愛され侍女爆誕☆
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リリアを侍女寮に送り届けたミゲルは、騎士団の訓練所へ向かった。大浴場に向かうと、 牛乳を飲むハミスがいた。彼はミゲルに気づくと、瓶を持ったままこちらへ寄ってくる。 彼は真っ赤に染まったミゲルのシャツを見て、怪訝な表情を浮かべた。 「なんで血まみれなんだよ」
「色々あったんだ」
ミゲルはげっそりした表情で答えた。ハミスはそれだけでピンと来たのだろう。
「ははあ、リリアちゃんに襲われたな」
「ああ。最近発作が出てないから油断した」
血に染まったシャツを脱ぎ捨て、ミゲルはため息を漏らす。のしかかってきた柔らかい身 体を思い出すと、こちらの身体も熱くなってくる。健康な男なのだ。好きな女に密着され て平気なわけがない。ハミスはこちらの葛藤をよそに、のんきな感想を漏らす。
「やっぱり満たされてないから発作が出るのかねえ」
「かもしれないな」
「なら俺がリリアちゃんを満たしてあげようかな」
思わぬ言葉に、ミゲルはベルトをほどく手を止めた。それからまじまじとハミスを見る。 こいつは今、何と言ったのだ?
「いや、おまえ以外とならいちゃついてもいいんだよな、と思ってさ」
ハミスはにっこり笑って、残りの牛乳を飲みほした。
☆
「リリアさん!」
ユージーンが私にしがみついてくる。彼女は泣きそうな顔で私を覗き込んでくる。
「よかった、無事で。さらわれたって聞いて心配していたの」
彼女は心配そうに、ガーゼの貼られた私の額を見た。
「それどうしたの? 誘拐犯にやられたの」
いいえ、最愛の男性よ。私はかくかくしかじか説明した。ユージーンは憤慨する。
「まあ、陛下ったら! リリアさんの気持ちを知ってて側室にしたのに、どうしてそんな 意地悪を言うのかしら」
「ええ、私もそれが腑に落ちないの」 独占欲のほかに、何か他に理由があるんじゃないかしら? そう思っていたら、ユージー ンが立ち上がった。
「私、陛下に直訴してくるわ」
私は慌ててユージーンを引き留める。
「ダメよユージーン。あなたに叱られたら、余計にへそを曲げるかも」
「でもリリアさん、せっかくミゲル様と両想いになったのに」
はあ……ユージーンは優しい子ね。それに甘い匂いがして......。はあはあ、なんだか興奮してきたわ。息を荒くする私を見て、ユージーンが顔を引きつらせた。
「り、リリアさん?」
「肌がすべすべね、ユージーン......」 私は荒い息を吐きながら、ユージーンの頬を撫でまわした。そのままむーっと唇を近づけ る。
「ま、待って。落ち着いて!」
ユージーンに張り手をされ、私は地面に倒れた。ぐはっ。け、結構な威力だわ......。痙攣 する私を見下ろし、ユージーンがハッとする。
「あっ、ごめんなさい!」
「い、いいの。こちらこそごめんなさい......リビドーが抑えきれなくて」
私は鼻血を流しながら、悲し気に笑う。
「リリアさん......」
ユージーンは憐憫の眼差しで私を見つめ、そっとハンカチを差し出した。
翌日、私は侍女部屋で目覚めた。
一晩経つと、私は結構冷静になっていた。賢者タイムってやつかしら。
この欲望は、自分でなんとかするしかないわ。 思えば現世でも、TL 小説で消化していたんだし。欲望を別の欲望で果たすのを、「昇華」 って呼ぶのよね。目指すは「白薔薇後宮物語」第二部を書くことだわ。蛇女の妨害を潜り 抜けた私とミゲル様は、次なる試練を迎えるの。それは皇帝による逢瀬の妨害。皇帝は正 室であるユージーンを溺愛していたのだけれど、私のことが惜しくなって邪魔してくるの よ。ミゲル様は、私への愛と皇帝への忠誠心でかんじがらめになってしまう......。
いいじゃない。この展開、二人の恋を盛り上げるにふさわしいエピソードだわ。頭の中で構想を練っていたら、ノックの音が聞こえた。顔を出したのは、侍女のマリーだ。
「リリアさま、そろそろ仕事の時間です」
「あっ、はあい」
私は侍女服に着替え、マリーと共に厨房へ向かう。
「ねえ、マージがどうなったか知らない?」
