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モノガタリはアイドルにお任せ!  作者: 美山幻夢
第一部 アイドル始動
7/50

【第六話 不意打ちの誘惑】


 シャイニングが始動したあの会議室での契約から、もうすぐ半年が経とうとしている。

 この半年間は本当にあっという間に過ぎていった。


 会議室の二日後には、一日の休日を挟んで、この都内の合宿所に来て、ずっと泊り込みでレッスンと営業の繰り返しの日々だ。

 ここはゼノンが所有しているビルで、宿泊施設からリラクゼーション施設からトレーニング施設から撮影スタジオからレコーディング施設まで完備した完璧なビルだ。

 トゥインクルもデビュー前はここで合宿してたと言うので、それだけでもゼノンという会社の本気度が伺えた。

 この施設の維持費だけでも莫大な費用が掛かっていると思うと、「売れなきゃ!」て気持ちが溢れてくる。


 他の芸能事務所、テレビ局、雑誌編集社、配信を扱う会社、映画館、劇場と挨拶回りをして行くのが営業だったけど、これがまた大変だった。

 終始ニコニコ笑顔を絶やさないようにしてなくてはならないし、余計な言動を避けなければならない。

 グループ名と顔は公表するけど、年齢とかメンバーの個人情報はまだ開示してはならないらしい。

 デビューの日は決まっていて、何かその日に一度に公開するみたい。


 それ以外の時間は朝から夕方まで、ほぼレッスンに充てられていた。

 ダンスや歌は勿論、ボイストレーニングや筋トレまであった。

 演技指導や漫才指導までやるとは思わなかったけど、日々上達していくのが実感出来て楽しかった。

 一番褒められたのが漫才のツッコミというのが、嬉しいんだか嬉しくないんだか……。


 この半年間で最も楽しい時間と言えるのが、夕飯からの各自の自由時間。外出は出来ないけど、メンバーとの交流で、どんどん仲良くなっていってた。

 お昼は営業に出てたら外食。レッスン日なら出前かお弁当。それ以外の食事は何と自炊だった。

 自分達でルールを決めて、二人一組で当番を決めて、その日の夕飯と翌日の朝食を作る。

 買い出しまで自分達でと、至れり尽くせりだ。食材の買い出しの外出は許可が出ていたので、買い出しは当番の人が徒歩数分の近くのスーパーまで歩いて行く。

 少ないけど、お給料はもう出ていたけれど、買い出し用の会社名義のクレジットカードが与えられてたので、支払いは全てそれでやっていた。


 今日の当番は私と花梨さんなので、レッスン後に二人で買い出しに来ていた。

 配布されたスケジュールではレッスンも今日でお終いで、明日にはデビューの予定なんだけど、この時間になっても講師の人もマネージャーの人も何も連絡が無い。

 何か打ち上げみたいな事をするのかと思ったけど、いつもと変わらない日々を過ごしているみたいなので、不思議に思っている。

 何かお祝い的な事はしないのかな?


「美優ちゃん? 今日の献立何かある?」


 だいぶ打ち解けて、皆んなとも下の名前で呼び合っている。


「えー。何も浮かばない。どうしよう? だって明日がデビュー予定日でしょう? 何かお祝い的な事しなくていいのかなぁ?」

「日程がズレてるんじゃない? 良くある事でしょ? 流石にデビュー日をサプライズしないと思うけどね。さて、明日の朝食は〝美優定食〟でいいとして。今夜は美優シチューにしよっか!」


 デビュー日がズレてる……か。

 そっか、そうだよね。にしても、私の朝の定番メニューが〝美優定食〟として定着したのは割と早かったけど、美優シチューて何だ?


