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2 ○○したら死ぬ

「よし、じゃあ、調べてきた資料を提出してくれ。口頭で発表するのでもいいぞ」

全員そろった所で、部長が部屋全体を見回しながら、会議の開始を宣言するように言った。

そんなもの何処吹く風で、斉藤先輩は本を読み続けている。


「おい!!斉藤!!お前いい加減に―――」

当然の事ながら、部長の怒りが爆発する。


「まぁまぁ、おい、斉藤?部活始まったぞ」


「……え?あ、そうだったんだ」

斉藤先輩は、坂本副部長に軽く肩を揺すられ、ようやく本の世界から帰ってきた。


「そうだったってお前―――」

「じゃあ俺から発表しよう」


部長を遮るように、坂本先輩が発表を始めた。

長年の付き合いなのか、そのあしらい方に、慣れたものを感じる。


「みんなも調べていて思ったと思うが、都市伝説というのは、怖い話と大半が被っている」

やはり私たちの会話は聞こえていたのだろうか。

隣りで香織も、気まずそうな顔をしている。


「それは何故か。何故だと思う?香織さん」


「え、わ、私ですか??うーん、そうだなあ。うーん…………ちょっと分かりません。あ、でも、都市伝説っていう割りに、結構田舎の話もあるなぁと思いました」

急に話を振られててんぱったのか、質問されたのとは明らかに違う答えを返す香織。

私に聞かれなくてよかった。今のタイミングで聞かれると、私も上手く答えていた自信がない。


そのとんちんかんな香織の発言を聞いて、部長がこれ見よがしに咳払いをして言った。

「香織君。君は本当に調べて来たのか!?」


「えー、ちゃんと調べてきましたよー!!」


「ならそんな馬鹿な発言はしないはずなんだがな!!」

今日の部長は、いつも以上にイライラしているようだ。


「なんですかそれー!!大体私は昨日部活で疲れてたんですよー。調べて来た事に感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無いと思うんですけど!!」

香織は、ほぼ毎日この部活に顔を出している。出しているから、時々忘れそうになるのだが、香織はテニス部にも入っているのだ。


「それは言い訳にならないと、入部する時に言っただろう!!君はこちらの部活もおろそかにしないと約束したじゃないか!!」


「はいはいすみませんでしたー」


「お前先輩に向かって―――」

「まあまあ!!あのね、香織さん、都市で発生するうわさだから、都市伝説という訳ではないんだよ」

部長を押さえ込みながら、坂本先輩は言う。

急に話を振った事を、少なからず申し訳なく思っているようだ。

というか、そうだったのか。昨日一応調べて来たつもりだったけど、そんな事は知らなかった。


「えーと、僕もあまり詳しくは覚えてないんだけど、「都市伝説」の「都市」は、場所を指すんじゃなくて、「都市化した」っていう意味なんだよ」


「へぇ、そうなの」

どうやら斉藤先輩も知らなかったらしい。


斉藤、お前もか。と呟きながら、部長が坂本先輩の言葉を引き継ぐ。

「そもそも、「都市伝説」という言葉自体、出来たのは最近なんだ。えーと、何とかいう人が書いた本、なんだったかな……」


何とか言う人が書いた本って、結局何も分からないのと同じじゃないの。

見栄を張りたいらしく、作者名を思い出そうとしている部長。正直、そんなのどうでもいいんだけどなぁ。

失礼だとは思うけど、坂本先輩の話の続きの方が聞きたい。


「エドガード・モランの「オルレアンのうわさ」だ」

低い声で、短くそう言ったのは、霊斗先輩だった。おそらく、今日この部室に来てから、初めて喋ったんじゃないだろうか。

霊斗先輩は、無口だけど、適当な事は一切言わないから、少なくとも部長よりは、私の中で好印象だ。といっても、斉藤先輩と同じで、まだほとんど話した事はないのだけれど。


「そう、その作品の中で、始めて出てきた言葉なんだよ」

霊斗先輩の援護を受けて、ようやく言い切った部長。

……いかにも凄いだろ俺、みたいな顔してるけど、部長は全然凄くない。それに、今の話の流れでいくと絶対必要な情報を、まだ言っていない。ま、私は怖くて指摘できないのだけれど。


