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愛され側室な日々★4

 ★


 がさりと音が聞こえた気がして、ミゲルは視線を動かした。その先には青い鳥。どうやら、 羽ばたいた鳥が葉を揺らしただけのようだ。最近、リリアが静かだ。というより、姿を見 ない。飛び立つ鳥を目で追っていたら、ストレッチしていたハミスが話しかけてきた。


「どうしたんだよ、ミゲル」

「いや、別に」

 ミゲルはそう答え、剣を振る。人の形を模した藁が、ざくりと音を立てて地面に落ちた。 ハミスは剣を持ち、ミゲルの横にやってくる。

「そういや、リリアちゃんは元気かな」

「元気だろう。悪霊が憑いている以外はな」

「悪霊なんか本当に憑いてんの?」

「憑いていないのにあの奇行だというのか」

「いや、だっておまえにしか飛びかからないし」

 あなたが好きだから──。リリアはいつもそう言う。私はあなたの小鳥。その言葉を思い 出しつつ、枝に止まった青い鳥を見上げた。


「よく考えろ、ハミス」

「え?」

「普通の女は好きだからといって飛びかかってくるのか?」

「うーん、まあ、来ないかな」

 当たり前の回答だ。だからリリアはおかしいのだという事にもなる。

「でも愛情表現はそれぞれだし」

「相手が迷惑していたら、それは愛情とは言えないだろう」

「迷惑してるんだ」

「当たり前だろう」


 彼女は側室なのだ。一緒にいるところを見られるだけでもまずい。

「でもさっき、リリアちゃんかと思ったんだろ」

「何を......そんなわけがないだろう」

「ふーん? たかが枝の鳴る音に集中を乱されたんだな。真面目な騎士団長様が」

  ハミスはにやにや笑っている。ミゲルは舌打ちし、彼に剣を突きつけた。

「馬鹿言ってないで、余力があるのなら相手をしろ」

「いいですよ? 騎士団長様」


 打ち合いを終えると、ハミスが顔をしかめて手を振った。

「いってー、そんな全力で打つことないだろ」

「手加減した訓練など意味がないだろう」


 汗のせいで、シャツが肌にまとわりついてうっとおしい。ミゲルは腕で額の汗を拭い、眼 鏡を外す。ベンチに置かれていたタオルを手にし、リリア渡されたものだと思い出した。 しまった、すっかり返し損ねていた。

 ──メイドに渡せばいい。 ミゲルはタオルを手に、後宮に向かい歩き出した。宮同士をつなぐ小径を通っていたら、ちょうどメイドらしき声が聞こえてきたのでそちらへ向かう。宮の入り口付近に、メイド たちが固まっていた。


「次は私よっ!」

「いや、私が読むわ」

「ち、ちょっと! だめよ、一冊しかないんだから」

 メイドたちは何かを取り合い、揉み合っていた。──一体何をしてるんだ? 不審に思ったミゲルは、彼女たちに近づいていった。

「君たち、どうした?」

「あっ、騎士団長」


 メイドたちは真っ赤になって、何かを後ろ手にした。 ......妙だ。メイドたちは顔を赤らめつつ、チラチラこちらを見ている。 ミゲルは眉根を寄せ、メイドたちが持っている冊子に視線を落とす。まさか、元凶はこれ か?

「見せてくれ」


 彼女たちに手を突きつけ、威圧的に言う。メイドたちは顔を見合わせたのち、おずおずと 冊子を差し出した。冊子を受け取ったミゲルは、ページをくって顔を引きつらせた。その ページには、とんでもない絵が描かれていたのだ。縛り付けられている女と、縛り付けて いる男。明らかにリリアとミゲルに酷似している。ミゲルはメイドたちに冊子を向け、低い声で問うた。


