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モノガタリはアイドルにお任せ!  作者: 美山幻夢
第二部 ライバル?バトル・アイドル!
25/50

【第二三話 静かな宣戦布告】


「美優ちゃん、待ってよぉ!」


「まどか、早く! ドアが閉まっちゃう!」


 ホームには発車を告げるベルが鳴り響いていて、ドアが閉まります——と、アナウンスも始まっている。


「ふぅ……間に合ったぁ!」


 まどかが乗り込んで直ぐにドアは閉まった。


「何してたのよ! 遅いから心配しちゃったじゃない」

「ごめーん。どうしてもこれが欲しくって」


 まどかが手に持って見せてるのは、味噌カツ丼を(かたど)ったキーホルダーだった。


「そこの売店に無くってさ。お店の人がホームの反対側の売店ならあるかもって言うから」


 子供かよ。こんなキーホルダーに夢中になるなんて。


「それで乗り過ごしたら意味ないじゃん! ったくもう」


 大阪での仕事を終えて、東京へ帰る新幹線。

 名古屋駅で五分間の停車時間でさえも賑やかにしてくれるまどか。やれやれだよ。


「えへへぇ。可愛いぃ!」


 座席に戻って、買ってきたキーホルダーを眺めて幸せそうだ。その姿はとても超資産家のお嬢様とは思えない。

 そしてキーホルダーはキャラ物じゃなくて、何故か味噌カツ丼という。可愛いか?

 でもその味噌カツ丼を可愛いと言って眺めるまどかは別格に可愛い。


 ギューしちゃお!


「ちょ、美優ちゃん! 公衆の面前だよ?」

「いいじゃん! まどかが可愛いのがいけないんだから」

「いやん、もおっ」


 私達には日常的な〝じゃれ合い〟である。

 通路を挟んで隣に座っているマネージャーの田口さんも慣れたもので、興味無さそうに持参してるノートパソコンに向かってカタカタと仕事をしている。


 いつもご苦労様です。


 でも新幹線の客車内の他の人達はそうは思ってないらしかった。当たり前よね。


「ちょっと、あなた達うるさいわよ。静かにしてくれない?」


 前の座席は空席だったはずだけど、名古屋駅で乗車されたんだろうか。

 女性の声がして、慌てて身体を離して縮こまる。


「怒られちゃったね」

「まどかが悪いんだからね?」

「えぇ⁉︎ 何で私? 美優ちゃんが急に抱きつくから」

「大人しくされるがままに抱かれてればいいのだぁ!」

「やぁん。やだぁ!」


「ちょっとマネージャー! 席替えてもらえない? 仮眠しようにもこれじゃうるさくて出来ないじゃない!」

「すみません。グリーン席なので簡単に移動とかは……」


 前の座席には男の人も居たのか。マネージャーって事はこの女性は女優さんかな?

