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イケメン騎士とイケメン神父に取り合われちゃう☆2

 なんなんだ、あの男は。ミゲルは上衣のボタンを外していた。上衣を脱ぎ捨てると、鍛え 上げられたたくましい上半身が露わになる。リリアが見たら鼻血を出して襲いかかるだろう。

 ここは騎士団が使用する大浴場だ。訓練を終えたばかりの騎士たちは、素早く衣服を 脱ぎ捨てて浴室へと向かう。早く入浴を終えて、食事をしたいのだろう。ミゲルも同じだ。 このいら立ちを鎮めるには、腹を満たすのが一番なのだ。ベルトを解きながらつぶやく。


「縛るのがかわいそうだと? 笑わせる」

「なにイライラしてんの、団長さま」


 そう尋ねてきたのは、風呂上がりに牛乳を飲むハミスだ。ミゲルはベルトを引き抜き、苛 立った声を上げる。


  「例の神父だ。身を案じて行ってみたら、リリアをかばい、私を非難してきた」

「まー、リリアちゃん美人だからね」

「見た目は関係ない。危険な対象は縛り付けるものだろう」

 ハミスは口髭のような牛乳のあとをぬぐい取って、とんでもないことを口にした。

「なあ、もしかしてリリアちゃんに男が近づいたのが面白くないんじゃない?」

  「は?」


  ミゲルは友人であり部下であり、弟分である男をまじまじと見た。なにを言っているのだ、 この男は。彼は濡れ髪をかきあげ、意味深な笑みを浮かべる。


「神父様はなかなかいい男だった。違う?」

「馬鹿を言うな。私は聖職者の身を案じたんだ」

  「ふーん。リリアちゃんの貞操はいいんだ」


 皇帝の妻は清らかな身でなければならない。しかし、リリアは皇后に選ばれたりしないは ず。......と思うが。

「万が一、いや億が一、ということが」

  ぶつぶつつぶやくミゲルを、ハミスは呆れ顔で見る。

「心配なら迎えにいきゃいいのに」

「いや、大丈夫だろう。聖職者は私たちよりずっと律する力が強いはずだからな」

  「抑圧されてるから逆に危険なんじゃないの?」 ハミスの言葉を無視し、ミゲルは大浴場へと向かった。


 ☆


 私が修道院にやってきてから一週間が過ぎた。うららかな日差しがステンドグラス越しに 注いでいる。私は聖堂にて、神父と向かい合っていた。ルカリア神父は長椅子に腰掛けた 私を見下ろす。

「今日も、その......除霊をしたいと思うのですが」

「はい、神父さま」

 じっと見つめると、ルカリア神父が赤くなった。イケメンなのに純情なところが高ポイントだわ。


 ただ一つ気になるのは、こんな登場人物、小説に出てきた覚えがないってことだ けど。 彼はそっと私の腕と足首に縄を回し、縛り付ける。私が痛がらないよう、細心の注意を払 ってくれているのがわかった。 ミゲル様はちょっと乱暴だけど、神父様の縛り方は優しい。ぶっちゃけどっちもイケメン だから、いずれにせよ興奮するけどね。彼は私に目隠しをし、頭から聖水をかけた。流れ 込んできた聖水が、私の身体を濡らす。その冷たさに、私はビクンビクンと震えた。


  「あ、あん、神父さま、冷たいです......」

「我慢してください、リリアさん」

  濡れた耳に響く優しい声たまらんハアハア。私はけなげに答える。

「はい、頑張ります」


 神父さまは聖書を開き、文言を唱えた。


「光は神と共にあり、暗闇は光と共にある......暗闇は光を覆いつくそうとするが、光は神 の力をもってそれに打ち勝つ」


聖書の言葉は意味がわからなくて面白くないのよねぇ。もっとやらしい文章とかなら目が ぱっちりするのに。眠くなってきた私の肩に、神父さまが触れた。

「リリアさん」

「ぁん」

「終わりました。縄をほどきますね」 やだ、敏感になってるから変な声が出ちゃったわ。ルカリアはしゅるりと縄をほどき、目 隠しをとった。

「お疲れさまです」 爽やかな笑顔を浮かべるルカリア神父が眩しい......でも......とっても素敵なんだけど、ル カリア神父は優しすぎるわ。なんというか、S 感が足りないのよね。


縛り付けたあとは、ミ ゲル様みたいに冷たい目で見下ろしてくれなきゃ。ああ、思い出したらゾクゾクしてきち ゃった。私は自身の首筋を撫で、吐息を漏らす。 ぁん......やっぱりミゲル様の放置プレイが恋しい。早く一週間後にならないかしら。ため 息をついて窓の外を眺めていたら、神父様が声をかけてきた。