「......これを作ったのはリリア・リヴァルだな?」

 彼女たちはミゲルの威圧感に気おされ、おずおずと頷く。

「は、はい......」

「リリアはどこに?」

「先ほど中庭に......あ、ミゲル様!」


 ミゲルは冊子を閉じて足早に歩き出す。回廊を曲がって歩いていくと、右手に中庭が見え た。陽光に照らされた中庭には、ホワイトローズが咲き誇っている。リリアは白い支柱の 東屋に腰掛け、花々を眺めていた。帽子をかぶって、花を楽しむ彼女は可憐で美しい。

とてもじゃないが、猥本を作って楽しんでいるとは思えない風情だ。ついでに言えば、奇声 を発して男に飛びかかってくるようにも見えない。 ふと、リリアがこちらを向いた。ぱっ、と顔を輝かせた彼女に近づいていく。


「これはなんだ」

 猥本を突きつけたら、リリアはわかりやすく目を泳がせた。

「え......な、なんのことですの?」

「明らかに俺とおまえだろう! なんてものを製造してるんだ」

 リリアは形のいい唇を尖らせた。

「私はみんなに見せようと思ったわけではありませんのよ。夜一人胸に抱きしめ、ハアハアしようと」

 それはそれで大問題である。

「何回も言うが、自分の立場を自覚しろ」

「だって、陛下はユージーンに夢中だもの」


  リリアはそう言って唇を尖らせた。ラウルはまだリリアを抱いていないのか。もしくは抱く気がないのか──。ならなぜ側室 にしたのだろう。ミゲルはその疑問を振り払い、彼女をにらみつけた。

「だからって他の男に擦り寄っていいと思ってるのか」

「擦り寄ってませんわ。妄想だもの」 それを形にするのが問題なのだ。ミゲルは内心そう思う。

「見た人間が信じると思うのか? 疑いをかけられて困るのはおまえだぞ」

「かけられてもいいわ! ひでふっ」

 ミゲルはリリアを突き倒し、冊子を奪い取る。

「ああっ」

「こんなものは燃やしてやる......!」

 懐から出したマッチを擦ると、ぼうっ、と炎が燃え上がる。リリアは慌ててそれを防ごう とした。

「だめえっ!」


 リリアが掴みかかってきたので、慌てて火のついたマッチを捨てる。ミゲルとリリアは、もみ合うよ うにして地面に倒れた。冊子を奪われまいと高く掲げるミゲルに対し、リリアは涙を流し ながら懇願する。


「燃やさないでええ! 一部しかないのおお」

「泣くな! 最近大人しいと思ったらなんなんだおまえは! やることなすこと全部が変だぞ!」

「おかしくなんかないわ、全部がミゲル様への愛よ!」

とにかくこの猥本は燃やさなければ......ミゲルが本を燃やそうとした瞬間、誰かがリリア を抱き寄せた。ばさりと冊子が落ち、彼女が「きゃうっ」と奇声を発する。次いで響いた のは、聞き覚えのある男の声。


「何をしているんです。泣いているじゃないか」

 リリアを抱き寄せていたのは、神父服をまとった男──ルカリアだった。ミゲルはいぶか しみながら彼を見る。

「あんたは......なぜ王宮に?」

「もうすぐベルフィア祭ですからね。王宮内に常駐することになりました」

 彼は挑戦的に言う。神父が教会を空けていいのか──。ミゲルはそう思う。リリアは涙の 浮かんだ瞳で神父を見上げた。


「ベルフィア祭......ってなんだったかしら? 」

「女神ベルフィアを祀る祭事ですよ」

 神父は優しくリリアの目尻を拭う。その仕草にわけもなく苛立った。いきなり出てきてなんなんだこいつは──。

「リリア、こちらへ来い」

 ミゲルが手を差し出すと、彼女は慌てて冊子を拾い上げ、神父の後ろに隠れる。その行動 にまた苛立つ。おまえ、俺を好きだと言ったくせに、なぜ他の男を頼るんだ。 神父はミゲルを睨みつけ、リリアの手を引いた。

「行きましょう、リリアさん」

「え、ええ」


 リリアはミゲルをチラチラ見ながら去っていく。ミゲルは彼らを見送り、舌打ちした。燃 え損ねたマッチの火が、足元でくすぶっている。ミゲルはしゃがみこんで、マッチを摘み 上げた。それが自分自身のように思えて、ため息を漏らす。

