 リリーがジェイコブから離れ、今度はアリステルの手を取って紹介した。



「お兄ちゃん、紹介するね。アリス先生だよ!」



 リリーの少し後ろに控えたアリステルは、地味な装いをしていてもパッとめをひくような美人であった。


 どことなく品があり、美しくウェーブした金髪が輝いている。



(なに、この子は。先生って?)



「初めてお目にかかります。リリー様の家庭教師をしておりますアリステルと申します。どうぞよろしくお願い致します」



 そう言ってきれいな礼をする。


 マルグリットは本能的にアリステルを敵と認定した。


 それは女の勘、といったものだ。


 案の定、婚約者のジェイコブは顔を赤らめて、アリステルに見とれている。


 大変面白くない。



「いつまでここに立たせておく気かしら。わたくし疲れているのだけど」



 きつくそう言えば、家令がマルグリットを応接室に案内し、他の使用人たちは各自持ち場へ去って行った。


 ジェイコブはアリステルの背中をまだ見送っている。


 二人きりになっても、ジェイコブは上の空でマルグリットの話を聞いていない。


 仕舞いには結婚式に身に着ける宝石のことで喧嘩となり、もう帰るように言われてしまった。


 これまでマルグリットの意見がないがしろにされたことなどなかった。


 それが今日は少し勝手が違ったことも、マルグリットをイライラさせた。



(口答えをするなんて、許せないわ!)



 マルグリットは楽しみにしていた晩餐会も出る気がせず、ジェイコブの言うまま馬車に乗って帰宅した。



 ◆ ◆ ◆



 その翌日である。


 王都の街をぶらついて、気晴らしでもしようかと、護衛の騎士二人を引き連れて歩いていたのだが、赤い髪が視界にちらついてそちらをみれば、昨日喧嘩別れしたばかりの婚約者とその妹、そして家庭教師というあの娘が楽しそうに食べ歩きをしているではないか。


 マルグリットはグッと怒りを抑え込んで、三人を睨みつけた。



(本来であれば、わたくしに謝罪に来るべきなのではないかしら?こんなところで楽しそうにしているのはなぜなの?)



 マルグリットはあちらからの視界には入らないよう、すこし陰に隠れて様子をみることにした。


 ジェイコブが甲斐甲斐しく屋台から食べ物を買って来ては、二人に食べさせている姿に、また新たな怒りがわいてくる。


 マルグリット自身は外で買い食いなど、したいとも思わないが、自分の物である婚約者が他の女と食べ歩きデートをしているなど、絶対に許せない。


 見ているうちに三人は歩き出し、露店でお揃いのリボンのようなものを買っているようだ。


 これもまた、マルグリットは露店で売っているような安物のアクセサリーなど欲しくはない。


 しかし、ジェイコブが自分以外の女にアクセサリーをプレゼントするなんてことはあり得ない。


 マルグリットは、我慢ならず、三人の背後に忍び寄ると、声を掛けた。



「ずいぶん楽しそうにしていること」



 マルグリットの姿を確認するとジェイコブの顔色がみるみる青白くなっていく。



「マルグリット様、ごきげんよう」

「こんにちは!マルグリット様もお買い物ですか?」



 アリステルとリリーは礼儀正しく挨拶をしたが、マルグリットは冷たい視線を投げるだけで二人には挨拶も返さなかった。



「ずいぶん安っぽいリボンを付けていること。まぁ、あなた方にはお似合いよ」

「ひどい!これはお兄ちゃんがプレゼントしてくれたのよ!」



 憤慨したリリーが食って掛かっても、マルグリットは鼻で笑っただけで相手にしない。



「ジェイコブ。あなた、埋め合わせはすると仰ったわよね?連絡も寄越さず別の女を連れて歩いて、安っぽいプレゼントまで送って。どういうおつもり?」

「別の女って、妹だよ。もちろん埋め合わせはするさ。本当に昨日はすまなかった」



 マルグリットは、ふん、と鼻で笑った。



「すまなかった、ですって?本当にそう思っているのでしょうね?それなら、今からわたくしに付き合ってちょうだい」

「今から?妹たちを家に送り届けないと…」

「なんですって?」



 目を吊り上げるマルグリットを見て、アリステルが遠慮がちに声をかける。



「ジェイコブさん、わたくしたちは大丈夫ですから。どうぞマルグリット様とご一緒なさってください」

「いや、しかし」

「馬車で帰るだけですもの。大丈夫ですわ」



 それでも迷っているジェイコブに、マルグリットはびしりと扇子を突き付ける。



「その女とわたくしと、どちらを優先しますの?わたくしという者がありながら、他の女を優先するようなことがあれば、あなたの不貞で婚約を破棄いたしますわ」

「・・・もちろん、あなたより優先するものなどありませんよ、マルグリット」



 ジェイコブはこうなっては仕方なく、マルグリットに付き合うことにした。



「当り前ですわね。では、行きましょう」



 マルグリットは、ジェイコブを伴ってその場を離れた。

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