1 ホラーサークル開始前
この話は、作り話です。
だから、絶対に信じないで下さい。
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私は、少し憂鬱な気分を抱えたまま、部室のドアをがらりと開いた。
「遅いぞ!!片桐君!!」
ドアを開けた私を待ち受けていたのは、部長の怒声だった。
仕方ないじゃない。
日直だったんだから。
すでに沈み気味だった気分は、堂間部長のその一言で、さらに沈んだ。
しかし私は、そんな気分を悟られないよう、気をつけながら返事する。
部長の機嫌を、らに損ねても、いい事はないし。
「すみません、部長」
謝りながら、横目でちらりと時計を見る。
4時23分。
何よ、別に遅れてないじゃない。
確か集合は、4時30分だった筈だ。
そんな不満が顔に出てしまったのか、部長が私に言う。
「君はここでは一番新人だろ?30分前に来るぐらいじゃないと困るよ」
放課後のチャイムが鳴った瞬間に、この場所にワープしろとでも?
随分な言い草だった。
「すみません、次からは気をつけます」
しかし私は、殊勝にもそう言った。
「ふん、まあいい。これで全員………じゃないな。斉藤君、霊斗はどうした。君は同じクラスだろう?何で一緒に来なかったんだ」
部長に話を振られて、斉藤先輩は、読んでいた本から顔を上げた。
綺麗な長い黒髪が、ふわりとなびく。
いつも思うのだが、どんなシャンプーを使えば、あんなに綺麗な髪を維持出来るのだろう。
それとも、乾かし方に何か秘密があるのだろうか。
是非聞いてみたい。……といつも思うのだが、斉藤先輩は、人を寄せ付けないオーラのようなものを放っている。気がする。
要するに、声を掛けづらい。
しかしいつまでもそう言って逃げている訳にもいかない。
この部に入ってもう2ヶ月。そろそろいい頃合だろう。
今日のミーティングが終わったら、思い切って話しかけてみようかな。
「………え、何ですか?部長?」
どうやら、斉藤先輩は話を聞いてなかったようだ。
それどころかあの様子だと、私が部屋に入って来た事にさえ、気付いて無かったのではないだろうか。
「……………。霊斗君はどうした、と言ったんだ」
部長は一瞬、怒ろうかどうか考えたようだった。
しかしすぐに無駄と判断したようで、質問を繰り返した。
「霊斗なら、図書館に寄って来るって。調べたい事があるらしいわよ」
それだけ答えると、斉藤先輩は再び本へと視線を落とした。
そんなに面白い本なのだろうか。
「……今日でなくてもいいだろうに。仕方ない、彼抜きで始めよう、準備してくれ、坂本」
「まぁまぁ、落ち着けって、堂間。それにまだ―――」
時計を確認する坂本副部長。
「―――時間も来てないみたいだし。やっぱりこういうのは、全員揃ってやった方がいいと思うぜ、な?」
坂本先輩はやっぱり頼りになるなぁ。
怒りっぽい堂間部長や、斉藤先輩、それにまだ来ていないが、無口な霊斗先輩を、上手く纏めている。もちろん言える訳もないが、堂間先輩より、坂本先輩の方が、よっぽど部長に向いていると、私は思っている。この部に入って、緊張でガチガチになっていた私に、一番始めに話しかけてくれたのも坂本先輩だった。
「…………それもそうだな」
そう言って、堂間部長は、どしんと椅子に腰を下ろした。
坂本先輩も、やれやれといった様子で椅子に座る。
それを見て、タイミングを逃して立ちっぱなしだった私も、椅子を引く。
「ね、美穂。調べてきた?都市伝説」
私が着席すると、香織が、話しかけてきた。
この部の唯一の同級生である香織。
部に入るまでは、ほとんど話した事もなかったが、今では親友とも言える仲だ。
霊感が強いらしく、私と話していても、時々変な方を見ていたりする。
「……ん、一応」
私は、いまいち冴えない返事を返す。
「どうしたの、美穂。何だか元気ないみたいだけど。もしかして、調べるの忘れてきちゃったの?」
「いや、調べるのは調べたんだけどね」
そう、調べるのは調べたのだ。
「ならなんでそんな元気ないの?」
「んー何かね、今回都市伝説を調べる事になったのって、新しい怖い話が欲しかったからでしょ?」
「そうだね、部長が「もう俺は全ての怪談を見た!!何か新しい話は無いのか!!」ってわめきだして」
「ちょ、香織、わめきだすって、………部長に聞こえたらどうするのよ」
「でも本当にそうだったじゃない」
「それはそうだけど………」
「で、それに対して、副部長が「なら、都市伝説を調べてみるか」って言ったのよね」
そうなのだ。それで、私も仕方なく調べてみた。調べてみたのだが。
「ねぇ、都市伝説と怖い話って、ほとんど一緒じゃない?」
「………うーん、それは私も思ったのよね。怖い話=都市伝説みたいな感じはする」
よかった。私だけが疑問を抱いていた訳ではないのだ。
と、その時部室のドアが開いて、霊斗先輩が入って来た。
時計を見ると、4時30分ちょうどだった。