表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

愛され侍女爆誕☆

 ★


 リリアを侍女寮に送り届けたミゲルは、騎士団の訓練所へ向かった。大浴場に向かうと、 牛乳を飲むハミスがいた。彼はミゲルに気づくと、瓶を持ったままこちらへ寄ってくる。 彼は真っ赤に染まったミゲルのシャツを見て、怪訝な表情を浮かべた。 「なんで血まみれなんだよ」

「色々あったんだ」

 ミゲルはげっそりした表情で答えた。ハミスはそれだけでピンと来たのだろう。

「ははあ、リリアちゃんに襲われたな」

「ああ。最近発作が出てないから油断した」

 血に染まったシャツを脱ぎ捨て、ミゲルはため息を漏らす。のしかかってきた柔らかい身 体を思い出すと、こちらの身体も熱くなってくる。健康な男なのだ。好きな女に密着され て平気なわけがない。ハミスはこちらの葛藤をよそに、のんきな感想を漏らす。


「やっぱり満たされてないから発作が出るのかねえ」

「かもしれないな」

「なら俺がリリアちゃんを満たしてあげようかな」

 思わぬ言葉に、ミゲルはベルトをほどく手を止めた。それからまじまじとハミスを見る。 こいつは今、何と言ったのだ?

「いや、おまえ以外とならいちゃついてもいいんだよな、と思ってさ」

 ハミスはにっこり笑って、残りの牛乳を飲みほした。


 ☆


「リリアさん!」

 ユージーンが私にしがみついてくる。彼女は泣きそうな顔で私を覗き込んでくる。

「よかった、無事で。さらわれたって聞いて心配していたの」

  彼女は心配そうに、ガーゼの貼られた私の額を見た。

「それどうしたの? 誘拐犯にやられたの」

 いいえ、最愛の男性よ。私はかくかくしかじか説明した。ユージーンは憤慨する。

「まあ、陛下ったら! リリアさんの気持ちを知ってて側室にしたのに、どうしてそんな 意地悪を言うのかしら」

「ええ、私もそれが腑に落ちないの」 独占欲のほかに、何か他に理由があるんじゃないかしら? そう思っていたら、ユージー ンが立ち上がった。

「私、陛下に直訴してくるわ」

 私は慌ててユージーンを引き留める。

  「ダメよユージーン。あなたに叱られたら、余計にへそを曲げるかも」

  「でもリリアさん、せっかくミゲル様と両想いになったのに」

 はあ……ユージーンは優しい子ね。それに甘い匂いがして......。はあはあ、なんだか興奮してきたわ。息を荒くする私を見て、ユージーンが顔を引きつらせた。


「り、リリアさん?」

「肌がすべすべね、ユージーン......」 私は荒い息を吐きながら、ユージーンの頬を撫でまわした。そのままむーっと唇を近づけ る。

「ま、待って。落ち着いて!」

 ユージーンに張り手をされ、私は地面に倒れた。ぐはっ。け、結構な威力だわ......。痙攣 する私を見下ろし、ユージーンがハッとする。

「あっ、ごめんなさい!」

  「い、いいの。こちらこそごめんなさい......リビドーが抑えきれなくて」

 私は鼻血を流しながら、悲し気に笑う。

「リリアさん......」

 ユージーンは憐憫の眼差しで私を見つめ、そっとハンカチを差し出した。


 翌日、私は侍女部屋で目覚めた。

 一晩経つと、私は結構冷静になっていた。賢者タイムってやつかしら。


 この欲望は、自分でなんとかするしかないわ。 思えば現世でも、TL 小説で消化していたんだし。欲望を別の欲望で果たすのを、「昇華」 って呼ぶのよね。目指すは「白薔薇後宮物語」第二部を書くことだわ。蛇女の妨害を潜り 抜けた私とミゲル様は、次なる試練を迎えるの。それは皇帝による逢瀬の妨害。皇帝は正 室であるユージーンを溺愛していたのだけれど、私のことが惜しくなって邪魔してくるの よ。ミゲル様は、私への愛と皇帝への忠誠心でかんじがらめになってしまう......。


