表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

イケメン騎士とイケメン神父に取り合われちゃう☆1

「天にまします我らが神よ、今日も私たちをお守りください......」


 真っ黒なシスター服を纏った修道女たちが、祈りを捧げながら粗末な木のテーブルを囲ん でいる。私はそんな彼らに混じり、やたらと硬いパンをすっぱい葡萄ジュースで流し込んでいた。ちなみに、私の格好も彼らと同じだ。せっかくの美しい銀髪は、やぼったいベー ルに覆われてしまっている。

 私の扱いは「客人」だが、食事はシスターたちと変わらない。格好も地味なシスター服。 周りにはイケメンどころか一人も男がいない。ほとんどが労働の時間で、余暇は編み物か 読書。おしゃれもできず、外出には許可がいる。 本当に牢獄みたい。一生こんなところで過ごすなんて、はっきり言って拷問ではなかろうか。イケメンと出会えない人生なんて最悪だわ......。いつまでたっても柔らかくならない パンを咀嚼していたら、修道院長が寄ってきて尋ねた。


「リリアさま、お食事はお口に合いますか」

「えっ? え、ええ、とても美味しいわ」


私はそう言いながら、硬いパンを噛みちぎる。我慢するのよリリア。この試練を乗り込え たら、華やかな舞踏会に出られるの。そしてミゲルさまは美しく着飾った私に理性を打ち 砕かれて思わず......げへへ。私が妄想の世界に浸っていたら、修道院長がぱんぱん、と手 を叩いた。

「皆さん、聞いてちょうだい。今日はリバティ教会から神父さまがいらっしゃいます」

 その言葉に、周りがざわついた。


「うそ、知らなかったわ」

「知っていたらお肌の手入れをしたのに」

「何言ってるの。神父さまはお祈りをしにいらっしゃるのよ。私たちなんか見向きもしな いわ」


 シスターたちはそう言いつつ、頰を染めてはしゃぐ。私は彼女たちのリアクションに困惑 していた。えっ? 70 代のおじいさんだよね。もしかして、みんな老け専なのだろうか......。 そんなことを思っていたら、修道院長が口を開いた。

「皆さん、わかっているでしょうが、浮ついた気持ちで祈りを捧げないように」

「はい、修道院長さま」


シスターたちは澄まして答えたあと、囁き合う。

「あんなこと言ってるけど、神父さまが初めていらしたとき、一番はしゃいでいたのは修 道院長さまよね」

 修道院長は彼女たちの言葉を聞きつけたのだろう、シスターたちをじろりと睨みつけた。 シスターたちが慌てて食事を再開する。 先ほどまで静謐な空気が流れていた食堂が、浮かれた雰囲気に変わっている。敬虔なシス ターたちをよろめかせるなんて、よほどかっこいいおじいさんなのだろうか? っていう か、原作に神父なんか出てきたっけ......。私はそう思いながら、固すぎるパンを飲み込んだ。


食事を終えた私は、ミゲル様とのラブラブ祈願をするため聖堂へ向かった。長い廊下を抜 け、その先にある聖堂へ入る。ステンドグラスが注ぐ堂内には長椅子が並べられ、通路の 先にある中央の祭壇には神像が掲げられていた。この国をつかさどる女神、ベルフィアで ある。


この雰囲気、流石の私も神妙な気分になるわ......。 ステンドグラスがきらきら輝いて、床に色とりどりの模様を落としている。私はそれに見 惚れながら、聖堂内へと足を踏み入れた。神像の前に立ち、胸元からロザリオを引っ張りだして握りしめる。祈りを捧げる時は珠を数えるのだ。 私は珠を指先でたどりながら願った。


ここを出たら、生誕祭に出て、理性を失ったミゲル様にトロ甘に愛されますように。きゃ っ。


 私がミゲル様とのいちゃいちゃを思い浮かべにやついていると、靴音が響いた。振り 向くと、茶髪の男が立っていた。 まるで天使かと見まごう清廉な青年だ。蜂蜜色の瞳は優しげで、茶髪にステンドグラスが 反射してきらきら輝いている。細身のようでいて、たくましい体躯にまとう神父服が禁欲 的でなんともいえない。私はごくりと生唾を飲んだ。彼はこちらに視線を向け、優しく微 笑む。