「何をしてるんだ、俺は......」


 ☆


 ミゲル様、よほどこの冊子に腹を立てたのね。ものすごく怒っていたわ......。私はルカリア神父に手を引かれながら、ミゲル様のことを考えていた。でも怒るってことは、それだけリ アリティがあるってことよね? 自信がついちゃうわ。これを読んで私への愛に目覚めち ゃったりしてね。にしても、ルカリア様どちらに行かれる気なのかしら。 「あの」と声をかけると、ルカリアはハッとしたように立ち止まった。つないだ手に視線 をやって顔を赤らめ、慌てて手を離す。


「す、すいません」

「いえ。驚きましたわ。神父様が王宮にいらしたなんて」

「私も驚きました。リリアさんはもしや......」

「ええ。私、皇帝陛下の側室になったんです」

「側室に......」

 ルカリアが蜂蜜色の瞳を揺らした。

「それは、おめでとう......と言っていいのかな」

 私はにこっと笑い、「ありがとうございます」と礼を言う。ルカリアは戸惑い気味に私を見 た。

「あなたは、彼を愛しているのかと思っていました」

「愛してますわ、ミゲル様を」

「なのに側室に?」 「陛下が愛しているのはユージーンだけですの。私はおまけですのよ」


 リリアは頬に手を当て、ほうっ、と息を吐く。

「だから私、心おきなくミゲル様を愛することができます」

「彼はあなたをひどく扱うのに」

「ぁん、それはミゲル様の愛ですのよ」

「あなたは......なんて健気なんだ」

 ルカリア神父が眩しそうな眼差しを向けてくる。ふふ、神父様をも感心させる私の愛。なかなかよね?

「だが私は、彼との恋を祝福できないな」

「なぜですの? 道ならぬ恋だから?」

「あなたが苦しむのは見たくない。彼といると発作が起きるでしょう」

「ええ......」


 私はため息を漏らした。側室でいればミゲル様を近くに感じられる。だけど彼には前ほど 近づくことはできないの......。ジレンマだわ★

「苦しいけれど、私を燃え上がらせるのはミゲル様だけなの」

「そう、でしょうか?」

「え?」

きょとんとする私に、ミゲル様は淡々と言う。

「あなたは、他の男性とあまり接触したことがない。だから、彼が......ミゲルが魅力的に 見えるだけではないですか」


 その言葉に、私はむっとした。

「そんなことないわ。ミゲル・ランディ様はとても魅力的な方よ!」

私はルカリア神父を壁際まで追い詰め、顔の横に手をついた。彼はびくりと震えて目を瞬く。

「サラサラストレートの黒髪、よく似合う眼鏡! たまに見せる笑顔の可愛さ! ぶっきら ぼうな中に覗く優しさ!」

「り、リリアさん、近すぎます」


ルカリア神父は耳まで真っ赤になっている。私はそこで、あることに気づいた。......あら? 神父様の 髪の毛が、キラキラと輝いてみえた。正しくは、濃い茶髪に薄い色が混じっているのだ。

「......神父様って、本当は茶髪じゃなくて金髪なんですの?」

「え、ええ......染めているんです。自分の髪色が好きではなくて」

「あら、神父様ならきっと金髪もお似合いになるわ」 彼はピクリと肩を揺らし、上目遣いでこちらを見る。

「......そ、うでしょうか」

「ええ! もちろん」


 元気よく答えると、彼はもじもじしながら尋ねた。

「リリアさんは......金と黒、どちらがお好きですか」

「私は黒ですわ」

ミゲルの髪色を思い浮かべながら、私は答えた。神父様は自分の髪をなで付ける。

「な、なるほど。じゃあ黒に染めてみようかな」

「あら、元の色が一番だわ。それに、神父様の瞳は蜂蜜色。きっと金髪が似合いましてよ」

私が笑顔を向けると、ルカリア神父が真っ赤になった。よく赤くなる方ね。暑いのかしら。



 その夜、寝る支度をしていたら、侍女たちがやってきた。私を見てもじもじしているので、 どうかしたのかと尋ねる。意を決したように足を踏み出したのはマージだ。彼女は泣きそうな顔で頭を下げた。

