1 妹の代わりに学校へ
「……大丈夫だよな。」
部屋に置かれた姿見を見ながらオレ、結城貴大は少し不安になる。
薄桃色のサラサラロングのウィッグ、母に特訓してもらった薄い化粧、身に着けるのは女子の制服。
鏡に映る姿は…たぶん、女の子。
自分の姿を見てはっきりと”女の子だ!”って言えるはずもなく、その姿に戸惑いと後悔が募る。
オレは決して、女装趣味の変態野郎ではないと声を大にして言いたい。
そもそもどうしてオレが女装をしているかというと、きっかけはオレの家庭環境にある。
オレには双子の妹がいる。生まれたときから、いや生まれる前からずっと一緒だったオレの片割。どんな時でもずっと一緒で、これからもそうだって思ってた。
……妹が難病にかかるなんて思ってなかったんだ。
妹のみふゆは生まれつき体が弱い子だった。
いつか大人になったらきっとよくなる。そう信じて疑わなかった。
彼女は大きくなるにつれ少しずつ、寝ている時間が増え、ついにはずっと眠ったまま……起きなくなってしまった。
医者がいうには脳死でもなく、ただ眠り続けているだけ……医者にも原因がわからず、回復のメドがまるでなく。ついには匙を投げてしまった。
妹は今も自宅のベッドで眠っている。
オレの母が常に看病をしてくれているが、起きる気配は一切ない。
俺も妹のために何かしたい。
『お兄ちゃん…私、学校にまた通いたいな…』
妹がまだ眠ってしまう前にオレにずっと言っていた言葉。
母がいうには妹の通っている学校も今は休学扱いだが、みふゆの症状をもし、学校が知ってしまうと退学に切り替えれる可能性があるらしい。
俺は彼女の願いと、居場所を守りたい。
起きたときに居場所がなく、辛い思いはさせたくない。
彼女の笑顔を、もう一度大好きだった笑顔が見たい!
オレはそのためだったら、女装でもなんでもやる。
オレは覚悟を決め、母に妹の代わりに学校へいくことをなんとか許可してもらうことが出来た。
化粧の仕方だったり、ブラジャーの付け方なんかを母親に教わる息子。母さんにはホント辛いことをさせてしまったと思う。
オレは姿見を確認しながら、母さんに心の中で謝罪をするのだった。
再度、今着ている制服やスカート、胸元を確認する。
自分自身の精神状態では違和感MAX、でも鏡を確認するとそこには……うん、みふゆにしか見えない。
ーー小さいころだって、たまにみふゆと入れ替わっては両親を驚かせてたっけ。
その時もバレたようなことは一度もなかったはずだ。今回もきっと……ううん、絶対大丈夫だろう。
「オレはみふゆ…ううん、わ、私は結城みふゆ…うん、大丈夫だよな…だよね。」
オレの中でもなんとか、合格点と言える出来にはなったと思う。
オレは何度も確認すると時間が迫っていることに気が付き、慌てて家を飛び出す。
ーーみふゆ、オレ…みふゆのためにがんばるから!
*
オレは重い足取りで学園の前までなんとか到着することができた。
「うわぁ…すごい、ここがみふゆの通う学園かぁ…」
真新しい校舎を前にオレは足を止める。
確か、この学校ってオレ達が生まれた後にできたって聞いてたっけ。
オレは周りの制服の女の子たちと自分の恰好を見比べる。
ーーオレの恰好変じゃないよな・・・?
周りからチラチラとオレの事を見る視線にまた不安が募る。
きっと大丈夫…見た目だけであれば、俺はみふゆそっくりなんだからバレるはずがない…
校門に足を踏み入れると、やはりそこは敵地と言っても過言ではないだろう。
緊張で足が震える。
もし、バレたらきっと妹は悲しむだろう。
それはきっと自分の事でなく、自分がオレにさせてしまったことに対して嘆くだろう。そこは双子なので、なんとなくわかってしまう。
ーー絶対にそれだけは避けなくちゃ…!
オレは一歩、一歩校舎に向かい歩みはじめるのだった。