「おや、新しく入った方ですか?」

「あ、は、い。リリア・リヴァルです」


なにこのイケメン! 私は男性を見つめ、ハアハアと息を切らした。この人がみんなが言 っていた神父さま? どう見たって70代には見えない。おそらく20代後半だろう。ミゲ ル様並みの素敵さだわ。でもこんなキャラ知らない......。真っ赤になった私を見て、彼は心配そうな顔になる。


「大丈夫ですか......熱でも?」

神父さまが手を伸ばし、私の額に触れた。

「ひゃう」

思わず声が漏れてしまう。神父さまはびっくりした顔で私を見た。 「ひどく熱い。休んだ方がいいのではないですか」

「あ、だ、大丈夫、ゃん」


彼は私を抱き上げる。私は具合の悪いふりをして、神父さまにもたれかかった。ああん、 やっぱりイケメンっていい匂いがするわ......。 細身に見えるが、筋肉がしっかりついているのが服の上からでもわかる。このギャップが たまらないわ、ハアハア。神父さまは私を長椅子に横たえ、気づかわしげに声をかけた。


「いま修道院長を呼んで来ます。少し待っていてください」

「だ、大丈夫、すぐおさまりますから......」


私は立ち去ろうとする神父さまの袖を引いた。彼は心配そうに眉を寄せたが、私の呼吸が 落ち着いてきたのをみて、そっと身を屈める。蜂蜜色の瞳に見つめられ、心臓が激しく高 鳴る。ああ~イケメンだわ~。若返る~(若いけど)私は息が荒くなるのを抑え込みなが ら尋ねた。


「あのう、神父様のお名前は?」

「私はルカリアといいます」 彼は私の隣に腰かけ、そっと背中を撫でた。ああん、ソフトタッチ......。びくびく震える 私に、ルカリア神父が尋ねてくる。

「よく起きるのですか? こういう......発作というのか」


「ええ、イケメン......男の方を見ると、こうなりますの」

「だから修道院に? あなたは、シスターではないですよね。ロザリオをつけていない」 「私、生誕祭に出席したくて」

「生誕祭、ですか?」

「はい......皇帝の生誕祭。とても楽しみなの......」


私は胸を押さえ、頬を紅潮させた。生誕祭ともなればイケメンがたくさん来るだろうし、 皇帝陛下と会うのも楽しみだし。イケメンに囲まれた私を見たミゲル様の反応も超絶楽し みだ。絶対ラブイベントが起こるはず。げへへ。神父さまは私の脳内など知りようもない ので、優しく尋ねてくる。


「そうですか。薬は飲んでらっしゃるのですか? よければ水を持ってきますが」 「お薬は......ないの」 私は生まれて以来、十八年間ずっと健康体である。どうやら彼は勝手に納得したらしく、「そ うですか。薬では治せない病なのですね」と相槌を打った。


「でも、だいぶ落ち着かれたようで良かった。もう少し休まれると良い」

「はい......」


私は神父さまの微笑みにうっとりした。修道院にこんなイケメンが現れるなんてラッキー ★教会の中でっていうのも禁欲的でいいわよね......。私は彼とのラブシーンを思い浮かべた。


乱暴に腕を掴まれて、祭壇に押し倒される私。

「きゃうん」 にじり寄ってくる神父様。私は、はだけそうになるシスター服の裾を抑える。

「あん、だめ、神父様......来てはだめですぅっ」 「あなたは私の気持ちをわかっていない......わからせてあげましょうか、神の見ている前 で」

神父様が私の服を破く。

「あぁん」


げへへ。いいじゃない......。頰を染めた私を見て、神父様が息を飲んだ。彼が私の方に手 を伸ばしかけた時──。聖堂の扉が音を立てて開いた。そこに立っていたのは黒髪の美青 年。私は目を輝かせ、その人の名前を呼んだ。


「ミゲルさまっ!」

「遅かったか......」

ミゲルは苦々しい表情で額の汗をぬぐった。走ってきたのかしら? 汗でびっしょりだわ。 汗だくの彼がセクシーすぎて、私は息を荒くする。ああん、やっぱり神父さまよりミゲル さまの方がステキ★

「ミゲル様──ッ」


私は長椅子の上から、ミゲル様に飛びかかる。おそらく私が飛びかかるのを予測していた のだろう、ミゲルさまは足を引っ掛けてつんのめらせ、腕で首を拘束してぎりぎり締め上 げた。ね、ネックスリーパー!?