「も、申し訳ありません、リリア様。ミゲル騎士団長に、リリア様の書いた本が見つかっ てしまって......」

「いいのよ」

私は穏やかに言った。この気持ちは隠しきれないもの。ミゲル様もわかっているはず。10 万字 40×38 行 300 ページ並みの分厚さで、私の愛を感じたはずよ★


「それであの......続きはお書きにならないのですか?」

 マージはもじもじしながら尋ねる。

「ミゲル様と結ばれたあと、二人がどうなったか気になります」

「ふふ......そうね。気が向いたら書こうかしら」

  私の言葉に、侍女たちがきゃーっ、と騒いだ。私ったらまるで売れっ子作家だわ。平安 時代に小説を書いて人気になった人みたい。


 侍女たちは楽しみにしています! と言い、騒ぎながら部屋を出て行った。まさかTL小 説を読みまくった経験が、こんなことに生きるなんてね。この世界って娯楽が少ないし、 小説自体もあんまりないの。特にちょっぴりえっちな小説はね。 私は冊子を抱きしめ、ベッドに寝転がった。表紙に少しシワがついてしまったけれど、伸 ばせば大丈夫よね。

私は冊子を抱きしめて目を閉じた。今夜はこれを抱いて、甘い夢を見るの......。


 翌朝目覚めた私は、朝食をとったあと庭園へ向かおうとしていた。傍らには羊皮紙の束と 筆記用具。ふふ。白亜の東屋で構想を寝るのよ。ますます作家っぽくないかしら? 私は東屋で羊皮紙を広げ、思いついたことを書いていく。こういうの「ネタ出し」ってい うのかしら? 思いつきで書いていくと、どんどん長くなってしまうの。だから最初に、 どんなエピソードを入れるのか考えるのよ。


 まず、どんなシチュエーションならミゲル様に縛ってもらえるか想像するの。束縛は TL で はマスト要素だから。というか私が縛られたいのよね。 意味もなく束縛しても、ストーリーに厚みが出ないわよね。束縛する理由は......やっぱり 嫉妬かしら......。恋のさや当ては基本よね。イケメンを登場させましょう。陛下は......ユ ージーンに悪いし、ハミス様はちょっとプレイボーイ過ぎるわ。誰かいないかしら。私を 一途に愛してくれそうな人......。


 私は視線を動かし、とある人物に目を止めた。

 いた! つる草のアーチの向こう、奥にあるベンチに腰掛けて聖書をめくっているのはルカリア神 父だ。輝くような金髪に、陽光が当たって輝いている。まあ~神父様ったら絵になるわ~。 私はメモを書き付けた羊皮紙をまとめ、彼に近づいていった。

「神父様」

 ルカリアは顔をあげ、優しく微笑んだ。

「おはようございます、リリアさん」


 ぁん、イケメン! もちろん私はミゲル様一筋だけど、ルカリア神父様は新作の当て馬に ぴったりだわ。私は彼の隣に腰掛け、微笑んだ。

「髪、元の色に戻したんですのね。とっても素敵ですわ」

「リリアさんがああおっしゃったから......」

 彼は髪をかきあげ、そう言った。キラキラ輝く金髪は、蜂蜜色の瞳によく似合っている。 地毛だけあって、こちらの方がしっくりしていた。なにより金髪だとイケメン度が上がる わよね。

「よくお似合いだわ!」

「そうかな」


 ルカリア神父は頭の後ろに手をやって照れている。照れる顔も乙女心をくすぐるわ。素晴 らしいモデルね!ふと視線を感じて振り向くと、黒髪の騎士がこちらを見ていた。眼鏡の 奥の瞳は訝しげだ。まあ、ミゲル様! あの目はもしかして、私と神父様の仲の良さに嫉妬してるのかしら。


私はさりげなく神父様に近づいてみた。ミゲル様の眉がぎゅっと寄る。 ほらほらぁ~! これはジェラシーだわ! 焼きもちを妬くミゲル様さいこうハアハア。今 すぐ駆け寄りたいけど、焦らすのも手だわ。落ち着くのよリリア......!