「リリアさん、少し散歩しませんか」

「え? あ、はい」


 陽光の下を、私とルカリア神父は歩く。芝生を踏む音と、鳥の鳴き声が心地いい。彼は日 差しに目を細める。

「気持ちのいい日差しですね」

「ええ、とっても」


  私は日差しではなくルカリア神父に見とれていた。茶髪が日に輝いて、とっても素敵だわ。 彼はチラリとこちらを伺った。

「あなたは皇帝の花嫁候補だと、あの騎士は言っていましたが」

「ええ。でも私、皇帝の花嫁にならなくてもいいの」

「......なぜ、ですか? とても名誉なことなのに」

「だってミゲル様がいるもの」


生誕祭で役目を果たして、ミゲル様に愛していただきたい。もちろん二人から愛されるシ チュエーションは最高だけどね★

「──あなたは、あの騎士がお好きなのですね......」

「ええ」

 私が頷くと、神父さまは少しだけ目を伏せた。どうしたのかしら? 不思議に思って首を 傾げると、彼が優しく微笑む。


「発作がなくなるといいですね」

「ふふ。ありがとうございます」

「というか、私相手では発作が起きないようですね」

「あ......本当だわ」

 私は自分の胸を抑えた。なぜかしら? 神父さまには飛びつきたくならない。とっても素 敵なのに、どうして......? 疑問を抱く私に、神父様は穏やかに告げた。

「きっと、あなたのひたむきな心が悪霊に打ち勝ったのでしょう」

「えっ、そうかしら? 嬉しい!」

 はしゃぐ私を、神父様がじっと見つめていた。



 その一週間後、修道院を出る日がやってきた。私はシスター服を脱ぎ捨て、自前のドレス を身にまとう。銀髪をはらい、姿見に全身を映した。今日も可愛いわ。やっぱり美少女は ピンクを着なくちゃね。今日で灰色の日々とおさらばよ!


まあもっとも、神父様がいたか ら辛くはなかったけれど。修道院を出ると、門前で、馬を止めているミゲルが見えた。ぁ ん、後ろ姿もそそるわ。


「ミゲルさまあ」


突撃しようとしたら、ミゲル様が後ろを向いたまま素早く私の身体を避けた。勢いあまっ て転んだ私は、地面に顔を強打する。


「ぎゃん」

 ミゲル様は私を指差し、思い切り叫んだ。


「なんなんだ......まるで改善していないじゃないか!」 私の後からやってきたルカリア神父が口を開く。

「改善する余地はあります」

「なんだと?」

「あなたが彼女を愛してあげれば......」

 その言葉に、ミゲル様が眉を寄せた。

「はあ?」

「彼女はあなたを想っているんだ。その想いに応えてあげてはどうです」 「なにを言っているのかよくわからないんだが」


 ミゲル様は不機嫌に答える。きっとルカリア神父の前だから照れてるのね。そんなところ も可愛い。私は彼にすがりついて囁く。

「ミゲルさま、私、禁欲生活を頑張りましたの。ご褒美にキスしてくださいませ♡んーっ」

 彼は唇を尖らせる私を押しのけた。

「離れろ。おまえは禁欲生活などしていないだろう。神父と随分懇意になったようだし」

「ふふっ、ミゲル様ってば焼きもちかしら」

 私は頰を染めてミゲル様にすり寄る。彼は再び額を押さえ、頭痛がする、と呟いた。


 ★


 ミゲルはリリアを馬に乗せ、彼女の自宅まで送り届けていた。縛り付けて目隠しをしたか ら大人しいが、さっきからハアハアと息を荒げてうるさい。馬車で来れば良かったと、ミ ゲルは後悔する。密着してみると、彼女がいかに細いかがわかる。小さな顔を覆う銀糸の ような髪からは甘い香りが漂う。薔薇色に染まった頬はなめらかな乳白色。ハミスが白薔 薇に例えた通り、見た目だけは最上級なのだ。だから、あの神父が妙な気を起こしてもお かしくはないと思った。


「......一応聞いておきたいのだが」

「ハアハア、はい」

  「息を荒げるんじゃない。......神父と妙な関係になってはいないだろうな」

「えっ?」

「み、ミゲル様ヤキモチですか? はあああん」

 ビクンビクンと震えるリリアが不気味すぎて、思わず馬上から蹴り落とした。

  「ああん、痛い」

 リリアは手足を縛られたままくねくねと身悶えている。踊り食いの海老かおまえは。ミゲ ルはそう思いつつ、馬上から尋ねた。

「あるのかないのかどっちなんだ」

  「はぁん、ないですう、リリアの身体はミゲル様だけのものですう」


 ミゲルはホッとした。──いや、ホッとしたのは彼女が清らかだったからだ。 「ないのならいい」 ミゲルは手綱を握って馬を駆ける。背後からリリアの声が追いかけてきた。

「ミゲル様? あら? どうしたのかしら。ミゲル様──?」


 ミゲル様ミゲル様とうるさいから、仕方なく回収して自宅に送り届けた。外見だけは清らかなので、見知らぬ人間が拾って襲われても困る。縛り付けられ、目隠しをされた娘を見 ても、両親はミゲルになんの文句も言わなかった。彼らの苦労が偲ばれて、ミゲルは思わ ずなぐさめの言葉をかけた。