 いいじゃない。この展開、二人の恋を盛り上げるにふさわしいエピソードだわ。頭の中で構想を練っていたら、ノックの音が聞こえた。顔を出したのは、侍女のマリーだ。

「リリアさま、そろそろ仕事の時間です」

「あっ、はあい」

 私は侍女服に着替え、マリーと共に厨房へ向かう。

「ねえ、マージがどうなったか知らない?」

 私の問いに、マリーはかぶりを振った。

「いいえ。ミランダ様と一緒にマリー様をあんな目に遭わせたんだもの。きっと厳しい処分が下るわ」

「そう……」

 詳しいことはあとでミゲル様に聞こう。厨房に入ると、侍女たちの視線が集まってきた。私はツインテールを揺らし、元気よくあいさつした。

「今日からみなさんの仲間になる、リリア・リヴァルです」

「あの方、侍女のリリア様?」

「どういうこと……? 側室が侍女になるなんて」

 ざわつく侍女たちを静かにさせたのは、侍女長の鶴の一声だった。

「静かに」

 しんとした厨房にて、侍女長が私にくる。ひっつめた髪は縛り付けているせいで痛そう。目つきがきつくて、なんだか怖そうな人。

「リリア様」

「リリアでいいわ。私、もうメイドだもの」

「そうですか。ではリリア。その髪はなんですか」

 私はツインテールにした自身の髪を撫でた。

「かわいいでしょ?」

「侍女の髪型はシニョンか三つ編みと決まっています」

「でも、このほうが可愛い……」

「侍女が可愛い必要などありますか? 今すぐまとめてきなさい」

 なんか小学校の頃にいた学年主任みたい。すっごく厳しくて怖い人なの。仕方なく部屋に戻っ髪をまとめていたら、ノックの音がした。顔を出したのはマリーだ。

「リリアさん、侍女長が早くしろって」

「はあい」

 私は手早く髪をまとめ、マリーに続いて部屋を出た。


「あーあ、侍女って大変だわ」

 私は井戸で水をくみ上げていた。 つるべを使って桶に水をあけて、厨房まで運ぶ。お、重いわね。私の細腕でこれはきついわ。そう思っていたら、脇から腕が伸びてきた。

「手伝おっか」

「あら、ハミス様」

 視線が合うと、ハミスがにっこり笑う。

「侍女服姿、似合ってるね」

「ありがとうございます。でも、ツインテールはダメって言われてしまって」

 ため息を漏らした私の髪に、ハミス様が指を絡める。


「そうなの? でもシニョンもかわいいよ。うなじが見えてて色っぽい」

 うなじをつっとなぞられ、私はびくりと震えた。

「は、はみすさま?」

「俺、髪上げてるほうが好きかも」

 怪しい色気だわ。以前だったら反応しちゃうとこだけど、私はもうミゲル様のもの。軽くあしらわなくっちゃ。

「そうなんですの? 私急ぎますからこれで、あう」

 地面に出っ張りに足を引っかけた私は、そのまま転んでしまった。

「ドジっ子だねえ」

「あうう……なぜ段差が」

 涙目になっている私を見て、ハミス様が笑った。

「可愛いね、リリアちゃんって」

 もちろん私は可愛いわ。なんせTLヒロインだもの。


「あ、そうですわ。ハミス様、ミランダとマージがどうなったかご存知?」

「ああ、二人なら修道院へ行くことになったよ」

 そうなの……まあ、自由はないけど、そう悪いところではないわよね。

「よかったわ。ひどい扱いをされたら可哀そうだもの」

「リリアちゃんって優しいね」

 ハミス様がふっと目を細めた。

「俺、ほんとに好きになりそうかも」

 あらっ、これはまたフラグが立ってしまったの!?

 どうしてこんなにモテてしまうのかしら。TLヒロインってすごいわ。この世界に生まれてよかったー!

 そんな私を後ろから抱き寄せた人がいた。


「あん、ミゲル様」

「何してるんだ、ハミス」

「何って、おまえはリリアちゃんといちゃつくの禁止だから、代わりに仲良くしてるんだろ」

 ハミス様はにやにや笑っている。この人、ミゲル様をからかいたいだけなのかも。その時、もう一人男性が声をかけてきた。

「リリアさん」

 ルカリア神父がやってきて、ミゲル様を押しのけ私の肩を抱いた。


「ご無事だったんですね。よかった」

 ミゲル様はルカリア神父をぐいっと押しのける。

「なぜいる。ベルフィア祭は終わったんだから、さっさと帰れ」

 神父様はしれっとした口調で返す。

「皇帝に嘆願して常駐神父になりました。日曜日以外はここにいます」

「なんだと……」

 ミゲル様が顔を引きつらせている。あん、ライバルもいて、私たちの恋は多難ね。でもリリアのミゲル様への思いは永久に不滅です。

 こうして側室じゃなくなっても、リリアの愛され後宮ライフは続くのでした★

とりあえず完☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず、完。なのがおもしろくて、この先をいろいろ考えてしまいます(笑) TLのヒロインと言いつつもそんな要素はなくて、良い意味でヒロインの扱いが酷くて笑っちゃいました。ラブコメなところ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