このシュチュエー ションをしっかり目に焼き付けて、新作で描写するの! もはや私の恋は私だけのものじゃ ないんだから。宮廷中の侍女みんなが、私とミゲル様の恋を応援してるの。息が荒くなっ ていく私を、ルカリア神父が心配そうに見る。


「リリアさん、大丈夫ですか? 顔が赤いが......」

「だ、大丈夫、ふぁん」


ルカリア神父が私の額に触れたその時、伸びてきた手が神父の腕を阻む。待ち焦がれた人 が目の前に現れたので、私は思わずにやけそうになった。ミゲル様は眉を寄せ、私たちを 見下ろしている。

「いつもの発作だ。熱なんかない」

「そうとは限らないでしょう」 神父様はミゲル様を睨み上げる。二人の視線が交わって、バチバチと火花を散らした。は あん。私ってばイケメンに挟まれて取り合われてるうう。さすが TL 主人公だわはああん。


 ビクンビクンと震えていたら、ミゲル様が冷たい眼差しを向けてきた。

「気持ちの悪い顔をするな」

「リリアさんは綺麗ですよ」

ルカリア神父が口をはさむ。

「見た目だけはな」

ルカリア神父は懐中時計を取り出し、時間を確かめた。聖書を閉じて立ち上がる。 「そろそろ神官たちと打ち合わせをしないと......ではまた。リリアさん」


「はぁい」


グッジョブだわ、ルカリア神父......。私は理想通りの展開にほくほくしていた。膝の上に 羊皮紙を置いて、インクをつけたペンを走らせる。去っていくルカリア神父を見送り、ミ ゲルが不可解そうな顔をした。

「......あの男、金髪だったか?」

「地毛は金なんですって」

ミゲルは「なるほど」と相槌を打ち、冷たい瞳で私を見下ろす。

「で? あいつとこんなところで何をしていた」

 私は羊皮紙の束をミゲル様に見せた。

「ふふ、私、ミゲル様との愛の記録第二弾を作ろうと思いまして」

「絶対させん」


 ミゲル様は私から羊皮紙を奪い取り、ビリビリに破いた。

「あ──ッ!」


羊皮紙は雪のようにひらひらと舞い、芝生の上に落ちた。私はえぐえぐ泣きながら紙を拾 い上げる。

「うう、せっかくいい縛りシチュを思いついたのにぃ」

ミゲル様はため息をついて目を細める。

「そんなに縛られたいなら縛ってやろうか」

「え?」

彼はタイをほどいて、私の手首をつる草のアーチに縛りつけた。その手つきが乱暴だった のでぞくっとする。

 はうっ、これはマジもんの嫉妬プレイ!? 私はいやいやとかぶりを振る。


「あ、ぁん、ミゲル様っ」

「しばらくそうしてろ。俺も会議に出なきゃならないんだ」


 ミゲル様は冷たく告げて、振り向きもせずに歩いて行った。 やぁん......また放置プレイだわ。こんな人目につくところで、ミゲル様ったら。

私は脳内で妄想を繰り広げる。


薄暗い部屋の中、ベッドの上で縛り付けられた私を冷たく見下ろすミゲル様。


「他の男に媚びを売るからそういうことになるんだ」

「ゆるして、ミゲルさまっ」

 そして愛するがゆえのお仕置きが始まるの......。


 ふふふ。げへへ。私が頰を紅潮させていたら、通りがかった男が怪訝な瞳を向けてきた。 灰色がかった髪の中年男性だ。

「......いったい何をなさっているのかな?」

「え? 愛の束縛を受けてますのよ。ぐふふ」

 男はぐふぐふ笑う私を気味悪げに見て、ミゲル様と同じ方角へ歩いて行った。

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