「何のシチュー?」

「サラミとほうれん草のシチュー!」


 あぁ、あれか。かなり好評だったので何度か振る舞ったけど、それにも名前が付けられてたのは知らなかった。

 何年か前にシチューを作ろうと思って、具になる食材がサラミとほうれん草しかなかったから試しに入れてみたら美味しかったので、伊吹家のシチューでは定番になっていた。


「おっけ。そうしよっか」


 買い物も終えて合宿所に帰り、夕飯の支度をしているのは私と花梨さん。他のメンバーは各々の時間を過ごしている。


 思い返せば、この半年間は本当に楽しかった。皆んなでシャイニングというグループを作り上げるという思いが、ますます絆を深くしていると実感出来ている。


 かけがえのない仲間だ。


「私が私が!」と個人プレーに走る気持ちは一切無い。皆んなで駆け上がって行くんだ。


 ふと気になる事があったので、どうしわうか迷ってたけど、思い切って花梨さんに聞いてみようかな。


「ねえ花梨さん。この合宿の意味ってさ、私達の結束を高めるのが一番の目的なのかな?」

「えぇっ? どうだろう。まぁ、お互いをよく知るには一緒に生活するのが一番効率が良いって言うけど、そんな感じかな?」


 ピューラーで人参の皮むきをしているエプロン姿の花梨さんは、ちょっとおどけながら優しく答えてくれる。


「そっか……そうだね。誰かと一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝るのって子供の頃以来だったから、最初は恥ずかしかったけど、慣れちゃったもんね!」

「私は、まだ……かな。もっと美優ちゃんを知りたいな……」

「ええ? もう、裸の付き合いまでしてるのに? もう全部さらけ出しちゃってるよ!」


 自分で言って自分で照れてしまった。〝裸の付き合い〟というフレーズが頭の中で反響していた。

 そろそろ限界が来てるらしい。私のムラムラが……。

 合宿所に戻って来て、花梨さんと共に夕飯の用意をしてる時にでも、さっきの思考は私の頭から離れてくれなかった。


 思った通り、この半年間、日課のオナニーが全く出来てないのよ。

 六人同じ部屋で寝てるんだもの。お風呂は広くはないので二、三人で入ってるけど、一人にはなれない。

 オナニーを覚えた日から、毎日とは言わないまでも、三日と開けた事はない位にオナニー三昧だったので、この半年間の禁欲生活は、覚悟はしてたけど、思った以上に私には過酷すぎた。

 明日デビューして、その後は家に帰れるみたいなので、帰ったらオナニーしまくろう。

 ロッキーを起こさないようにね。

 ロッキーは気にするなと言ってたけど、私が気にするのよ! そんな事を考えながらサラダに使うキュウリを切っていところに……。


「裸と言えば……美優ちゃんの裸は凄く綺麗だよね」

「ひゃん――」


 不意打ちもいいとこだ。

 人間、思いもしない事態に遭遇すると何も反応出来ないんだね。料理する時は髪の毛は後ろに一本に括っていて、うなじはガラ空き。

 花梨さんは、そう言いながら私のうなじに唇を当てながら、後ろから優しくふんわりと絡み付いて来たのだ。


 え――えぇ! 何が起こってるのぉ!


 半年間の禁欲生活を過ごした私には、この不意打ちは刺激が強すぎる!


「どうしたの美優ちゃん……どうして抵抗しないの?」

「えっ、だって……」


 キュウリ切ってる途中だし包丁持ってるし危ないし不覚にも感じて……って。

 すみません、興奮して来ました!


 花梨さんの指が私の身体をゆっくりと撫でる。花梨さんの唇が私の耳からうなじまでソフトに伝う……。


 ひぃあぁぁぁあっ――!


「美優ちゃん、感じてるの? ふふっ……可愛い」


 どうしよう。どうリアクションすればいいのか頭が働かない!

 どうして突然……花梨さんて、そういう人? 


 あ、あの。私こういうの初めてで慣れてないけど……そのっ、宜しくお願いします――って違あぁうっ!


「うふっ……冗談よ? 美優ちゃん、本気で感じてるのが余計に可愛いかったよ?」


 そう言ってウインクしながら、サラダを盛り付けるお皿を並べる花梨さんを呆然と見てるしか出来なかった。


 はぁっ……はぁっ……。


 呼吸を整えるのが大変だ。今のは何だったの! 私、からかわれたのかな? 神様、教えて! この際、ロッキーでもいいから。この一連の流れの正体を私に教えて下さい!

 でも、こんな興奮したの久しぶりだぁ! すごい動揺してるけど、どこか期待してる私が居るのも事実です!


 あぁ……私、今夜眠れないかも。


「美優ちゃん、そのキュウリもう食べれないよ?」


 ハッとして手元のキュウリを見ると、私の手で握りつぶされていた……。


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