「ねぇ、それでその本は、いつ発売されたの?」

どうやら、私と同じ疑問を、斉藤先輩も抱いていてくれたらしい。

そうなのだ、まさしくそこが分からないと意味が無い。

予想通り、というべきか、部長はえーと、と考え込んでしまった。


「1969年だ。原題は「La Rumeur d'Orle'ans」だった筈だ」

またしても霊斗先輩が助け舟を出す。

それにしても、何でこの人はこんな事を覚えているんだろう。


「そういう事だ」

自信満々に言う部長。それに対して、私、香織、斉藤先輩の女性陣は冷めた視線を送った。




「話がすっかりそれてしまったけど、僕が調べて来たのは、その割と最近出来た都市伝説の中でもさらに新しい、「ネットロア」についてだよ」


「ネットロア………ですか?」

またしても私の知らない単語だった。昨日調べて来たのは、本当に上辺だけだったんだなぁ……と、少し反省する。

ふと横を見ると、香織が「バカ」と口パクで言ってきた。

何でそんな事言われるんだろう。まさか香織は知っていたんだろうか。


……………あ。しまった。そういう事か。今度は私が部長に責められてしまう。


「ネットロアというのはね―――」

部長が何か言おうとするが、それよりも早く、坂本先輩が説明を始める。

ありがとうございます、坂本先輩。

「―――ネット上で広まった都市伝説の事だよ。最近は、インターネットが普及してきただろ?だから、従来以上の速度と規模で都市伝説が広まるようになったんだ」


「現代版都市伝説って事ですかー?」

香織が質問する。


「うーん、さっきの話で有ったように、都市伝説という言葉自体そんなに歴史が古くないから、厳密に言うと語弊があるけど、まあそういう事だよ」


「それで、具体的にはどんな事を調べて来たの?」

斉藤先輩が先を促す。


「【見たら呪われるホームページ】だよ」


「え!!見たんですか!?」

香織が大げさに驚く。もちろん私も驚いたが、香織の方が反応が早かった。


「いや、残念ながら見つける事はできなかった。というか、本当にあるかどうかも分からないんだ」


「……見たら呪われる画像とかは聞いた事があるが、サイトとは初耳だな」

少し意外だが、部長も聞いた事がなかったらしい。


「実は、前から都市伝説には興味があったから、ちょくちょく調べてたんだ。呪いの画像は一通り見たよ。むしろ僕としては、今まで堂間が都市伝説に興味を示さなかった事の方が意外だったけどな」


「………そんな画像を見て大丈夫なの?」

斉藤先輩が、心配そうに言う。


「もちろんだよ。見たら死ぬ画像なんてもし本当にあったら、世界中に死亡者が溢れてしまうよ」


「んー、まぁ、それもそうね」

斉藤先輩は、完全に納得した訳では無さそうだが、そこで引き下がった。


「何々したら死ぬ、という都市伝説で一番有名なのは、おそらく【ムラサキノカガミ】だね」


「あ、それ私も知ってる。20歳まで覚えてたら死ぬんだよね」

香織が反応する。もちろん私も知っていた。


「そう、それだよ。僕は試しに二十歳まで覚えていてみようと思ってるんだけど。困ったことに、もし僕が二十歳で死んだとしても、それが原因で死んだ事は証明できないんだよね」



少しだけ気まずい空気になった。

直接的な生きる死ぬという話は、こんな部に入っていても、少々重いらしい。



「………よし、次は香織君、君が報告してくれ」

重い空気を破ったのは、堂間部長だった。

私は、少しだけ、ほんの少しだけ、部長の事を見直した。



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