「み、ミゲルさま、くるし......っ」

彼は手早く私の目を覆う。

「あん」

「まったく......油断も隙もない」 一連の流れを見ていた神父様は、呆然とした表情でミゲル様に尋ねる。

「君は?」

「皇立騎士団団長、ミゲル・ランディです」


ミゲル様は私の首をギリギリ締め上げながら言う。目隠しされつつ首を絞められ、私は吐 息を漏らす。やだ、未知の快感に目覚めそう......! 神父様は私が苦しんでいると思ったのだろう。いたましそうな声を出した。


「離してあげなさい。苦しそうだ」

「離すと危険です。私も、あなたも」

「どういうことですか......?」


ミゲルさまは胸元から縄を出し、私の手足を縛り付けた。そのまま持ち上げ、長椅子に寝 かせる。ああん、また放置プレイだわ......。目隠しで放置されると、ドキドキしてしまう。 ミカエル神父がミゲルに尋ねた。


「彼女はなんの病気なのです?」

「──悪霊に憑かれている」

「悪霊......?」


視界を遮られたせいで、神父さまとミゲルさまが話している声だけが聞こえてくる。なん かボイスドラマみたい。イケメンにやらしいことをされるボイスドラマは、現代では妄想 大好きな私の必需品だった。イケメンは声もイケメンだから耳が幸せだ。ミゲル様が言葉 を続ける。


「彼女は 12 歳の時社交界に出て、13 歳の少年を襲った」

「なんと......」


目隠しされてるけど、ミカエル神父の視線を感じる。ああん、視姦されてるう。身もだえ る私の耳に、ミゲル様の低い声が響く。

「若い男にだけ反応するようだ。彼女に取り憑いているのは、女の悪霊なのかもしれない」

「なるほど......」


神父様が相槌を打った──直後、靴音が近づいてきた。きゅぽん、と音がしたあと何か冷 たいものが額に落ちて、首筋へと流れ落ちる。


「あ、ぁん」

私は身悶えながら息を荒くした。

「苦しんでいるようですね」

「いや、これは悦んでいる」

ミゲルさまはつぶやいて、神父様に問う。

「聖水をかければ改善するのか?」

「どうでしょう。やってみないとわからないが......」


ビクンビクンと震えていたら、急に目隠しがとかれた。視界がひらけて、こちらを見下ろ すミゲルさまと神父さまと視線が合う。ああ......イケメン二人がこっちを見つめてるうう。 ミゲルさまは嫌そうな顔で私を指差した。

「聖水をかけるときは縛り付けて、目隠しを。危険だからな」

「いや、女性にそのような......」

「ただの女ではない。悪霊つきだ。あなたは聖職者だろう。その名にふさわしい役目を果 たしてくれ」

ミゲルに冷たく言われ、神父はムッとした。


「私はエクソシストではない」

「なんでもいいが、彼女は皇帝の花嫁候補だ。パーティまでに悪霊を払ってくれ」

そう言い捨てて、ミゲルはさっさと歩いていく。神父がその背に呼びかけた。

「あなたはなぜ彼女をここに?」

「仕事だからだ」

「悪霊に憑かれた女性を利用する仕事ですか。私には理解できない。我々の女神ベルフィ アもあなたを許すまい」

神父の言葉に、ミゲルがぴたりと立ち止まる。彼は振り向き、冷たい声で言い放った。

「私が仕えるのは皇帝だ。神ではない」

ミゲルさまは靴音を鳴らしながら、聖堂を出て行った。神父さまはミゲルの背中を睨みつ けていたが、ハッとしたように私の方へ寄ってくる。彼の眉はいたましげに寄っていた。


「すいません、ほどきます」

「んん......」


私を縛り付けていた縄がはらりとほどける。彼は気づかわしげに縛り跡を撫でた。

「なんという......彼に言われて、皇帝の生誕祭に?」

原作ではミゲル様は騎士団長として、花嫁候補を探す役割を担うのである。だけど花嫁で ある私に一目惚れしてしまった彼は、私を熱く激しく愛するというわけ。この世界でもそ うなるといいなあ。私はミゲル様との蜜月を思い、うっとりと言う。

「はい、でもミゲル様は私を愛してくださっていますから」

「あなたの気持ちを利用しているのか......許せないな」

神父さまは、ミゲルさまが去った方へ鋭い視線を向ける。それはライバルを睨みつける雄々しい目つき。

やだ......なんか私、早速奪われあっちゃってる?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