「娘さんはよく頑張りました。残念ながら、まだ悪霊は取り憑いているようですが」

「そ、うですか......」

 両親は顔を見合わせている。

「でも、少しはよくなったんですよね?」

「神父が見目のいい若い男性でしたが、リリアさんは自制して、飛びかかったりはしなか ったようです。大きな進歩です」

 リリアの母はそっと涙を拭う。

「ありがとうございます......娘にこんなによくしてくださる男性は初めてです。みんな最 初はリリアの見た目に惹かれて近寄ってくるのですが、悪霊のことを知るや、離れていっ てしまって」


 今後とも娘をよろしくお願いします。両親はミゲルの手を握りそう言った。 騎士団長としてのさがだろうか、頼られて悪い気はしなかった。できの悪い犬をしつける ブリーダーの気分とでもいうのか......。ミゲルはまた来る旨を告げて、馬に乗り上げる。 リリアは目隠しをされたままミゲルを見上げた。その頰は薔薇色に染まっている。


「ミゲル様、さようなら」

「ああ」

 駄犬を愛でる気持ちで、ミゲルは彼女の頭を撫でた。リリアが「ひゃうっ」と声をあげる。

「はあああん! ミゲル様が私の頭をッ! 今日から一週間頭洗えないわー!」


  転がりもだえるリリアを見て、撫でるんじゃなかったと後悔した。ミゲルは無言で馬から 降り、リリアを蹴り飛ばす。

「きゃん!」

 彼女を抱き起こし、肩を掴んだ。

「落ち着け。ご両親が見ている」

「は、はい」

「また来るから、それまで発作を起こさないよう我慢しろ」

「はいぃ」


  リリアの息が徐々に落ち着いてきた。目の錯覚で彼女が可愛らしく見えて、つい触ってしまった......。今後は不用意に触れないようにせねば。ミゲルは強く決意した。

 リリアと別れたミゲルは、もう一人の皇妃候補に会いに行くことにした。彼女が住む屋敷 は、リリアの自宅から二里ほど離れたところにある。馬から降りたミゲルがノッカーを鳴 らすと、使用人が出てきた。ミゲルは騎士団の徽章を見せる。


「皇立騎士団団長、ミゲル・ランディだ。ユージーン嬢にお会いしたい」

「少々お待ちくださいませ」


  使用人は一旦奥に引っ込んで、再び戻ってきた。ミゲルを連れて室内に入り、二階へとあ がる。使用人は突き当たりにある部屋に向かい、ノックをした。

「お嬢さま、ミゲル様をお連れいたしました」 間を置かず、「どうぞ」と可憐な声が聞こえた。ドアを開くと、窓辺に腰かけていた女性が こちらを向く。その手には編みかけの手袋があった。


「ミゲル様......」

「こんにちは」


ユージーン・マクラウドは灰色の髪の地味な少女だ。しかし声が可愛らしく、仕草が可憐 で好感が持てる。ミゲルは派手ではなくとも、こういう娘を好ましいと思っていた。まあ、 皇帝陛下のお気には召さないだろうが。 「どうぞ」と促され、彼女の向かいに座る。ユージーンは異性との交流に慣れていないの だろう、目を泳がせながら尋ねる。


「こないだの、お話ですか?」

「ええ」


 リリアと別れた後、ミゲルは何人かの女性に声をかけた。その中の一人が男爵令嬢のユー ジーン・マクラウドだ。ユージーンと一緒にいた黒髪の少女はぜひ行きたいと言ったが、 彼女は貴族ではなかった。一方ユージーンは尻込みし、逃げるように帰ってしまった。今 も、ミゲルの視線を避けるように目を泳がせている。


「皇帝の生誕祭なんて。私......そんな華やかな場にはふさわしくありません」

「そんなことはありませんよ。あなたはとても可憐だ」

 そう言ったら、ユージーンは頰を染めた。

「そ、そんなお世辞......」

「お世辞は不得意です。言葉が巧みなら文官になっている」


 彼女はりんごのように真っ赤な頬を両手で包む。これが普通の女の反応だ。何かあれば奇声を発す るあの(リリア)とは雲泥の差である。彼女は頬を覆ったまま、ちらりとこちらを見る。


「ミゲル様も、一緒に来てくださるのですか?」

「ええ。もちろん」 ミゲルはそう言って微笑んだ。ユージーンはますます赤くなり、じゃあ、参加します、と答えた。女性と会話するのは苦手だと思っていたが、それは相手が特殊なせいだったのか もしれない。脳裏に浮かぶのは、傲慢な婚約者とリリア・リヴァルの姿。こんなに穏やか な気分で話せる女もいるのだ......。席を立とうとしたミゲルに、ユージーンが慌てて言っ た。


「あの、ミランダ......友達も、一緒に参加させてあげたいのですが」

「ミランダ? ああ、あの黒髪の」


 確か一人空きがあったはずだ。聞けば成金の出だというが、この際身分がどうとは言って いられまい。

「いいですよ」と答えたら、ユージーンは笑顔になった。ミゲルは終始穏やか な気持ちで会話を終え、屋敷を出た。

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