 仮眠するのか。悪い事しちゃったな。楽しくはしゃぎ過ぎたみたい。


「あの、ごめんなさい。ちょっと、はしゃぎ過ぎてしまいました。すみません」


 通路側に身を乗り出して前の座席に声を掛ける。窓側に女性が座っているようで、男のマネージャーさんの肩越しに謝ってみる。


「あ、分かってもらえれば大丈夫なので」


 顔は見せずに声だけが返ってくる。


「反省するなら一回目の注意で静かにしてほしいわ。まるで聞き分けの無い子供ね」


 窓側の女性からは更に厳しい一言がきた。

 ううぅ……正論すぎて、反論出来ない。


「すみませんでした」


 これには私もシュンっと、小さくなるしかない。


「どうしたんです? 他の乗客の方に迷惑でもかけましたか?」


 田口さんがが今更になって心配そうに聞いてきたけど、見て聞いて知ってるようなら私を止めてくれよ。


「田口さんの言う通りですよ。迷惑かけました」


「田口? 田口さんじゃないですか⁉︎」


 前の座席に座っている男のマネージャーさんが振り返って田口さんを見て驚いていた。


「なんだ、坂口さんでしたか。ご無沙汰です」


 田口さんの口調は変わる事なく静かだった。この人は慌てる事が無く、いつも冷静なのよね。


「なぁに? マネージャーの知り合い?」

「同じゼノンのマネジメント部の先輩ですよ、麗葉(れいは)。久しぶりに会うんです」

「ふぅん……」


 窓側の女性は麗葉と呼ばれていた。麗葉? はて? どこかで聞いた事あるような。


「田口さんが居るという事は、こちらの方はもしかして……」


 前の座席から身を乗り出して後ろを振り返る、坂口さんと呼ばれた男のマネージャーさんと目が合う。


「どうも……」


 バツが悪くて、小さく頷くしか出来なかった。


「あぁ。伊吹美優さんだ。シャイニングの方だったんですね」


「まどかも居ますよー!」


 私の肩に頭を乗せてピースして自己アピールを忘れないまどかも凄いわ。


「舞沢まどかさんですね? 初めまして。ゼノンの坂口です」

「知っててくれてるんですね?」

「当たり前じゃないですか。自分の会社の所属タレントを知らない社員なんて居ませんよ」


 社員だから……か。そうよね。初のライブを終えて一年。デビューして一年半が経っても、私達シャイニングの知名度は、まだまだメジャーなものでは無い。

 特に変装なんてしなくても、こうして普通に新幹線に乗れてるんだもの。

 もっともっと頑張らないと、トゥインクル越えなんて出来ない。


「坂口さんは今はどなたのマネジメントをしてるんです?」


 田口さんの鋭い切り込みが入る。横の女優さんが誰だか分かるかも!


「私よ。へぇ……これがシャイニングなのね」


 前の座席から頭だけ出して女性がこちらを見ていた。ニット帽にマスク。

 本当に仮眠するつもりだったのか、アイマスクを額にずらして目だけを出していた。

 でもその目が凄く綺麗で、それだけでも物凄い美人なのが一瞬で理解出来る。


「え、ウソ! 麗葉さんじゃん!」


 まどかがビックリしている。麗葉さんって、私の知ってる麗葉ってトゥインクルの木田麗葉しか居ないけど、まさかのその本人? よく目だけで判るね。


「わあっ嬉しい! 麗葉さんと同じ新幹線に乗ってたなんて幸せですぅ」


 同じゼノンなのに、他のタレントさんと会う機会は、この一年殆ど無かった。

 シャイニングの活動として事務所に寄る事もなく、常に外で営業活動をしていたのもある。

 関東近辺での仕事が多かったけど、たまに地方へ行く事もあり、今日なんかは大阪のローカル放送のテレビに、まどかと二人で収録をしてきたのだ。


 テレビ出演は初めてじゃないけど、歌う事以外での仕事は緊張感が全然違って楽しかった。

 木田麗葉と言えば、トゥインクルのリーダーで、写真集の販売数が日本記録を出す程の超人気アイドルだ。

 そんな雲の上の人が今、新幹線で一緒だったとは。


「活動が四年限定のアイドルなんて、アイデアは面白いと思うけど、やる方は気が気でないわよね? よくやってるわね……ともあれ、ゼノンのアイドルの後輩に変わりはないから宜しくね?」


「は、はい! ありがとうございます!」


 まどかは屈託なく笑顔で返してるけど、なんかチクリと刺さるのは気のせいかなぁ?


「シャイニングのリーダーの伊吹美優です。騒がしくしてしまって、ごめんなさい」


「可愛い後輩が新幹線で子供のようにはしゃいでたんだもの。四年しか無いから売れるのに必死で周りが見えないので仕方ないわ。私にとって疲れを取るのに移動の仮眠は大切なの。東京に着くまで静かにしてもらえると助かるんだけど」


「はい! すみませんでした。忙しくて疲れてるのに、ありがとうございます。美優ちゃん、麗葉さんの邪魔しないように静かにしてようね?」

「う、うん」


 何だろう。確かに騒がしくしてたから、不愉快な気持ちにさせてしまったのは悪いと思う。

 けれどもそれとは別に、言葉の節に敵意みたいなものを感じるのは何故だろう。


「坂口さんも、お話するならあちらに行ってもらえるかしら? 隣は空いてるようだし」

「あ、すみません。東京に着く前に起こしますね?」

「お願いね」


 麗葉さんは、田口さんと話をしてた坂口さんを追い出す程に不機嫌なんだろうか。

 座席に深く座り直したようで、静かになってしまう。


「私達もお喋り止めようね」


 まどかは口に人差し指を当てて、シーってしてから味噌カツ丼のキーホルダーに見入り出す。

 田口さんと坂口さんは何やら仕事の話をしているようだけど、小声で話してるので聞き取れない。

 まあ、いいや。私も少し寝ようかな。


『麗葉も大人げ無いですね。あんな言い方しなくても良かったのでは? 敵対心丸出しでしたよ?』


「うるさいわね。出ちゃったものはしょうがないじゃない」


『まぁ、気持ちは解らなくもないですけどね』


 え、麗葉さん? 誰と話してるんだろう。


「解ってるなら黙ってて。寝るから、おやすみ」


『珍しく感情的だこと。そこまで麗葉を(おびや)かす相手かしらね?』


 そこで会話は途切れて聞こえなくなってしまう。麗葉さんは本当に寝てしまったようだ。

 毎日のように仕事に追われて大変なんだろうな。

 私の目標である、トゥインクルを越えるという事は、この木田麗葉に勝つという事か。


 何て高い山なんだろうか。高すぎる!


 今のままではダメだ。もっともっと頑張らなきゃだね! 残り二年半しかないんだから!


 そんな風に考えながら、いつの間にか意識は遠のいてしまっていた。


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