第1話:アドリアンとオリーヴ
ξ˚⊿˚)ξ <短期集中連載、2、3日で完結させます。文字数は一万字ちょいの予定。(完結しました。16000字)
注:男装・女装あり。苦手な人はブラバすること。
桜の姫と呼ばれる令息と、黄金の王子と呼ばれる令嬢の物語。
――それは、彼らが7歳の時のこと。
オリヴィエはアドリエンヌを見た時、こんな可愛いものが世の中に存在するのかと思い、思わず神に感謝した。
ふわりとしたストロベリーブロンドの髪、柔らかそうな唇、桜色に染まる頬、長いまつ毛にぱちりと丸く開かれた目、瞳は赤みがかった灰色。
アドリエンヌはオリヴィエを見た時、こんな凛々しいものが世の中に存在するのかと思い、思わず神に感謝した。
少し毛先の跳ねた金色を帯びた栗色の髪、強者の余裕を感じる弧を描く口元、磁器のように透明感のある頬、意志の強さを感じる視線、瞳は高貴さを象徴するような紫。
「「……神よ」」
近隣であり家格も近い貴族家の政略結婚。まだ幼い頃から親しくさせておこうという両家の思惑は親たちの期待を遥かに超えて上手く行った。
ただ一つ、本人たちがこの時はまだ理解していない事がある。
アドリエンヌの本名はアドリアン・シャンパルティエ。彼はシャンパルティエ伯爵家の男児である。
オリヴィエの本名はオリーヴ・ティエール。彼女はティエール伯爵家の女児である。
彼等はどちらも同性の素晴らしい友を得たと勘違いし、親交を深めていた。
だが10になった時にそれぞれの親から婚約者にどうかと尋ねられて驚愕した。
「アドリエンヌ!君は男の子だったのかい!?」
「オリヴィエ!君は女の子なの!?」
シャンパルティエ伯爵家において長女と次女が産まれた後、待望の後継となる男児は流行り病で天に召されてしまった。
両親も幼子を弔ってすぐに心労も祟ったか病を患い、快癒して後に産まれた男児をアドリアンと名付け大切に育てた。
東方の賢人曰く、幼い頃は男児の方が免疫力が低いという。ただ、この国では疫学がそこまで発展しておらず、幼き男児の命のみを狙う悪魔がいると考えられているのだ。
故に特に貴族や裕福な市民の間で幼い男児を女児と偽って育てるのはこの国で一般的な風習であった。
だが普通はせいぜい5歳程度までの話である。なぜアドリアンが女の姿を続けていたのか。
アドリアンが可愛すぎたというのが家族の言である。
王都で多忙であった父はともかくとして、領地の屋敷で母と、少し歳の離れた2人の姉は仲良くアドリアンを着飾らせ続けた。
姉妹のお下がりを着せ、お揃いのドレスを拵え……男性名のアドリアンではなく女性名のアドリエンヌと呼び続けた。
シャンパルティエ伯爵家の三姉妹は長女は薔薇の君、次女は百合の麗人、そしてまだ社交界に出ていない三女も桜の姫と喩えられ有名である。
「ふふ、三姉妹じゃなくて一男二女なのですけど」
一方のティエール伯爵家においては長男と次男に引き続き、女児が産まれた。
ティエール伯爵家は奥方が産褥熱の後に流行り病で儚くなり、男たちの手により育てられることとなる。同家は武門の家系であり、家族以外にも多くの騎士や兵士たちに囲まれたオリーヴは男児同然に育てられた。
戦もあって伯爵がこの状態に介入しづらかったのも災いした。またこの時期、疫病のせいもあり女家庭教師を雇うのも難しい状況でもあったのも影響しているだろう。これではいけないと家令より進言を受け、女性的な趣味を学ばせようとしたが遅きに失したとも言える。
その中にあって観劇は強い興味を示す。だが、オリーヴがそこから学んだのは王子役の振る舞いであった。オリーヴに仕える侍女や使用人から女性名のオリーヴではなく男性名のオリヴィエと呼ばれるようになり、定着していった。
ティエール伯爵家の三兄弟は長男は赤銅の貴公子、次男は白銀の騎士、そしてまだ社交界に出ていない三男も黄金の王子と喩えられ有名である。
「ふふん、三兄弟ではなく二男一女なのだがね」
――可憐すぎる少年と凛々しすぎる少女は多くの騒動を巻き起こすことになる。これはその騒動のひとつ、彼らが学園に通う15歳の時の物語である。