私の問いに、マリーはかぶりを振った。
「いいえ。ミランダ様と一緒にマリー様をあんな目に遭わせたんだもの。きっと厳しい処分が下るわ」
「そう……」
詳しいことはあとでミゲル様に聞こう。厨房に入ると、侍女たちの視線が集まってきた。私はツインテールを揺らし、元気よくあいさつした。
「今日からみなさんの仲間になる、リリア・リヴァルです」
「あの方、侍女のリリア様?」
「どういうこと……? 側室が侍女になるなんて」
ざわつく侍女たちを静かにさせたのは、侍女長の鶴の一声だった。
「静かに」
しんとした厨房にて、侍女長が私にくる。ひっつめた髪は縛り付けているせいで痛そう。目つきがきつくて、なんだか怖そうな人。
「リリア様」
「リリアでいいわ。私、もうメイドだもの」
「そうですか。ではリリア。その髪はなんですか」
私はツインテールにした自身の髪を撫でた。
「かわいいでしょ?」
「侍女の髪型はシニョンか三つ編みと決まっています」
「でも、このほうが可愛い……」
「侍女が可愛い必要などありますか? 今すぐまとめてきなさい」
なんか小学校の頃にいた学年主任みたい。すっごく厳しくて怖い人なの。仕方なく部屋に戻っ髪をまとめていたら、ノックの音がした。顔を出したのはマリーだ。
「リリアさん、侍女長が早くしろって」
「はあい」
私は手早く髪をまとめ、マリーに続いて部屋を出た。
「あーあ、侍女って大変だわ」
私は井戸で水をくみ上げていた。 つるべを使って桶に水をあけて、厨房まで運ぶ。お、重いわね。私の細腕でこれはきついわ。そう思っていたら、脇から腕が伸びてきた。
「手伝おっか」
「あら、ハミス様」
視線が合うと、ハミスがにっこり笑う。
「侍女服姿、似合ってるね」
「ありがとうございます。でも、ツインテールはダメって言われてしまって」
ため息を漏らした私の髪に、ハミス様が指を絡める。
「そうなの? でもシニョンもかわいいよ。うなじが見えてて色っぽい」
うなじをつっとなぞられ、私はびくりと震えた。
「は、はみすさま?」
「俺、髪上げてるほうが好きかも」
怪しい色気だわ。以前だったら反応しちゃうとこだけど、私はもうミゲル様のもの。軽くあしらわなくっちゃ。
「そうなんですの? 私急ぎますからこれで、あう」
地面に出っ張りに足を引っかけた私は、そのまま転んでしまった。
「ドジっ子だねえ」
「あうう……なぜ段差が」
涙目になっている私を見て、ハミス様が笑った。
「可愛いね、リリアちゃんって」
もちろん私は可愛いわ。なんせTLヒロインだもの。
「あ、そうですわ。ハミス様、ミランダとマージがどうなったかご存知?」
「ああ、二人なら修道院へ行くことになったよ」
そうなの……まあ、自由はないけど、そう悪いところではないわよね。
「よかったわ。ひどい扱いをされたら可哀そうだもの」
「リリアちゃんって優しいね」
ハミス様がふっと目を細めた。
「俺、ほんとに好きになりそうかも」
あらっ、これはまたフラグが立ってしまったの!?
どうしてこんなにモテてしまうのかしら。TLヒロインってすごいわ。この世界に生まれてよかったー!
そんな私を後ろから抱き寄せた人がいた。
「あん、ミゲル様」
「何してるんだ、ハミス」
「何って、おまえはリリアちゃんといちゃつくの禁止だから、代わりに仲良くしてるんだろ」
ハミス様はにやにや笑っている。この人、ミゲル様をからかいたいだけなのかも。その時、もう一人男性が声をかけてきた。
「リリアさん」
ルカリア神父がやってきて、ミゲル様を押しのけ私の肩を抱いた。
「ご無事だったんですね。よかった」
ミゲル様はルカリア神父をぐいっと押しのける。
「なぜいる。ベルフィア祭は終わったんだから、さっさと帰れ」
神父様はしれっとした口調で返す。
「皇帝に嘆願して常駐神父になりました。日曜日以外はここにいます」
「なんだと……」
ミゲル様が顔を引きつらせている。あん、ライバルもいて、私たちの恋は多難ね。でもリリアのミゲル様への思いは永久に不滅です。
こうして側室じゃなくなっても、リリアの愛され後宮ライフは続くのでした★
とりあえず完☆




